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018 ギルドマスター

屋敷から山二つ隔てた場所。そこには辺境の町『スルース』があった。


辺境とあって町を囲む壁は高く強固。町から西に数刻馬車を走らせれば、危険度Aランクの『深淵の森』があり、かつては砦として機能していた『ウルキアナ王国』の最北端の町だ。


閉門の時間まで後二時間。杖に乗って町の近くに下り立つと門へと急いだ。


「ようこそスルースへっ……ってリズか……」


町に入るのに際し、門での審査がある。今回も、顔見知りの門番の一人に挨拶をした。


「こんばんは、バナーさん。お仕事はちゃんとしてください。営業用の笑顔を忘れてますよ」

「営業じゃねぇよっ。それにこれはわざとだよっ。ったくっ爆弾娘がっ、先週、東の街道で派手にやりやがっただろっ。あれのせいで、ギルマスと領主様が頭抱えてんぞっ」

「ん?先週……あぁ、盗賊と商隊ね。だってムカついたし、やってた事思えば、潰して正解」

「……お前は……自重ってもんを覚えっ…………いや、無理だよな……」

「無駄な努力だよね」

「ッお前が言うなっっっ!!」


思わず耳を塞いでしまうのは仕方がない事だ。


さっさと手続きをしてくれと目で訴え、バナーさんことバナーランドを急がす。


その後、問題なく処理を終え町へと入ると、人通りもまばらになった夜の大通りを進み、やがて目的とする建物の前に辿り着く。迷う事なく、異常に広く造られた扉を開けて中に入ると、そこはどこよりも賑やかな場所だった。


「……相変わらずうるさい……」


十数人しかいないホールだが、豪快に食事をしながら騒ぐ冒険者達の姿に呆れる。


『ギルド』


様々な仕事の斡旋所。入って右半分は、食事や雑談、打ち合わせの為のホール。左半分は、用途によって細かく分類された窓口が用意され、壁には、各種仕事の張り紙がされている『クエストボード』がある。


理修は、真っ直ぐに報告用の窓口に向かった。


辺境とあって、この辺りでは日々刻々とその情況を変える。その対策として、この辺りのクエストに出た先で、問題や変化が見られた場合、すぐに報告をする事が暗黙の了解になっている。この為、ここスルースのギルドでは、特別に報告用の窓口が用意されているのだった。


「こんばんは、ロナさん。マスターへの届け物です」


敏腕で知られる、ここのギルドマスターの秘書は、クールビューティーな才女だ。総帥の第一秘書と雰囲気が良く似ていると、理修は常々思っている。


「まぁ、リズリール。お疲れ様。お待ちしておりましたわ。少々、ここでお待ちください」


頷くと、ロナが奥へと消える。しかし、すぐに戻って来たロナは、先程渡した物を笑顔で差し戻してきた。


「マスターがお待ちです。こちらも、直接お渡しください」

「……了解しました……」


思わず『イエスっサー!!』と言いそうになったのは秘密だ。この感じも、とある秘書と似ている。


(デジャヴ……?)


良く知る有無を言わせぬ威圧感を感じ、素直に物を受け取って奥へと向かった。本来は案内がなければ歩けない通路を、理修は一人で進む。


目的の扉の前に辿り着くと、ノックをするより先に、中から入るようにと声がかかった。


「失礼します」


扉を開けると、奥の執務机に向かう。しかし、椅子は空になっており、部屋の主が見当たらない。だが、耳を澄ませばガサゴソと音が聞こえた。


その音に導かれるように、書類に埋もれた机のむこう、椅子と机の間を覗き込むと、その床にうずくまる背中が見えた。それで現状を正しく理解した理修は声をかける。


「……また書類をなくしたんですか……?」

「っ……いや……この辺に置いたんだよ……」

「…………」


いつもの言い訳だと呆れてため息をつくと、無言で部屋の隅にある給仕セットへと向かう。お茶の用意が出来る頃、タイミング良く男が立ち上がった。


「あったあった。ふぅ、待たせたね」

「うん?待ってない」

「……うん……みたいだね……僕にもちょうだい?」


一人、応接用のソファに腰掛け、優雅にお茶を啜る理修に、男は項垂れながら要求した。


「どうぞ。お茶うけにクッキーも」

「ありがとう」


この男は正真正銘、このスルースのギルドマスターだ。名をザサス・シールスと言う。このトゥルーベルでの理修の後見役だ。


『天翼族』と呼ばれる背に羽根を持つ特殊な血を僅かに引いているらしく、羽根は持たないが、魔力量が膨大で、今年で八百歳になる長寿だ。見た目は未だ四十代と若い。理修の祖父であるリュートリールの親友だった。


「はいこれ、マリウス様から」

「あぁ、いつも悪いね。まったく、貴族達には参るよ。常に自分が特別じゃなきゃ嫌だなんて考え方、やってて恥ずかしくないのかね……」

「私はもう諦めた。あいつらは『貴族』と言う特殊な『種族』なんだと思えば、腹も立たない」

「……なるほど……」


理修が持ってきたのは、この国の先王からの手紙。私的な物から、国の重要な案件まで、ザサスに個人的に相談をしているのだ。それが、貴族達には面白くない。今は先王とは言え、頼っているのが自分達ではないと言う事実に、嫉妬しているのだ。


スルースは、辺境とあって王都からは遠い。普通に手紙を運ぶのは人力だ。余人の手を介さなくてはならない。故に、正しく手紙が到達しない事もあり得る。


何より問題なのは、スルースが貴族達に嫌われている事だろう。貴族達は、事ある毎に何らかの邪魔や嫌がらせをしようと目を光らせている。


スルースの領主は、堅実で領民の信頼も篤い。貴族らしからぬ行動や言動が多く、当然の様に敵は多い。後ろ暗いものを持つ貴族達には目障りでしかなかった。


そして、更にザサスと言う、冒険者ならば誰もが憧れる『伝説の冒険者』がいる。その昔、貴族からの誘いを全て断った為に、良く思われていないのだ。


そんな敵の多いザサスの為、国との繋がりを守るのが理修の役目だ。これは、元々リュートリールが友人の為と始めた事で、それを引き継ぐ形だった。


理修には『転送魔術』がある。限られた知人や場所にのみ用意した手紙を転送する魔導具。リュートリールに縁のある者達を支援する為に配置したのだ。


トゥルーベルでの理修の仕事は、各地の現状をまとめ、問題があれば解決の為に力を使い、この世界の為、様々な場所や人を結ぶ事。こうして、手紙を届けるのも大事な役目の一つ。


リュートリールがその昔、意図せずに多くの人を繋げ、世界を守ってきた様に、理修は精一杯その後を継ごうとしていた。


「それで? 話って?」


かつての親友を見る様に、ザサスは理修を理解していた。不器用で、対人能力の低かったリュートリールとは違い、効率良く立ち回っている理修は、もう立派にこの世界になくてはならない存在だ。


(アレよりも有能だって、気付いてないんだろうな……)


対人能力と、的確な判断力は、既にリュートリールを越えている。それに気付いてないのは本人だけだ。


(同じくらい問題も起こすがな……)


なまじ強い力を持つ為に、少しの事でも大惨事になる。その事も良く分かっているザサスだった。


扱いには十分気をつけなくてはならないが、リュートリールがそうであったように、誰よりも信頼でき、心強い存在である事は確かなのだ。


「先週の盗賊の話もあるが、それよりも今回は少し厄介な話だ」


こうして、また理修の力を貸してもらう事になるのだった。


お読みいただきありがとうございます。


次も引き続きトゥルーベル。

できたら婚約者様に会いに行きます。

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