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011 僕の『妹』

遅くなってしまいました。

僕の『妹』は特別だ。姦しく、下品な同年代の女子とは違う。


料理や裁縫。掃除に洗濯。何をやらせても完璧で、気の利く女の子。


学校では、いつでも誰かと一緒で明るくて頭も良い。こんな完璧な妹を持つ僕の心配事は、妹に『彼氏』ができる事だ。


その辺のバカな男共には、絶対にやれない。


幼い頃から、理修が母と折り合いが悪いのは仕方が無いと思っていた。


むしろ、あんな勝手な女と理修が合うはずがないのだ。だから、母の為を思ってまるで家政婦の様に距離を取り出したのに気付いた時、無性に腹が立った。


「なんで、あいつの為になんか行動するんだ? あんな母親、無視しとけばいいだろっ」


理修の部屋を訪れて思わずそう言った時、理修は苦笑して言った。


「これは、わたしの『意地』と『願掛け』みたいなものなの。それにね、ヘンに見えるかもしれないけど、今までココにいなかったわたしが、大きなカオをするのはどうかとおもうの。わたしの『居場所』は ほかにもあるけど、母さんの『居場所』はココにしかない。だから、それをうばいたくないって言うのが本当のところ」


理修は、難しい事をよく知っている。子どもらしい、自分本位な言葉や行動がない。だからこそ、逆に大人なのに理修の思いに気付こうとしない母に余計に苛立った。


その日の夜。隣の理修の部屋に、弟の明良が向かったのに気付いた。


あの二人が時々、一緒に宿題やテレビゲームをするのを知っている。だから最初、不思議に思わなかった。


だが、漏れ聞こえてくる明良の声を聞いた時、その内容にはっとした。


明良も、母よりも理修の事を普段から気にかけていると知っている。だから、その会話が廊下きら聞こえてきた時、思わず身動きを止めて耳をそば立てた。


『っそうじゃねぇよっ。一緒に食べろよ。お袋なんて気にしなくていいっ』

『……明良……?』

『だって、変だろっ』

『っ明良……っ』

『っりっ……っ』


パタンとドアが閉まる音がした。それから、壁越しに会話が聞こえた。僕は、理修の部屋の方にあるベッドに慎重に腰掛け、耳を澄ませた。


『…………でもね、意地は張り続けていられるものじゃないし、時間を掛ければ、母さんだって自分の感情に折り合いをつけることができると思う。だから、明良も見守ってて』

『…………けど、理修が一人だ………』

『?そんな事ないでしょ? こうやって、明良も心配して来てくれるし、父さんや兄さんも口には出さなくても、気にしてくれてるのが分かるもの』


ほら、本当によく出来た子だ。だけど最近気付いた。多分、明良も気付いている。周りに気を使い過ぎて、理修自信の事が疎かになっていることに。


僕達は、兄妹で家族だ。無条件で何かを与えられ、与える関係。その上、問題の相手は母親だ。少々の荒療治も許される。


理修はたぶん『家族』と言うものを分かっていない。長く祖父と二人で生きてきたからだろう。突然できた両親と兄弟の距離に、今でも戸惑っているんだ。


やがて、明良が廊下に出たのを音で確認すると、すぐに部屋を飛び出した。


「明良」

「何だよ……」


弟は、やっぱり可愛くない。


「理修だけは困らせるなよ」

「……分かってる……」


そう、明良も分かってはいる。このままで良いはずがないって事に。


「何とかできるといいな……」

「……絶対、何とかしてやるっ」


そうだ。僕の大事な妹なんだ。大切な、大切な女の子。


◆ ◇ ◆


初めて二人で会話をした日は、忘れられない。僕は最初『妹』と言う存在を受け入れられなかった。


だって、僕が嫌いな『女子』だ。何かをするとクスクス笑い、前を通るとあからさまに避けられる。そんな嫌な生き物。けれど、彼女は年下だ。


その日、小学校からの帰り道。明良が友達と先に帰って行った為に二人っきりになった。小さな『女子』なら勝てると思った。だから、ずっと思っていた嫌みをその背中に投げかけた。


「『理修』って変な名前」


すると、少し前を歩いていた理修が立ち止まった。こいつには負けない。そう思ってその横を通り過ぎる。


泣くだろうか。

喚くだろうか。


そんな『やってやった』と言う、小さな爽快感を味わっていた。だが、予想は大きく外れた。


「じぃさまがつけてくれたの。理修の『理』は『ことわり』すべてのモノのあり方っていみ。それらをリカイして『修める』ものになりなさいってこと。じまんの名前だよ?」


そう、満面の笑みを浮かべて説いてみせた。その笑顔が綺麗で見惚れてしまった程だ。その時気付いた。


この子は違う。

この子だけは守りたい。


「…………そうか……いい名前だ」


そう素直に口をついて出ていた。その時、自転車が理修の背後から勢いよく向かってくるのが見えた。ここは狭い歩道だ。それを見た時、思わず体が動いた。


「あぶないっ」


あんなに大嫌いな『女子』である理修の手を、無意識に引っ張った。間一髪、スレスレを駆け抜けていった自転車にを思わず睨みつける。だが、すぐに現状を思い出した。目の前に、キョトンとした理修の顔があった。慌てて目を背ける。そこで、手を掴んでいることを思い出す。しかし、今更手を離すのはと思い至り、そのまま歩き出した。


「……帰るぞ」

「うん」


初めて手を繋いだ。小さくて温かい手。可愛い、可愛い僕の妹。この先ずっと、大切にしよう。


何があっても、僕だけは味方でいたい。


お兄ちゃんにとって、妹は可愛い。


次は、とりあえず学校へ行きましょう。

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