2羽目 浮遊島
「そういうことか…」
頭に乗った氷の袋をとり、ゆっくりと上半身を起こす。
突然高熱を出して倒れた俺は今自室のベッドで寝かされていた。
思い出したのだ。
俺がこの世界に産まれた理由とやらを、まぁ思い出したところであまり良いことはないがな。
神様の言ってた通り、天羽族に転生した。みんなと違って翼は黒色だが。
まだ少し痛む頭を押さえながらベットから下りる。
前世での記憶がまだ入り乱れてるからか自分の背の低さに少し驚くが、まぁ今までの記憶がないわけじゃないしすぐ慣れるだろう。
ドアを開いて母親のいる部屋へと向かう。もう大丈夫なのを伝えたい。
「母さま〜?」
「あらウル!!もう起きて大丈夫なの!?」
いきなり倒れただけあって心配させてしまったみたいだ。
「うん!もう大丈夫!」
母さんの前でくるくると回ってみせる。実のところちょっと気持ち悪い。
その様子をみた母さまは優しげな微笑みを浮かべて俺の頭を撫でる。
「ふん!死ななくて良かったのう!ただでさえ子供が少ないのにこれ以上死なれちゃ困るわ!」
「あ、おばあさま!」
相変わらず辛い口調で言ってくる祖母の前ににこにこと駆け寄る。実際優しいのは知ってる。
「お主は〝色付き〟なのじゃ、自分の立場を重んじるのじゃよ」
母さまの優しい手つきとは違いわしゃわしゃと頭を撫でられる。
色付きとは、基準の白以外に色がついた羽のことだ。
天羽族は産まれてすぐに“風を操る”能力を受け持つ。
それほど、強くはないがな。
それに色付きの場合は自分の羽の色に対応した属性が与えられる。
俺の場合は闇だな。
人間族達でも普通は二属性持ちが普通らしいんだが、なんせ下級種族の為に二属性持ちでも重宝される。
「…はい。わかってますよ。おばあさま」
「ならいいのじゃ」
頭から手を離し、祖母は背中を向け、自室へと戻って行く。
ちなみに祖母や母は背中に羽が生えていない、というか隠している。
俺はまだ5歳なので羽の出し入れができないが、出来る様になって、一人前とされるのだ。
母さまは「昼ご飯を作るわね」と言って台所へと向かう。
その母さまの背に外へ遊びに行く旨を伝え、了承を得るとドアへと向かう。
ドアを開けようと手を伸ばした瞬間
「兄さま!!」
とんっと背中に柔らかい衝撃を受ける。
「リィア…」
「お身体は平気ですの?」
俺より背が低い為に、少し上目遣いでこちらを見つめる。
背中に水色の翼を生やしたこの少女は、俺の妹のリィア。
俺とは似ても似つかない水色の髪を下でツインテールにしている。
「大分良くなったよ」
「良かったです!お兄さま出かけるんですか?」
「うん、散歩にね」
その言葉を聞いた瞬間、リィアの目が大きく開かれる。
と、今度はキッとこっちを睨みつけたかと思うと背中に回した手に力を込めー
「痛い痛い痛い!」
「めっ!です、お兄さま!お兄さまは病み上がりなのです!!」
「だ、大丈夫だよ!じゃ、行ってくるね!」
「あ!」
無理やりリィアの拘束を抜け出し足早に木の影に隠れる。
リィアが探しに出て来て諦めたところで一息つき、足早に奥へと進む。
目指すは西、ちょっと確認しておきたいことがあるのだ。
そして少し歩くと、端へと着く。
実は俺の住んでいる所は“島”なのだ。
隔離された島、俺の家系の先祖が長年努力を惜しまず作り上げた“浮遊する島”。
このことを知るのは恐らく天羽族だけだろう、まぁ天羽族全員がいるわけではないがな。
母には端には行くなと言われていたが、ま、大丈夫だろう。うん。
しゃがみ込み、下を覗き込む。
すると眼下に広がる広大な緑、緑、緑。
「うわぁ…」
思わず声が出る、別に高くて怖いとかじゃなく、ただ単に何もなくて驚いたのだ。
違うよ?高くて怖いわけじゃないよ?…そ、それって俺らにとっちゃ致命傷だし…?
…まぁそれはおいとこう。
浮遊島なのである程度移動するが、王都の近くには滅多に行かない。
王都などの栄えた年では美しい天羽族の羽がよく売れる。
見つかればどうなるか分からない所にいちいち近づいたりはしない、まぁ例外もあるらしいけど。
羽が無くなった天羽族がどうなるか分からないが、大体の予想はつく。
(でも王都に行きたいしな〜…羽が隠せるようになってある程度力がつけば説得してみるか)
口角を上げ、楽しげに微笑む。
…折角産まれ変わったんだ、楽しみたいしね。
あ、でも面倒いのは勘弁。