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047 封印が解ける時

2015. 5. 17

理修は、飛び出すようにトゥルーベルの屋敷の地下から続くドアを開けた。


「リズ様。お帰りなさいませ」


家令のリディアルは、焦る理修にも驚かず、いつも通り出迎える。


「ごめん、リディ。急いでるの」

「はい。では先ず、ウィル様にご連絡なされるべきです」

「え、ウィ、あ……いや、だけど……」

「なさるべきです」

「……はい……」


こんな時のリディアルの言葉には意味がある。予言とも取れる程、リディアルのアドバイスは正確で必然性を持っているのだ。


理修はすぐに通信具であるオーヴをポケットから取り出す。そして、魔力を流し、反応を待った。すると、ほとんど間を置かず、反応が返って来た。


『リズ?』

「あ、ウィル……ずっと連絡出来なくてごめん」

『いや……』

「あのね……」


地球とは違い、電話がない環境で生活してきたウィルバートはもちろんだが、理修も『恋人相手に電話する』と言う事に慣れていない。お互い、照れ臭くて何を話せば良いのか分からなくなってしまう。


「えっと……」

「リズ様。急いでいらした理由をお話しされませ」

「え、あ……そうね。ウィル。あのね、司がダグストに召喚されたらしいの。それで、それと一緒に……」


家族がと言おうとして、言葉に詰まる。ウィルバートは理修が母親と上手くいっていないのも知っている。それを今まで理修は、散々どうでもいいと言ってきた。家族とは分かり合えないのだと覚悟し、婚約を機に、決別する事までほのめかせていたのだ。『今更』そう思うと、言葉にならなかった。だが、ウィルバートが、そんな理修の様子に気付かない筈もない。


『大丈夫だ。分かっている。今、共にいるんだ』

「え……」


声だけで全てを察してくれるウィルバートに感動する暇もなく、自分の耳を疑った。


「え、ま、待って。今、何て言ったの?」


動揺せずにはいられない。ウィルバートが傍にいるなら安心だと思うのと同時に、紹介する前に出会ってしまったと言う事に焦る。


「いや、え?父さん達と会ったのっ?」

『ドアを隔てた向こうにいる』

「うそ……」


そして、理修は次の瞬間、屋敷を飛び出すのだった。


◆ ◆ ◆


ウィルバートは、通信の切れたオーヴをしばらく見つめた後、胸の内ポケットに大切にしまい込んだ。それから、ゆっくりとドアを開ける。


「あ、ウィルさん。電話終わったの?」

「でん……あ、あぁ……」


そろそろ出発しようかと考えていた所に、通信具の反応があったのだ。もう、いつでも出発できると用意を整えた司達が、席を立とうとするのを、ウィルバートは苦笑しながら止める。


「悪いんだが、もう少し待ってくれ」

「なんで?」


明良が理由を訊ねるが、ウィルバートは、素直に言うべきか迷った。


「ウィル様。もしかして、理修ですか?」

「理修?」

「ああ。今、向かっている。エヴィも喚ばれたようだからな……あと数分だ」

「いや、屋敷からここまで、かなり距離ありすよね?」

「……あるな……」


司には予想できた。だが、その速度は、相当、気持ちが昂ぶっている時に出すものだ。


「……そう言う事……なんですね……」

「そう言う事だ……ただ、怒りからではないから心配いらない……はずだ」


ウィルバートにも、こればかりは分からない。


「大丈夫ですよねっ?いきなりダグストが更地になるとか。ないですよねっ?」

「……あぁ……っ大丈夫だ。その為にも、速い方が良い。時間をかければ、考える時間ができてしまうからな……」


予想していなかった家族への挨拶。その機会が出来てしまった事による動揺。その為の昂ぶりだ。だが、考えようによっては、召喚したダグストがそもそもの原因なのだ。そこを突き詰めてしまったら危ない。


「このまま、何事もなく、最速で辿り着いてくれれば問題はない……っなんだ?」

「ッこれはっ……」


その時、ウィルバートと司は、突如として現れた巨大な魔力を感じ取った。そして、聖女ミリアが震えながら外へ飛び出す。


「そんな……まさか……っ」

「っミリア」

「なに?なんなの?」


地球組は全く状況が分からなかった。だが、ミリアに釣られて、外を覗いた時、あり得ないものを見て固まった。


「な、なんだよ……アレ……」

「黒い……巨人……」


それは、真っ直ぐにこの森を見つめているようだった。


◆ ◆ ◆


理修がトゥルーベルへと辿り着いた丁度その時、ダグストの神殿では、恐ろしい魔術が発動しようとしていた。


「歴代の聖女の血。これにより、我らの守護神がお目覚めになる」


何人もの神官が手に捧げ持つのは、歴代の聖女として生きた者達の血を冷凍したものだ。勇者召喚の術は、とても危険な強力な術。その為、失敗し、命を落とした聖女は数知れない。そんな聖女達の血を、彼らは保管していたのだ。


「お目覚めください。我らの守護神。黒き魔人よ!」


そして、これが長く封印されていた異界の魔人を目覚めさせる鍵となる。


「魔族を!忌まわしき魔獣を追い払い、我らが受けるべき恵みを今!!」


強い意志と深い業が、今、その封印を解いたのだった。


読んでくださりありがとうございます◎


『娘さんをください』

これって、定番ですが、相当勇気がいるんじゃないかと思うんです。

男の人はもちろん、隣りで聞く女の方も、結構なプレッシャーを感じるのでは?

何よりも恥ずかしいっ。

ゾクゾクって来そうですよね。

立ち会う家族もです。

心の準備を全くしていなかったリズちゃん的には、動揺せずにはいられません。

そして、そんな重要な局面の手前で、魔人の復活。

これは救われたと言った方が良いのでしょうか?

それとも、新たなる地獄の幕開け?



では次回、また来週です。

よろしくお願いします◎

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