今日みたいな日は珍しいな
「ねえ紅葉。」
「ん、何?」
「こっちの世界の学校ってさ、基本自習?
なんだか魔道書の情報と違う気が……」
いかにも疑問がありますよといった感じに右頬に手を置きながら聞いてきた。
尻尾(クラスメイトには見えていない)もクエスチョンマークを作ってる。
器用だな。というかその尻尾はどうなってるんだ?
初めて見たときはついてなかったきがするけど。
まあ、それは今度聞くとしよう。とりあえずミントの疑問について答えよう。
「今日みたいな日は珍しいな。」
ミントがこういう疑問を抱く原因となるのは、
2時限目の始まりにきた古典の教師の言葉だった。
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「数学の観月先生が欠席だから、この時間は自習だ。
え~と、授業終了時刻までに、このプリント仕上げておくよーに。」
2時限目が始まって数分経ってから、気だるそうに古典担当の教師が言った。
自習多くね? まあ、転送者に対する作戦を考える時間が取れたからいいか。
「せんせーい、今日自習2回目でーす。」
お、委員長、ナイス質問。それ気になっていた。
「――チッ――答えんのもめんどくせえ――
観月先生は落雷により意識不明の重体だからしょうがねえだろ。」
観月先生大丈夫かな?嫌いな人ではないから少し心配だ。
っておい、今アンタ舌打ちしただろ。そして舌打ちの後、小声でなんつった?
「あ、お前ら次体育だろ?
停電で電車が止まってるから今日は工藤先生やもう一人の春野先生も休みだな。
ついでに言うと4時間目の地理も自習だな。塚谷先生も今日は欠席だ。
父親の方に雷が落ちたとか。
俺の親父にも落ちればいいのに……。
そしたら口実出来て家でサボれたのに。」
雷による被害が多すぎだろ!! 何があったし……あ、落雷か。
あとお前最低だな!! ほんとに公務員か!?
「ちなみに今日は4時間で終わるから。」
しかも今日の授業全部自習とか――え? ラッキー。
「実は今日、生徒も教師も欠席が多くて大混乱なわけよ。
落雷がーとか生徒がーとか。
ぶっちゃけ騒ぎすぎだよな~、めんどくせえ。」
いや、生徒はまずいだろ! さっきから教師の発言とは思えない……。
「よし、というわけで俺は職員室に帰る。
まだ提出されたファイル見てないし家でやるのは面倒だ。
別にいいだろ。ここにいても俺の時間は、無駄になるだけだしな」
おい国語教師、自習監督の意味言ってみろコラ。
「あの、数学のプリントはどうすれば……。」
委員長が聞いた。さっきからナイス質問。
このプリント終わったらどこに出すのか不明だしな。
こいついなくなるらしいし。
「終わった奴から紙飛行機でも折って遊んでろ。終わったら捨てとけ。」
「は!?」
適当すぎるぞこのくそ教師。
「あ~何だ辻。なんかあんのか?」
あっ、やっべ。声が出た。
「いえ別に……」
「よしじゃあがんばれ。」
そう言って古典の田中先生は教室を後にした。
なんでこいつ、首にならないんだろう?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして現在、田中が出ていって約5分経過。
「あの先生すごいね、僕の学校にあんな人はいなかったよ。」
「あんな適当な奴いても困るだろ……。」
完全に職務怠慢だ。もし問題が起きたらどうするつもりだ。
「……男性の教師って皆ああいう人なの?」
「それはねえよ。」
「じゃあ、あの人だけがあんな適当ってこと?」
「そりゃそうだろ……。あんなのばっかじゃ授業にならねえ。」
ふと俺は気になったことがある。
「……あ、そういえばミントの学校ってどんなとこなんだ?」
前に校則とか言ってミントが制服姿で俺の前に来た。
まず、この世界の常識とは違うんだろうな。
「僕の学校? 何で?」
「そりゃ、気になったから。」
「ええと――この世界の学校は授業に出れば単位ってとれるんだよね?」
「ああ、まあ。テストの点が低かったり提出物に不備がなければ。」
あと、極端に態度が悪いとか忘れ物ばっかとかだとやばいかも。
「僕たちの世界の場合は、テストは無いよ。
授業に出る以外に2つ、その日の授業の単位を取る方法があるんだよ。」
「へえ~。」
……テストないのか、うらやましい。
「えっと、単位を取る方法の一つは、学校の掲示板の依頼を達成すること。
単位のついでに報酬金ももらえるんだ。」
……じゃあ依頼とやらをこなすのが一番楽なうえに
金もらえてお得なんじゃない?
