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031 魔女の微笑み

2015. 1. 25

《触れるな》

「ぇ……っ!?」


母は、砂の様に崩れ去ったブレスレットの残骸に手を伸ばそうとしていた。


《まだ力の残滓が残っている。触れるな》


そう忠告するエヴィが、右肩に着地する。そのまま、黒い獣が消えた壁へと向かうと、そこには、投げたフォークが根元まで突き刺さっていた。そしてその上に、小さな青い魔法陣が焼き付いているのを見る。


《主に喧嘩を売るとは、愚か者め》

「…………」

《主?どうされた?》

「うん……結界まで揺らされた……それにこの魔法陣……私が知らない物みたい」

《主が知らぬ?それは……》


エヴィの不安が感じられ、落ち着けと小さな頭を撫でる。


「……っ……」


その時、ある人が庭に降り立った気配を感じて眉をひそめた。


《お客か?》


その気配にエヴィも気づく。理修が振り返るより早く、その人は声をかけてきた。


「なんだ。相手は影だったのか」

「ジェス姉……上がるなら玄関から……土足もやめてください……」

「気にするな」

「…………」

(この人は……)


構わずズカズカと窓から入って来た『ジェス姉』は、理修の呆れた顔も気にせず、母の目の前に立ち、ブレスレットをはめていた方の手を取った。


「な、何を……っ」

「ふぅん。さすがは、リュートリールの守護術。火傷程度で済むとはな。仮にもお前の結界を揺らしたんだろ?」


『ジェス姉』は、母の火傷の上に手を翳す。


「じい様の最期の術です。簡単には破られませんよ」


そう憮然として言えば、楽しそうに笑って母の手を離した。


「機嫌が悪いな?せっかく心配して来てやったんだぞ?お茶でも出さないか?」

「会議を抜けて来たでしょう……私が叱られるんですよ?」

「ふははっ。よく分かったなぁ。ブッチしてやったぜ」

「…………」


週に一度の会議をサボりたくて仕方がない『ジェス姉』ことジェスラートは、実は魔女連の代表だ。


「……お茶より、こちらの方が好みでしょう」


そう言って、理修は取り出した紙に、壁に焼き付いていた魔法陣を移し、ジェスラートに投げて渡した。母の傷を癒してくれたお礼代りだ。


「ふっ、お前が解析したいんじゃないのか?」


それを受け取り、眺めながら言うジェスラートに、溜め息混じりで答える。


「仕事が溜まってるんです。これ以上抱えると、総帥に何を言われるか……」


ただでさえ、今はトゥルーベルの問題で頭が痛いのだ。地球の問題を幾つも抱えられない。


「成る程な。だが、まぁアレも心配していたぞ?」

「……分かってます……」


総帥が口うるさいのは、心配してくれているからだと分かっている。


「私も含め皆が、お前に何かあったらと……」

(ジェス姉……)

「本当……お前に何かあったら、この辺り一帯焼土と化すだろ?」

「っしませんっ!!」

「いいや。お前ならやる」

「やりませんよっ。じい様と一緒にしないでくださいっ!!」


そう口にしてしまってから、ここが何処なのかを思い出した。


(あ……)


家族の視線を集めてしまっている事に気付き、サッと顔色を変えた。


「ふははははっ。ようやく大化け猫の皮を剥がしてやったぞ。まったく、家族にだけ良い顔をしやがって。とっくにお前はこっち側なんだ。取り繕った所で本質は変わらん」

「……もういいんで、帰ってもらえます……?」

「ふん。いいだろう。だが、これもついでに貰っていくぞ」


そう言ったジェスラートは、手の中に瓶を出現させ、ブレスレットであった黒い砂に片手をかざすと、その瓶が砂を吸い込んでいく。全て中へ入れると、蓋をして満足気に笑った。


「それでは、またな」


ジェスラートは、そう言って瓶を振ると、来た時に入ってきた窓から一歩外へと出る。そして、すぐにその姿を消したのだった。


《あれが『深淵の魔女』殿か?主に似ているな》

「……に、似てないよ……」

《そうか?》


確かに、良く同じ行動をするし、同じ物に興味を持つって言われるが、理修としては認めたくない所だ。


(あ~……この後どうしよう……)


