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073 総帥は今日も悩む

2015. 11. 15

いつも通り、今日も仕事を始めたオルバルトだが、次第に落ち着きを失くしていく。ふとした毎に、机を何度も手にしたペンの先で叩き、もうかれこれ三時間程続いていた。


「総帥……集中してください」

「うっ、気になるのだから仕方がないだろうっ」

「私にはその音の方が気になります」

「っ……」


普段のペースならば終わっている筈の仕事が、未だ半分も進んでいない事に気付いた氷坂は、鋭い視線をオルバルトへと一瞬向ける。


「今回で、あの子が首を縦に振らなければ、きっぱりと諦めて候補者の選定をしていただく約束ですよ」

「わ、わ、分かっているっ……」

「……はぁ……まぁ、あの二人ならば、上手くやるでしょう。なんだかんだ言っても、兄妹ですからね」


兄妹というのは、拓海と明良の事だ。そして、彼ら二人は今、トゥルーベルへと出向き、理修にとある交渉をしに行っている。


「今まで空席にし続けたんですから、そう急がれる事もないと思いますけれどね」

「いや、今までが異常だったのだ。ジェスラートのやつ……さっさと音を上げれば良いものをっ」

「聞こえますよ」

「ふんっ、知った事か。あの強がりめ」


理修への交渉。その内容は、長く放置していた大切な役目の任命だ。


地球の存在する次元では、異世界の者が下手に干渉しないよう、結界を張って管理している。


それを担うのが、五人の魔女達だ。その膨大な魔力と知識によって、この次元を守護してきた。


だが、あの聖女ミーナの干渉の折、その結界に穴を開け、手引きした魔女が一人いた。その一人は、リュートリールの絶大な力を妬んでいたと後で判明している。


リュートリールが死んだと知ったその魔女は、出来心でやったこととはいえ、その行いを恥じ、自ら命を絶っていた。


これにより、守護の魔女の席が、一席空いてしまったのである。


それでも今まで、残る四人の魔女達で負担し、何とか済ませていた。しかし、やはり無理があったのだ。そこで、理修が候補に上がった。


「守護の魔女になれば、定期的にこちらへも来てもらわなくてはなりません。結婚して既に十数年と経ちましたが、最近は、一時でもあの世界から離れませんからね」

「そうなのだっ。あの頑固者!少々こちらに顔を見せるだけではないかっ」


理修は結婚して、トゥルーベルへと居を移していた。その上、理修の両親である義久と充花も、トゥルーベルにあるリュートリールの屋敷に住むようになった。


兄弟である拓海と明良は、大学を卒業するまでに理修から魔術を教わり、シャドーフィールドに就職を決めた。


その為、二人は地球で暮らしているが、週末には実家に帰ると言って、トゥルーベルの両親の元へと次元を渡るのだ。


「あの二人も、今や立派にリュートリール様のお孫さんと言えますし、リズちゃんを頷かせる事も出来るのではないかと思いますよ」


一癖も二癖も、それ以上もあるリュートリールの孫。その血はしっかりと引き継がれていると、ここ十年程で理解できていた。


「まぁ……根回しとか……見た目はそう見えないのに、計算高い所はそっくりだ……」

「二人とも、企業に引っ張りだこですからね」


派遣事業部所属である拓海と明良は、どんな企業でもそつなく仕事をこなし、その能力の高さも評価され、重宝されている。


「やっぱり、リズの兄弟だな……」

「ええ。ですから、あの二人でダメならば、誰が行ってもダメです。諦めてくださいね」

「くっ……」


オルバルトが諦めきれない理由は簡単だ。ただ、理修と会えなくなった事が不満なのだ。


「あの二人でダメならばっ、私が自ら行くまでだっ!」

「……どれだけ必死ですか……」


理修へのオルバルトの親心は本物であり、とてもうっとおしい程、重くしつこいのだった。


◆ ◆ ◆


オルバルトが、ダメダメな決意をしている丁度その時。


「この辺な気がするんだがな」

「そうだな……多分、あの辺りに……っ、居たっ」


ユウキを国へと送り届けた拓海と明良は、その足で、サンドリュークへと向かった。


「ウィル兄さんっ」


向かったは向かったのだが、二人は、理修への交渉の札を得る為、その間にある森へと足を踏み入れていた。


そして、切り札と成り得るウィルバートを見つけたのである。

読んでくださりありがとうございます◎



リズちゃんまでいけませんでした……総帥のせいです。

心配性が、おかしな執着を見せるようになってしまったよう……。

親代わりを主張できなくなったからでしょうか。

次こそはリズちゃんを。



では次回、また来週(日曜日0時頃)です。

よろしくお願いします◎

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