「でも依頼にはランクがあってね。最低の報酬額はランクによって変わる。
DとかCとかは問題ないけどAとかBとかは結構やばい。
下手をすれば死ぬよ?」
「そりゃ怖いな。もう一つは?」
「それは、僕みたいにS組に所属していることだよ。
それだけで単位と出席規定が免除される。」
なにそれずるい。
「ただし、S組は軍からの指令は必ず受諾しなければいけないよ。
主に戦争関係の依頼だね。
……今回は、この世界に来るために契約者を探すことだったけど。」
「ほー。んで、転送者を探せっていうのが今の指令か?」
「そうなるね。」
「……その指令が、うちの学生の命を考慮してる気がしないのですがそれは?」
「軍はこっちの世界の被害は気にも留めないから仕方ないよ。
指令を決める僕のママは割と冷酷な人だからね。
関係のない人を巻き込むようなやり方は僕は好きじゃないけど。」
なるほど、だから楓に影の騎士のことは教えなかったのか。
こいつはこいつなりに考え方があるようだな。他人を巻き込まない。いいと思う。
……ん?おかしくない?
「俺関係のない一般人だった気が……」
「え?紅葉は僕の契約者になったし仕方ないよね?」
……ソッスネ。
「……ゴホン、とにかく転送者を僕と紅葉で見つける。
それが今最優先でやることだよ。」
話をすり替えたな。この話はあとで家に帰ってするとしよう。
それより今は……
「うーん――どう探すか?」
「それを考えるのは紅葉の仕事……といいたいところだけど、
魔法に関して初心者の紅葉一人で決めるのは無茶だよね。
僕が作戦を決めるのは駄目だけど、方法の提示ぐらいならできるよ。」
「……お願いします。」
よかった―。魔法なんてほとんどわかんないから
思いつくのは聞き込みするぐらいだし。
「僕も『不知火』は使いたくないしね。
それに、紅葉は協力してくれてるんだから、僕もそれぐらいはしなきゃ。」
「それはマジでありがとう。不知火なんて危険すぎる。」
全員(俺含む)死亡する魔法は全力で阻止しなきゃな。
「ええと……一つは、影の騎士を捕える。それで印を見つけて転送者を攻撃する。
この方法はもう一回ぐらい影の騎士の襲撃があれば出来るよ。」
「・・・問題は、相手に先行を譲るってことか。」
「それに、高位の魔道士だと印に罠や書き換えを行ってる可能性があるからこの方法は難しいね。」
「そっか、他には?」
「そうだね……。あとは赤の魔道士の協力を得るとか。
赤には過去の情報を見る魔法『レルミア』があるから。」
……便利な魔法だな。ひき逃げとかの犯人とかもわかるじゃん。
「その人が転送魔法の発動場所に行けば、
すぐに転送者を特定できる。ただ……」
「ただ?」
「この魔法は魔力が赤の純色の人しか使えない。」
「純色って?」
「10年に1人生まれるか生まれないかってぐらい珍しい魔力だよ。
当然そんなレアなケースの魔力を持ってる人なんてほとんどいないよ。
僕の友達にもいるけど、彼女はこっちに契約者がいないから来れないし。」
「こっちにいる奴にそういう魔力を持った奴はいないのか?」
「まずこの世界に契約者がいて、
尚且つこっちで行動してるのは僕を含めて4,5人程度だよ。
しかも、連絡をとれるのは1人だけだし、彼女は白の純色だから。」
なるほどね。この方法は使えないと。
「……一応、楓の魔力が強い赤の純色なんだけど。」
「じゃあ、楓に協力してもらうのは駄目かな?」
楓は優しい子だ。俺以外に対して。
言えば強力ぐらいしてくれるだろうけど。
「――絶対に駄目だよ、あの子は巻き込まない。こっちの世界の人間だから。」
語気を強めてミントが言った。その眼には強い意志が宿っていた。
やはり彼女は、楓を危険な目に合わせたくないのか。
「――そうだよな、ゴメン。」
「……僕からしたら、紅葉も巻き込みたくはないんだけどね。」
「ん?なんか言ったか?」
小さい声だったからよく聞きとれなかったな。
「――なんでもないよ。」
「そっか、じゃあいいや。ところでほかに方法は無いのか?」
「……あとは――使用してる魔法が分かればいいんだけど。
魔法使用の際の痕跡すら残ってなかったし。」
「他には?」
「え――えーと……特に有効な方法は……。」
「……まさか手詰まりか?」
まじで不知火撃つの?やめてください死んでしまいます。
「……楓を巻き込むのが一番被害が少ないんじゃないか?」
多分、今のあいつ俺より強い。魔法使ってる時点で俺よりは役に立つ。
「で、でもそれは……」
「ま、もしもの時は俺が盾になればいいし。」
ミントが生徒全員を殺すよりは
まだ俺が盾になった方がましだ。楓のことも大事だし。
「くっ、それも視野に入れるしかないのかな?
