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013 銀次の仕事

ようやく銀次くんを迎えに。

「勇者様。魔族は、わたくし達よりも強い力を持っています。その為にこの大陸へと、人々は逃れて来たのです」

「…………」


人と魔族の創世記から、国の建国。多くの諍いの話を経て、ようやく現代まできた。


姫は、ベッタリと体を引っ付け、しなだれかかるようにして語っている。それによる鳥肌と冷や汗を抑え、接触に耐えている俺は、凄く大人だと思う。


(いや、もう本当に成長した。うん)


鳥肌を抑えるなんて、若干人の粋を超えちゃってる事は目を瞑ろうと思う。


(仕方ない。仕方ないよ……)


常に人外の者達と付き合っているのだ。人間らしさなんて忘れても仕方ないと思う。


「勇者様? 聞いていらっしゃいまして?」

「え、あぁ、勿論だ……」


忘れてた。余りの苦行の為に、現実逃避していた。


大体、銀次が平気な女は、理修しかいない。勿論、触れても平気な『女』は他にもいるが、銀次が『女』と思えないから、ノーカウントだ。


『理修』


少し緑がかっているように見える細く長い髪。小さく整った顔。心を許した者にしか見せない、様々な表情を映す澄んだ瞳。複雑な魔術を操る細く小さな手指。しなやかで強靭、その上、女らしい線のある体つき。


全てがパーフェクト。


こんな、フワフワしたドレスで体型を隠し、ろくに日常生活で使っていない腕や足を持った打算的な生き物とは違う。はっきり言おう。


理修は女神だ。


手が届かなくても良い。たまに思い出したように会いに来て、声を掛けてくれたらそれだけで十分だ。


そう。そんな理修が望むなら、どんな苦行でも耐えてみせる。


「魔族はわたくし達の敵です。だから勇者様。どうか、彼の者達を打ち滅ぼしてくださいませ」


そんな濁った眼で見るな。何が『敵』だ。


「……それは、俺に魔族を全滅させろと言っているのか?」

「はい。勿論、各国から募った兵達もお供いたします。あの大陸を取り戻すのです」


その事に、迷いはないのだろう。自分の役目なのだと言う気負いが感じられた。


「……その各国の代表に会えるか?」

「はいっ。今回の召喚は、元々、代表者会議で決まった事でした。今からでもお会いいただけます。すぐに場を整えますので、暫しお待ちくださいませっ」


姫が飛び出していくのを見送ると、銀次は溜め息をついた。


「あぁ……ウザかった……」

「可愛らしい姫じゃない。打算的で、自分の使いどころも理解してる。典型的な王女様ね」

「っ理修っ!?」


テラスから静かに現れた理修に、思わず駆け寄る。


「何でっ? まだ時間的に早いだろ?」

「うん。今回の召喚の影響で、司が参っててね。術の組み上げもあるし、早く来たの。ちゃんと言った事が出来てるみたいね。その調子で最終確認までよろしく」

「勿論、わかってるさ。俺も人族だからって、無条件であいつらを信用する気はない。伊達に、あそこで仕事してないからな」


何て格好つけて言ってみる。少しでも理修に好意的に見られたいからだ。


「そうね。価値観が違ったとしても、同じ世界に生きる者同士、共存できないなんて事は、よっぽどじゃないとないはずだわ。話が出来る相手なら尚更、関係を探っていける。まぁ、同じ共存の意思があればだけど……人って、そこまで考えが及ばない、愚かな生き物よね……」

「それは……俺らの世界でも変わんないな……」


こうやって、理修はたまに自分が人ではないかの様に話をする時がある。それは多くの種族と交流して、様々な国や世界を知っているからだと思うが、なぜか少し寂しくなる。俺たちとは一戦を引いている様で、どこか遠く感じてしまうのだ。


『勇者』として召喚され、言われるままに討伐に出て帰ってくる。それが間違っているんじゃないかと教えてくれたのは理修だった。


『魔王って、本当に悪い者? 一体、何を持って『悪』とするの? 人を殺したから? それなら、人だって人を殺すわよね?』

『邪竜? 暴れる理由が何かあるんじゃないの?』

『姫が攫われた? 本当に理由もなく攫われたの? そう言う契約してたりするんじゃないの?』

『絶対に人が正しいなんて事は、ないんだよ。なんの為に、その頭はついているのかな?』


うん。間違いなく、出会いは最悪の部類に入ると思うんだ。


四度目の召喚。その時に初めて会った少女。総帥の命で迎えに来たと言った少女に、銀次はボロクソに言われた。


今の職場であるシャドーでも、よく『言われた事しか出来ないよね』なんて評価を受けていた俺は、ようやくこの時、己を省みる事ができた。


『言われた事はきちんとやってるんだから良いだろ』


なんて考えていた俺は子どもだった。『宿題』さえ出来なかった俺が『言われた事をこなしている』それだけの事で、俺は『大人になった』気でいた。決められた範囲で頭を使っていればよかった学生とは違う。


世界は広く、考えは無限だ。その事に気付いた時、俺は世界に無関心ではいられない事を知った。全てが無責任に過ぎたのだと理解できた。どんな行動にも、責任があるのだと知ったのだ。


こうして召喚された世界であっても、全ての行動は自身で責任を持たなくてはならない。『関係ない』で済ませるのではない。自分で考え、何をすべきなのかを知らなくてはならない。敵か味方かではない。どちらかに都合の良い結果で満足してはならないのだ。


「それにしても、司かぁ……召喚自体が一年ぶりだったから、あいつの事忘れてた……」


同じ『勇者』である梶原司。


あいつが召喚されたのは一度きりだ。だが、銀次が召喚されると何らかの影響が出るらしく、体調を崩すらしい。ここでも、無責任になってはいけない事があったと反省する。だが、理修はアッサリとしていた。


「まぁ、司の事は気にしなくて良い。対策もしてきた。私も久しぶり過ぎて失念してたからね。総帥も何も言わなかったって事は、誰もが忘れてたって事よ。反省してても仕方ないわ。さっさと終わらせる事を考えましょう」

「わかった……」


本当、理修は最強だと思う。


お読みいただきありがとうございます。


銀次くんの仕事にもう少しお付き合いください。

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