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027 冒険の始まりと家族

2014. 12. 28

「理修、そっちへ三体行ったぞ」

「ありがと」


そこは『任せて』じゃないのかとツッコミを入れそうになりながらも、司は目の前のゴブリンをあっさり斬り捨てた。そんな司も、理修の方を心配して目を向ける事はしない。『信用』や『信頼』以前に、理修ならば『当然』と受け止めているのだ。


「これで最後っ」


絶命し、地面に倒れるゴブリンを見届け、ようやく理修へと目を向けると、杖から数十本もの光の矢が飛び出していくところだった。その光の矢は、不規則に動き、木々を避けながら四方へと残像を残して飛んでいった。


「これでこの一帯は殲滅完了」

「…………」

「うん?どうしたの。司」

「いや……」


周囲の気配を読む為に集中すると、何百メートルと離れた所にいたゴブリンらしき物の気配が次々に消えた。


(……これ、俺いらなくね?)


理修にかかれば、数秒で一帯の殲滅が出来てしまう。その事実に、若干弱気になる司だった。そんな風に落ち込んでいるとは知らない理修は、さっさとゴブリンの死体を処理し終え、辺りを見回しながら言った。


「さてと、今日はこの辺りで野営しましょう。司、アイテムボックスかから、これを出して」


理修が見せたのは、卵形のクリスタル。イメージしてアイテムボックスを触れば、同じ物が出てきた。


「そんじゃぁ、あの辺りが良いわ。少し離れてね。十メートル四方がジャストだから。そしたら、これにファイヤーボールを作る時ぐらいの魔力を込めて……【解放】」


理修がそう言った途端、理修を中心に魔法陣が広がり、クリスタルが光ったと思った瞬間、そこにログハウスが建っていた。


「ッはぁ!?」


ログハウスのドアが開く。


中からは当然のように理修が出てきた。


「はい。司もやってみて」

「はい?」

「ほら早く。テントより快適だよ?明日は日の出と共に出動するから、ご飯を食べたらすぐに寝なよ?それじゃぁ。おやすみ〜」


それだけ言って再びドアを閉めた理修を呆然と見送り、しばらく立ち尽くした司は、正気に戻ると、教えられた通りにやってみた。


「…………」


そして、次の瞬間には、ログハウスの中に立っていた。


(何だよコレ!? どんなアイテムだよっ!?)


心の中で虚しく叫び、結局『理修だし……』と納得してアイテムボックスから夕食用のお弁当を取り出す。そして食べて早々に野営とは思えないベッドに入り、一日を振り返りながらゆっくりと眠りについた。


出掛けに思わぬトラブルがあったが、理修と司はあの後すぐに無事、トゥルーベルへとやって来た。


先ず昼食を理修の屋敷で済ませ、軽くミーティングをし、諸々の装備を整えると、ギルドへと向かった。


「状況はどうです?」

「良くないねぇ。数もどんどん増えてる。リズちゃんと……ツカサ君だったかな?は、二人で東の森を頼むよ。そのまま王都まで斬り込んでくれるかい?」

「なんだか誤解を受けるような言い方なんですけど……俺らはゴブリンを倒しながら、王都へ向けて進んで行けばいいと言う事ですね?」

「そうそう。道を作っちゃって」

「分かりました……」


何だかテンションがおかしいマスターだと思いながらギルドを出ると、理修が苦笑していた。


「びっくりしたでしょう。いつもはもうちょっとテンション低くて威厳もそれなりにあるんだけど、どうもずっと寝てなかったみたい。後一週間くらい続くと、あの人キレて出撃しちゃうから、頑張ろうね」

「それは、俺らで頑張って、どうにかなるのか?」

「戦果を飛躍的に上げれば、少し安心してブレーキが掛かるから。そしたら落ち着くよ」


なんとも不安なギルドマスターだ。思えば理修の周りには、まともな人間はいないのだったと気付く。


(シャドーに入った時も驚いたからな……)


今やしっかりとその仲間に含まれている事を自覚しない司だった。


◆ ◆ ◆


氷坂真子は、シャドーフィールドの総帥の第一秘書だ。


「では、総帥。少し出掛けて来ます」

「あぁ、頼む。リズもそろそろどうにかしてやりたいからな。まったくリューめ。既に娘に嫌われていたなら、気にせず打ち明けてしまえばよかったものをっ……」

「仕方ありませんわ。打ち明ける機会もなかったのでしょう。確かに、あれ程万能な魔術師ならば、方法はいくらでもあったのではと思わなくもないのですが」


リュートリールは、最期まで娘に異世界の事はもちろん、魔術師である事さえも話さなかった。他人には無頓着な所があったのだが、娘にはよけいな気を遣っていたようだ。


「頼むぞ」

「お任せ下さい。私達のリズちゃんの為ですもの」


二人が今何より優先すべきは、理修だ。氷坂は理修の母達がいる『サイカ』へと向かった。


『サイカ』はシャドーフィールド傘下の店だ。従業員全員が何らかの能力者で、接客は好きだが、能力のせいで従業員仲間と上手くいかないといった事情を抱えていた者達が集い経営している。