――せめて、転送者の名前ぐらいわかれば……。」
「あ、それは知ってるけど。」
「転送者の正体すらつかめてないのが現状だから――ってえ?」
ミントがきょとんとした顔でこっちを見てきた。
尻尾は少し大きくなったから驚いてるのかな?
……それにしても
「かわいい。」
「え、ちょ、あ、ありがとう。――じゃなくて!! 何で知ってるの!?」
「いや、影の騎士作ったって奴が教えてくれた。」
「まず黒の国の内部情勢すらわかってないのに、何で『博士』と話てんの!?」
「『博士』?」
「『博士』っていうのは影の騎士を作ったと言っている人で
その人が宣戦布告してきた際に使ってきた名前だから、僕たちはそう呼んでる。
いや、それは今どうでもよくて、何で紅葉が・・・」
「倒した巨大影の騎士によりかかってたらフレンドリーに通信してきた。」
「……えー。」
そう言ったミントの表情は現在、少々間のぬけた表情だった。
……うん。
「可愛い。」
「うん、ありがとう。もう落ち着いたよ。で、『博士』の最初の一言は?」
「何でそんなことを聞くんだ……。『よお、聞こえてる契約者』だったかな?」
「うわ、現実確定。その人の宣戦布告の手紙に
『よお、初めまして連合軍』だったし。
こんな感じで敵に話すのは絶対彼だ。」
「そういうのって、もっと真面目に書くものじゃないのか?」
「長い歴史の中で宣戦布告の際、
よおなんて言われたのは初めてだってママが言ってたよ。」
……混乱で、ややキャラ壊れてない?
「それで? 転送者はなんて名前かな?」
ミントはポケットから携帯のような機械?を取り出した。
「確か影の騎士を操ってるのが
『ブレイズ』とかいう奴で、転送者が『ディール』とか言ってたな。」
「『博士』は?」
「『イウォーク』とか言ってた。で、何だそれ?」
「よし、送信完了。」
ミントが持ってる機械からちょうどピコーンというような音が聞こえた。
「ねえ、何それ。」
「やったよ紅葉。」
無視ですかそうですか。
あと、今は一応授業中だから周りに人がいる。
騒がしいとはいえその声の大きさは周りに聞こえるだろ!!
ま、いっか
「それで、何が?」
「多分、結果が出るのは3日後ぐらいかな?」
「だから何が?」
ニコニコと笑ってるミント。そしてミントは嬉しそうに口を開いた。
「これで確定できたよ。転送者の正体が!!」
「……何で?」
あと、かわいい。
「軍が情報を確定させるまで余計な動きをせず、情報収集しろってさ。
名前さえわかれば、転送者の正体がわかるし!!」
「声大きい声大きい。」
「やった。これで犠牲は少なくて済みそう。
ふふふ、楓を巻き込む形にならなくて良かった。」
「ていうか、名前だけで調べられるのか。」
「紅葉、魔法は万能だよ?」
……超万能だな、魔法。