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004 学校とアルバイト

少し変わっているのかもしれません

自宅から、徒歩三十分の公立高校。


理修は、この春から入学した一年生だ。ちなみに、兄の拓海がニ年生。早生まれの明良が、理修と同じ一年生として一緒に通っている。


「おはよっ、理修っ」

「おはよう、奈々。今日はちょっと早いんじゃない?」


いつもは、後十五分はしないと来ないクラスメイトに、何かあるなと感じながらも挨拶をする。


「えへへ。理修ぅ、宿題みせてっ」

「……だと思ったよ……良いけど、同じ問題、昼の放課にできるか見るから、逃げないように」

「ぅええぇぇぇっ……」


提出に間に合わないからと写す事は譲歩してやるが、やらないまま終わらせる気はない。


「理修って、変だよね……」

「何が?」


どこが変なのかと、首を傾げる。


「何がって、普通、見せて終わりじゃん?何かお礼を要求されるならまだしも、勉強を見てくれるって……ないよ?」


苦笑する奈々に、そう言うものなのかと思いながらも、そう言えば、なぜかは話した事がなかったなと、こちらの意見を述べてみることにした。


「だって、必要な事でしょ?これを写す事によって、奈々は、この後の授業についていけなくなる可能性があるんだよ?いつか『あの時やっとけば……』って思うのと同時に、私のノートを写したってのが思い出されるの。何かそれって、私のせいみたいじゃない?」

「……もしかして、これって理修の為……?」

「もちろんっ」


胸を張って言ってやった。


答えや、他人のノートを写す行為によって出る影響は、自己責任ではあるが、人は責任転嫁が得意だ。それこそ、小さな子どもでもやっているくらい。簡単で、たいして痛みも伴わない。


「『自分の行動に、常に責任を持て』って言うのが、亡くなった祖父の教えの一つなの」

「へぇぇ……厳しいおじいちゃんだったんだねぇ……」

「そんな事ないよ?」

「はい?」


祖父は、魔術師としての力ある者の心得を説いていただけだ。その行動が、誰に何にどんな影響を及ぼすか、常に想定し行動しろと言うこと。


「これって常識じゃない?ある人には、これが出来るかどうかが、大人と子どもの違いだって言われたよ?」

「真面目過ぎだよ……でも、わかった。ちゃんとやってみる。分かんなかったら教えてくれるんでしょ?」

「もちろん」


こんな感じで、友人関係はいたって良好だ。


◆ ◇ ◆


一日の授業が終わると、理修はアルバイトに向かう。


平日、一日おきの月、水、金のみのバイトは、こちらの世界の異能者が集う組織での事務仕事だ。


表向きは、世界でもトップクラスの人材派遣会社。


『シャドーフィールド』


要人の護衛から、探偵の真似事まで、何でも請け負うこの会社は、全員が特殊な能力者達で構成されている。その為、人数はそう多くはない。少数精鋭で成り立っているのだ。


街中にある立派な自社ビルに入ると、今日も忙しなく走り回る人々の光景が広がっていた。


「あっ、待ってたよぉ理修ちゃんっ」


担当階へと向かう途中で、息を急ききって突撃してくる同僚に、反射的に逃げそうになった。


「いやぁっ、逃げないでっ。厄介事ではあるけど、逃げちゃいやぁっ」


いつもは、研究室に籠りっきりのはずの『彼』が、突撃してきた時点で身構えるより先に逃亡したくなるのは、仕方のない防衛行動だ。


ボコボコと波打つ筋肉は彫刻のように美しく。お化粧も暑くなりすぎない肌を重視したもの。仕草だって女らしいのだが、間違いなく彼は男だ。


近づくと、とにかく圧迫感が凄い。


「うっうっ……だって、私のモルモッ……っギンちゃんが、また持ってかれちゃったんだもんっ……」

「はぁ……モルモット……またですか……」

「っ、やだもぉ……モルモットだなんて……」


なぜ頬を赤らめているのか。否定はしなかった。


「もぅもぅっ、からかっちゃいやんっ。良いから早く、オババの所に行って来て」

「……わかりました……」


理修はこれ以上側にいるよりはと、早足でエレベーターへと向かうのだった。


◆ ◇ ◆


地下五階。


ここに、皆が『オババ』と呼ぶ魔女が住んでいる。地下のはずなのに、エレベーターから降りてすぐの扉を開けると、そこには草原が広がっており、見上げれば空は青く、澄み切った清らかな風が大地を駆ける。


頭を上げれば、少し先にある小さなレンガ造りの家が見える。そこが魔女の住処だ。


『お入り』


ドアの前に立つと同時に、中から声が響いた。


「失礼します」


ドアを開けて躊躇いなく、中へと入る。


「今日は、どうしたんだい」


そこには、大きく豪華なソファに寝転び、キセルをくわえる美女がいた。


「勇者が拉致らました」


その一言で、全てを察した美女は、堪らず笑い転げた。


「っくっははははっ……っ、これで何度目だいっ!? あの坊やも人気者だねぇ。さすがはここの社員だっ」


理修も苦笑を浮かべるしかない。


「まったく、仕方が無いねぇ。すぐに居場所を特定しよう。待っといで」


そう言ってオババが、隣りの部屋へと消えていくのを、大人しく見送るのだった。


次は、勇者の登場

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