店に入ると、すぐにその個室へと案内された氷坂は、気合いを入れた。案内の者が扉を開ける。そこには、仕事でよく見知った東由佳子が満面の笑みを浮かべて待っていた。


「お待たせいたしました。東様」

「いいのよ。あなたが来るって聞いて安心したわ」

「恐れ入ります。お怪我の方は大丈夫でしょうか?」

「ええ。理修ちゃんのおまじないだもの」


由佳子は、シャドーフィールドについて全て知っている。実は、有力な企業の幹部には周知されているのだ。優秀な人材を派遣するのがシャドーフィールド。様々な業界で、その力を発揮している。


優秀な人材は企業の宝だ。その宝を確保する為には絶対に秘密を守る。


元々、シャドーフィールドは、影の世界の住人となってしまった異能者達を救済し、人々と共存共栄する事を目的として創られたのだ。


働きたくても、人と違う事で怯え、距離を置く事しかできなくなった者達や、元々が人ではない者達。その秘密の重さに耐えられなくなる彼らを、そうと知って受け入れて貰う為の組織と、優秀な人材を手に入れたい企業との関係。それが今、世界を支えているのだ。


氷坂も人ではない。由佳子は、まだ幼い頃に一瞬、父と会う氷坂を見ている。その時から数十年。彼女は一切見た目が変わらない。当主となり、社を引き継いだ時に教えられたシャドーフィールドの秘密。それを知って納得し、以降その秘密を守る。それがこの世界では当たり前なのだ。


「今回の件はこれで処理させていただきます」

「ありがとう。お願いするわ」

「はい。それで、代わりと言っては何ですが、もう少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか」

「私は構わないわ。今日の仕事は全部済ませて来たの。あなた達は?」

「何もないよ?姉さんが良いなら構わない」


理修の家族がそれぞれ頷くのを確認した氷坂は、話を切り出した。


「先ずは、わたくし共の事をご説明いたします。東様はご存知ですが、これは無闇に口外しないようお願いいたします」


そう言い置いて、シャドーフィールドについての説明を始めた。最初は不審げな様子だったが、由佳子が頷く事で、真実だと実感していった。


「では、あなたも異能者なのですか?」


理修の父親が訊ねた。それにあっさりと氷坂が答える。


「わたくしは、分かりやすく言えば『雪女』と呼ばれる存在です。こんな事もできますよ」


そう言って、氷坂は前に出した右手の掌を上に向ける。すると、空気中から何かが集まり、一瞬後には、その掌の上に、透明に透き通る氷で出来た小さなウサギがあった。


「っすごい……」

「可愛いわ。でも、氷なの?残念だわ……」

「ふふっ。ここにリズちゃんが居れば、これをクリスタルに変えてくれたかもしれませんが」

「まぁっ。今度頼んでみようかしら」


楽しそうにはしゃぐ由佳子。しかし、他の者はそうもいかない。


(何?いまの……)

(凄いなぁっ。あれ?でも何で理修ちゃん?)

(ま、魔法!?凄すぎだろ!?)

(……理修がなんて……?)


それぞれの反応の違いに気付き、由佳子と二人で苦笑する。


「さすがにすぐには受け入れ難いと思います。ですのでこれを……」


氷坂が鞄から五冊の本を取り出した。明らかにそんな物が入るとは思えない鞄なのだが、そこはもう誰も口にできないようだ。


「これは、リュートリール……あなたのお父様が書かれた記録帳です。日記に近いので、難しいものではありません。これはほんの一部ですが、理解するには十分だと思います。あなたは、小説家でいらっしゃるとか。軽い読み物と思って読んでみてください。あなたの為にも」

「私の……?」


氷坂は力強く頷く。これが最後のチャンスだ。充花にとっても、理修にとっても。これでも受け入れられないと言うのなら、一生わかり合う事はないだろう。


「避けてばかりでは、何も見えてはきません。どうか真実を知って、理修ちゃんの帰りを待ってあげてください。あなた方は家族です。理修ちゃんの帰る場所であってください」


それが、理修を愛する全ての者達の願いなのだから。


お読みいただきありがとうございます。


ようやく動いてきている感じですね。

家族の今後の反応に期待です。


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