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僕の飼い主と「青の魔道書」  作者: 暦 司
転校生と転送人の影(2章)
27/30

2.5章  10冊目

 中央要塞都市『アルカヌム』。魔法社会においての最重要拠点。

 

 ――アルカヌムは、主に4つの都市に分かれている。

各国の貿易の中心地『サラマンド』、世界最高峰の魔術学院『シルフィ』、

国際司法機関の総本山『ウンディーネ』。

そして、連合軍の本拠地である『ノーム』だ。

 

 ――十九時二十三分、事件は起きた。


 ノームの連合軍第三支部から、一人の男が飛び出す。

彼が何かを叫ぶと、後方で巨大な爆発が起きる。

瓦礫は弾け飛び、後方から灼熱の熱風を浴びる男。

 

 ……この惨状を見れば一目瞭然だろう。――第三支部は全滅だと。

事実、男も油断していた。全員殺した。指令は達成したと。

――後ろから、平然と歩いてくる女に気付くのは、彼の死の一分前だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「終わったよ。」

女が携帯のような物を人間の耳に当て、誰かに連絡を取る。

――女の耳は頭に狐耳、側頭部に人間の耳と所謂4つ耳であった。

背は160cm程度。銀灰色の髪を風になびかせ、片手に刃の無い柄を握っている。


――女は続ける。

「少し遅れたわ。第三支部の人員は全滅。」

「…………。」

電話の相手は答えない。沈黙が、続きを話せと訴えてくる。

「襲撃者は始末した。敵の使用魔法はランクB『フレア』。

強さ的に下っ端以下。雇われた殺し屋かな?」 

「……………ご苦労。」

男の返答は、質素なものだった。

「……こんな雑魚相手に青の女王を使うとはずいぶん偉くなったものね?」

「これでも、連合軍総司令官だからな。」

「あら? 私たちの立場は平等なはずだけど?」

「……貴様は、少し勝手がすぎる。」

「ふふ、覚えがないわね。」

 ギリっと受話器の向こう側から音が聞こえる。

どうやら男の神経を逆なでしてしまったようだ。


「――なぜ、ミント・フィニスを動かした!」

問い詰めるような強い声。そこには怒りが込められている。



「……何か問題でも?」

 女は、全くひるまないでそう答えた。

まるで、自分は何もやっていないとばかりの態度だ。

「大有りだ馬鹿。転送者の始末は、レビスエルメアの任務だ。

しかし、貴様は勝手に……。」

レビスエルメア、四家と呼ばれる名家の一つで、

代々白の純色の魔力を持った一族である。


「アルちゃんだけじゃ厳しいかもよ? 転送者の名前もミントちゃんが報告したんでしょ?」

「だが――」

「それに、軍は関係ないでしょ? あの子は私の駒よ。それに……」

そこまで言って一拍置く。



「――私の娘だからね。」

「………。」

「『リオ・セキズ』、あなたが口を出すことではないわ。」

 空気が明らかに悪くなる。完全に電話相手の男を怒らせたようだ。


「――問題は、S組の生徒を勝手に動かした。それだけじゃない!!」

 今にも受話器を投げ出しそうになるほど激昂する男。

受話器の向こうからは、なだめるような女中の声が聞こえる。


「ミント・フィニスが向こうの世界に行くために持ち出した本。

貴様は『10冊目』だとわかっていて、それでも使わしたのか!?」

「当然でしょ。より良い飼い主さんをあの子が見つけられるようにするためですもの。」

「そういうことを言っているんじゃない!! 『10冊目』は……」

「はいはい、うるさいなぁ。言い訳は定例会議でするから。じゃ、切るね。」

「待てアインス!! 話はおわってn――」

 携帯を切って、手提げ鞄にしまう。そして辺りを見回す。 

続いて、爆破された支部の瓦礫、奇跡的に残っていた書類、

そして、バラバラになった元人間だったものをかばんに詰めていく。

 ――本来、小さい鞄に入るはずなど無いのだが、鞄の体積は全く変わらない。

まるで、鞄の中に入れたものが別の場所に収納されているような……


「はあ~やっと終わった。」

 女は呟く。彼女の握っていた柄はいつの間にか消えていた。

ふと空を見上げると、そこには丸い月が青白く輝いていた。


「転送者は賢者ディール。……ミントちゃん、大丈夫かな?

飼い主さんが『存在しない言葉(コードマイナス)』の使い手だったらいいんだけど。」

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