そう頭を抱えていれば、父が目の前に来ていた。


「ねぇ、理修ちゃん。そ、その生き物は……ドラゴン!?」

「へ、あ、そう……だけど……」


父は、思いっきり目を輝かせていた。


《む……主……》


どうするのだと首をすくませるエヴィに、仕方ないからと頷いた。


《うむ。我はエヴィスタ。主に仕えるレッドドラゴンだ》


よろしくとその細い頭ををヒョコっと下げる。


本来の姿は雄大で、雄々しく。小さくなるとマスコット的な可愛さがある。頭を撫でた時の猫の様に目を細めるさまが大好きだ。


「始めまして。僕は義久。理修の父だ。よろしくね」

《うむ》


そう重々しく頷いて、エヴィは拓海と明良の方を向いた。


「……ドラゴン……」

「本物……?」


二人は呆然と、理修の肩に乗ったエヴィを見つめる。その間にも、父は手触りが良いとか、暖かいとか言って撫でまくっていた。


「……父さん……」

「ん?ねぇねぇ、理修ちゃん。重さは?あ、メジャーっ。身長を……」

《健康診断と言うやつか?》

「ただ興味があるだけだと思う……。付き合ってあげて。私は学校に行かなきゃならないから」

《む?我がここに残るのか?》


不満そうにクイッと頭を傾げるエヴィを撫でる。


「さすがに、ないとは思うけど、念の為にね。ここを……母さんと父さんを頼むよ」

《むぅ……仕方あるまい……》

「学校が終わったらすぐに帰るよ。その間に、結界を万全にするから」

《承知した》

(母さんは……まだ混乱してるみたいね……)


母には、時間が必要だろう。


「兄さん、明良。早く食べて。もう時間だよ」

「あ、本当だ」

「マジかよ」


エヴィは、邪魔にならない様にと、低く羽ばたいてソファへと身を沈めた。それを確認して、いつものペースに戻すべく、素早く朝食を済ませるのだった。


◆ ◆ ◆


「どうだった」

「リズは心配ない。母親も無事だ」


シャドーフィールドへと戻って来たジェスラートは、出迎えたオルバルトにニヤリと笑って答えた。


「面白い物が手に入ったぞ。リズが未だ特定出来ていないやつだ」


そう言って、魔法陣が焼き付いた紙と、黒い砂の入った瓶を見せた。


「気付いてはいるのだろうがな……」

「まぁ、あいつは勘が良いからな。これが……リュートリールを殺した相手の物だと分かっているだろうさ」


そう、最強とまで言われた伝説の魔術師、リュートリール。その命は、寿命や天命ではなく、何者かに奪われたのだ。


「相手が分からない以上、家族が暮らす家の中にこれを置いておきたくなかったんだろう。あいつの事だ。しっかりとこの魔法陣も記憶している筈だ」

「…………」


オルバルトは心配だった。リュートリールも、この相手についてなに一つ言わず、たった一人で立ち向かっていた。理修も同じだと思うのだ。


「心配するな。そう無茶はしないさ。先に私が特定してやるからな。それに、婚約者殿が黙ってはいないだろう」

「それは……そうだろうが……」


恐らくあの婚約者ならば、理修に牙を剥いた愚か者をすぐに調べるだろう。何よりも、友人であったリュートリールの死の原因を作った者なのだから。


「相手も、すぐに手を出してくる事はないだろう。今回は、完全に様子見のような感じだったしな。仕掛けに気付けなかったのは問題だが……」


黒い砂を見て目をすがめる。


「こりゃぁ、一年や二年の物じゃない。恐らく、リュートリールが死んだ頃に仕掛けられたやつだな」

「理修が気付けないとはな……やはり……」


守らなければと思う。だが、そう思案し出したオルバルトを、部屋に向かって歩きだしたジェスラートは、すれ違いざまに呆れたように言った。


「そんなだから、万年、五位止まりなんだよ」

「な、なんだと!?」


ジェスラートは、振り返らずに続ける。


「過保護にするなってんだよ」


そう言うジェスラートも、結局は理修を放っておけないのだ。


「さて……何が出るか……先ずは……」


ジェスラートが指を鳴らす。すると、光る蝶が足下から湧き出し、廊下をそれぞれの方向へ向かって飛び立っていった。理修よりも早く犯人を特定すべく、全ての魔女に招集をかけたのだった。


読んでくださりありがとうございます。


エヴィのお披露目がようやく出来ました。

前々回、背に乗ってはいましたが、どんな子かはお伝えできませんでした。

大きいのも勿論、ドラゴンらしくて良いのですが、小さい使い魔サイズも捨てがたいです。


『深淵の魔女』が登場しました。

今後も多くの魔女達が登場する予定です。


では次回、また来週になります。

よろしくお願いします◎

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