表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/80

006 この世界の魔族

理修は銀次に待機指示を出すと、この世界の魔族が住む大陸を見にやってきた。


杖に乗り、飛行をする事暫し。


人族の住む大陸と、彼らが魔族と呼ぶ亜人種の住む大陸とは、完全に海で隔てられていた。港の様子を見るに、殆ど交流もないのだろうと分かる。


そして、上空から見れば今回の諍いの種は一目瞭然だった。


圧倒的に亜人種の大陸が豊かなのだ。それは、単に土地の恩恵の問題ではない。


建築技術。農水産業。治水対策まで、はっきり言って、人族の数世代先の発展を遂げていた。


「これは、完全に人族の言い掛かりかな……こっちは戦の気配もしない……」


人族の大陸では、そこかしこに戦場の痕があった。廃れた村や街も数知れない。しかし、こちらの大陸には、争いの気配が全くと言って良い程感じられない。


忙しなく歩き回る者達。活気のある商店街。子ども達の笑う声。よく統治されている。


この大陸の王は、どこいにいるのだろうと気配を探った。これだけの亜人種。統括する者は、それなり以上の実力者のはずだ。暫く気配を探る。


「……っ見つけた。これは……ドラゴン……?」


独特の波長を感知し、それが、神殿の様な造りの中にあると気付く。ゆっくりと、神殿前に降下すると兵士が二人、向かってきた。


大きな蜥蜴の姿。リザードマンだ。


《何者だっ!》

「失礼いたします。私はリズリール。世界を渡る魔術師です」


丁寧に挨拶をすると、兵士達は、何を言っているんだと不信顔だ。その時、神殿の方から声が響いた。


「お前たち、お下がりなさい」


それは、獣人族の少女だった。


「『渡架の魔女』様。王がお会いになります。

こちらへどうぞ」


理修は、その呼び名に苦笑しながら、固まる兵士達の間をすり抜け、神殿の階段を登った。


『王の間』だと言われ、通された先には巨大な赤いドラゴンが鎮座していた。


《よぅ来られた、魔女殿。わたしは、ハルバール》


見た目を裏切る落ち着いた声音で挨拶をされ『おや?』と思った。


「リズリールと申します。突然押しかけて申し訳ありません」


頭を下げて謝罪すると、ハルバールは、優しく目を細めた。


《いいえ。噂に聞くあなた様に会えるとは、嬉しい限り》

「……どんな噂か気になりますが……」


理修以外にも、当然、次元を渡れる者はいる。理修も数人顔を合わせた事があるのだ。それらが、この次元に立ち寄った時に話したのだろう。それが、理修が人であるのにも関わらず警戒しなかった理由であり、魔女としての呼び名を知っていた理由だ。


《はっはっはっ。して、どの様な御用件でしょうか?》


理修は、人族の動きについて『勇者召喚』も交え話した。


《成る程。そのご友人には、ご迷惑をお掛けした》

「構いません。あれはもう、一種の病気の様なものだと割り切っておりますから」


何気に酷い事を言う理修は、次に表情を曇らせる。


「ただ、あれを連れ帰ったとしても、また新たな『勇者』が来るかもしれません……十分に対策はするつもりですが、人の欲は際限がありませんからね」

《そうですか……我らとしては、人と共存出来ればと思っていたのですが……仕方がありません……結界を張り、国を閉ざしましょう。幸い、この大陸で自給自足はできます。要らぬ争いよりは良い》


すでに考えていた事だったのだろう。ハルバールの決断は早かった。それに笑みを浮かべ、理修は提案する。


「賢明なご判断です。ならば、結界は私が張りましょう」

《なんとっ。そのようなお手間をっ……》


驚きに目を見張るハルバールに、イタズラを思い付いた様な無邪気な笑みを見せ、決意した。


「人として、責任をとらせてください。それに、貴方から空を奪いたくはありません。私に任せてください。明日、またこの時間に参ります」


そう言って、一時、銀次の待つ城へ戻るのだった。


◆ ◇ ◆


「早く帰ろうぜ」

「うん? 私は、時間切れだから帰るけど、銀次はもう一日残ってね」

「ええっ?!」


何でだ、と目を見開く銀次に追い打ちをかけるように仕事を与える。


「この国に魔族側への認識を確認したい。事によっては、酌量の余地を考える」

「まてまてっ、お前はこの国をどうするつもりなんだ!?」


不穏な空気を感じた銀次は、まさか国ごと吹っ飛ばすのではないかと戦慄する。それに対して、理修は微笑む。だか、瞳の奥に宿る冷徹な光を、銀次は見逃さなかった。


「ふふっ、いつも通りよ? 『勇者召喚』の術に関する資料を全て消し、今回関わった術者にはきっちり脅しつけておく。それから、この大陸を覆う結界を張る」

「結界?魔族から守る為か」

「違う。守るんじゃなく、閉じ込める」

「は?」


そう、あのドラゴンや亜人種から、空を奪う気はない。何より、この次元の人族の技術では、空を飛ぶ事などできないはずだ。魔術師達のレベルも、たかが知れていた。理修の様に飛ぶ事など出来ない様だ。ならばいっその事、下手に手出しができないように、人族の方を閉じ込めてしまえば良いと言うのだ。


「……それは、まるで終身刑だな……」

「まぁ、事実そうなるかな。奪う事しか出来ないなら、いっそ滅びてしまえば良い」

「……理修……ダダ漏れだぞ……お前って、前から思ってたが、魔族を一方的に敵視してる奴らとかに容赦ないよな……」


銀次は、過去のあれやこれやを思い出して気付いた。


「……そう?多少は、私情が入ってるかもね。でも、私が人である事も忘れてないから、大丈夫よ」


その言葉に銀次が首を傾げ、口を開こうとしたのを見て、理修はすかさず背を向けた。これ以上の詮索をさせる気はない。


「さて、それじゃぁ、明日ね。課題を忘れずに」

「っ……お待ちしてます……」


前書きなくします。


次回は、弟が登場。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