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053 不安な気配

2015. 6. 28

理修とジェスラートが、神殿の奥でミリアと対峙した頃、司はゴブリンと戦いながら、ミリアの姿を探していた。


振り切るつもりで走っては来たが、ミリアが司を追う為に、遅れて家を出たのには気付いていたのだ。しかし今、近くにミリアの気配が感じられない。


「くそっ」


司は、確実にゴブリンを減らしながら苛立ちと焦りを募らせていった。


その時、ふっと空が陰った。反射的に見上げた先には、ドラゴンより小さな飛竜が数頭。そして、そこから飛び降りて来る人影が見えた。


「司。遅くなった」


そう言って、空から飛び降りて来たのはウィルバートだった。


「いえ。あの、ウィル様。ミリアを……聖女を見ませんでしたか?」


司は、空から来たウィルバートならばもしかしたら姿を見ているのではないかと思ったのだ。


「いや。見ていない。少し待て……あの娘ならば、リズと居るようだ。それに……これは律界の魔女殿か」

「律界……ジェス姐さんがっ⁉︎」


ジェスラートの二つ名を聞いて、司は事態の異常さを感じた。


「一体何が……」


地球のある次元を守護する、守護の魔女だと言うジェスラートまでもが駆け付ける理由。それが何なのかと不安にかられる。


ウィルバートはなおも気配を探っているらしく、思案顔を続けていた。それを見守る司の後ろでは、ウィルバートと共に駆け付けた魔族の兵達が、次々に森から湧いて出てくるゴブリンを、確実に葬っていた。


その様子をチラリと一瞬確認したウィルバートは、兵達に一言だけ告げる。


「ここより先に行かせるな」

「「「はっ」」」


ウィルバートの言葉に、兵士達は一瞬のブレもない返事を返し、ゴブリンへと突撃していった。


司も、ミリアが理修と共にいるならば問題ないだろうと再び戦闘に戻る。しかし、ウィルバートは思案顔のまま動かなかった。


(なんだ……この妙な気配は……)


司が気にしていたミリアの気配を改めて確認する。ウィルバートは、一度出会った者の気配は忘れない。だから、間違えではないはずだ。しかし、それがともすれば消えてしまうような、そんな不確かな気配になっていた為に、確信が持てなかった。


ウィルバートは更に集中すると、気配だけで理修達の状況を読む。それで分かったのは、理修と律界の魔女であるジェスラートが、ミリアと呼ばれる聖女と対峙しているという事だ。


そこでようやくミリアに対する違和感の正体に気づく。ウィルバートは険しい表情で、あいつかと低く呟いた。


それは、リュートリールの仇。この場に来る前に感じたその気配が、ミリアを覆っているようなのだ。


「気を付けてくれよ……」


ウィルバートは、理修の気配がある方向へと一度目を向けてそう呟いくと、ゴブリンとの戦闘へ加わるべく、森へと足を向けるのだった。


◆ ◆ ◆


その男達は、三人で森へと狩りに出掛けていた。数日間、狩りを続けても殆ど成果が上がらない事で諦め、ダグストへと帰るところだったのだが、故郷へと足を進める前に、その地響きにも似た音を聞き、青ざめた。


「ご、ゴブリンっ⁉︎」

「な、なんでだ?ここは魔族の森じゃねぇぞ!」

「来るぞ!逃げろっ‼︎」


男達には、ゴブリンは魔族なのだという認識だった。一般的な魔獣よりも、意思が感じられるゴブリンは、ダグストの人々にとっては、姿も知らない魔族と同じ存在でしかなかった。どちらも思考し、恐ろしい生き物という認識なのだ。


男達は必死で逃げた。


広い森だ。ダグストまではまだ遠い。そうして半日、森を彷徨うように、ゴブリンに追いつかれないように走り続けた。


木々の間から、ダグストの高い外壁が見え始める。しかしその時、もうすぐだと、気を抜いたのがいけなかった。


「うっ」


一人の男の後頭部に、何かが当たった。そして、彼はそのまま気を失ってしまう。


「お、おい」

「あぁ……ゴブリンだ……っ」


飛んできたそれは、太い木の枝だった。ゴブリンが投げたそれに、男の一人は運悪く当たったらしい。投げたゴブリンの姿は見えない。存在を気付かれ、獲物と認識されたわけではないようだ。


「ここに隠れよう」


幸い、気絶しているだけのようで、仲間の男は、すぐに気付くだろうと、二人は判断した。二人も、ここまで走り続けた為に、そろそろ体力が限界だったのだ。


「そうだな。少し休もう……」


遠くで、地鳴りのようなゴブリン達の足音が聞こえている。それが到着するまでには、まだ時間があるはずだ。


「町に着いたら、どうする?」

「どうするってお前……」


二人は押し黙る。町に着いた所で、対応できる兵士の数はそれほどいない。魔族を否定するダグストには、冒険者ギルドもなく、戦える者がほとんどいないのが実情だ。


町を守るのは、教会が抱える兵士だけ。とても地響きを上げるほどの大群を相手にできる数ではなかった。


「教会の連中がこのことを知れば、兵士達を連れて逃げかねないんじゃないのか?」

「た、確かに……」


何年か前から、ダグストの国民は、教会や国に不信感を持っていた。もちろん、あからさまに避けたり、教会に行かないという事はない。神は信じているのだ。


「逃げよう」

「なに?」

「家族達を迎えに行って、他の国へ向かおう。冒険者のいる町まで逃げられれば、俺たちは助かる」


教会や国が冒険者を受け入れないのは、異種族である魔族や、エルフといった者達を国に入れたくないからだ。


ダグストの者達にとって、魔族は敵であり、その魔族のような異種族を受け入れる冒険者ギルドは、異質なものでしかなかった。


「勇者でさえ、魔族は倒せなかったんだろ?なら、逃げるしかねぇ」

「たな。ん?誰だあれ……?」


二人が国を捨てて逃げると心を決めた時、一人の少年が駆けていくのが見えた。それも、ゴブリン達が来る方向へだ。


「あっ、危なっ……」


二人は、危ないぞと警告しようとしたのだが、少年の足の速さは尋常ではなく、間に合わなかった。


その時、気絶していた男が目を覚ました。


「ん……っ……俺は……」


何がどうなったのか、その男には分からなかった。鈍い頭の痛みに、辛うじて何かが当たったのだと思い出す。


「大丈夫か?」

「お、おぉ……」

「なぁ、お前らは先に帰って国を出ろ。俺は、さっきの坊主を見てくる」


男の一人が、少年の消えた方向へと視線を固定したまま、険しい表情で言った。


「待てよ。お前一人を置いていくなんて、後味が悪いだろう。俺も行く」

「……分かった。行こう」


二人の男達は、その少年に何かを感じていた。それが何かは分からない。しかし、行かなくてはならないような気がするのだ。


「おい……一体、なんの話だ?」


気絶していた男には、当然意味がわからない。二人は、少年が今、ゴブリンの方へとむかっていったのだと説明すると、正義感のあるその男は、それならば、早く連れ戻さなくてはと思った。


「よし、ならいくぞ」


こうして、三人の男達は、恐る恐るゴブリン達の向かってくる方向へと少年を探して歩き始めたのだった。


読んでくださりありがとうございます◎


ウィル様参戦。

魔族の方々もいますから、すぐに片付くでしょう。

気掛かりなのはリズちゃんの方。

じぃちゃんの仇とは?



では次回、また来週です。

よろしくお願いします◎

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