不知火ぶっぱで
教室に戻ってきた際、今日は自習だったことを委員長に聞かされた。
担任は、娘が謎の落雷事故にあったらしく、早退したらしい。
それで、その自習のプリントとその答えを作ってくれた。いい奴だ。
普段はいい奴なのに、どうして朝の時のように暴走するんだろうな……。
……とりあえず、これからどうする?
ミントに下った指令は、この学校に潜む転送者を探すこと。
だが、ミントはクラスの女子に今頃質問攻めにでもあってるだろうし、
他クラスや他の学年に人に詳しい葵もすでに早退済み。
そして俺は、他のクラスの情報を全く持っていない。今のところ手詰まりだ。
「どうしようか……。」
どうしようもない。ため息をつき天を仰ぎ見る。
ふと、自分の前に人がいることに気付く。黒髪の少女だった。
「なんでそんな辛気臭い顔してんの、こーよー君?」
話しかけてきたのはクラスの女子の変わり者、詩野 掛値だ。
何故変わっているかと言うと、どんな相手でも対等に、
フレンドリーに話しかけるからだ。
「いや、詩野さん。辛気臭い顔って言われても……」
「まあたこーよー君俺のことを『詩野さん』って呼んでるね。
俺は掛値って名前がちゃんとあるんだぜ、わかるOK?」
「……うぜぇ。」
こいつと話してると、女子と話しているというより男子と話してる気分になる。
「……そういえば、ミントの方に女子のほとんどが集まってんだろ?
そっちに行かなくていいのか?」
このクラスに入って、俺と二人で授業をさぼるという行為がクラスの女子の
好奇心に触れたらしく、今ミントは女子の中心にいる。
……ごめんミント、そういう他人の恋愛の話、クラスの女子の大好物らしい。
そのうち勘違いと分かるだろうけどそれまで適当に流してくれ。俺もそうする。
「うーん、今行くのはなんか違う気がするんだよねぇ」
「なんで?」
「だってあの子、超面白いじゃん。あんなに可愛い女の子、久しぶりに見た。」
「詩野さんも、顔は悪くないと思うけど・・・」
「ええ~、そんなことあるけどさ~。」
「自分で認めんなし。」
「ふふん、俺はクラスの初代マドンナだからな。
認めたくなくても、他人が勝手に認めちゃうんだぜ。」
……まあ、確かにこの子は十分可愛い子なんだが。
黒髪のポニーテールは悪くない。縛ってるリボンもいいと思う。
後はこの性格さえなければ、このクラス一番といってもよかっただろうに。
「……おっと、そろそろ席に着くかね。君の彼女さんの目が怖いし。」
「彼女さん?」
「猫耳なんてつけてくれる彼女さんなんだろ? 土曜の写真見たぜ~。
大事にしなよ、by俺からの応援のエール。」
「いや、ミントとそういう関係じゃ……」
そういった彼女は自分の席に戻っていった。
変な勘違いが広まる前にとめないとな。
ミントに迷惑がかかる。こいつの指令上、目立つのは避けたいと思うしな。
「しかし、何だったんだ……?」
「紅葉。」
「うわぁ!!」
急に後ろから声が聞こえた。振り向くとミントがいた。
「何の話してたの?」
ミントが不思議そうに尋ねてきた。
「い、いや、世間話をちょっとしただけだよ。」
嘘はついてなよな、うん。
「――というか、ミントの耳で聞き取れなかったのか?」
こいつの猫耳は、遠くの声がよく聞こえるんじゃなかったのか?
「僕の周りがうるさくて……」
ボソッとした声でミントが言った。他の人に聞こえないようにする配慮か
さすがに、あって間もない人の機嫌を悪くしようとする気はないみたいだ。
「――ちょっと不知火撃とうか迷ったよ。」
「一般人に魔法撃とうとするなよ!!」
危険生物すぎるだろ、こいつ。
しかも、クラスで猟奇殺人が起きましたとか冗談抜きでできる魔法じゃねえか!!
A君が死にました、死因は心臓が切断されています。外傷は? 無いです。
……迷宮入り確定だな。笑えない。
「初対面の人に対して、あんなに質問が来るんだね。驚いたよ。」
普通の転校生じゃここまで質問攻めには合わないだろうけど。
ミントが可愛いからと言う理由が、クラスメイトの好奇心をくすぶるんだろうな。
――クラスのマドンナこと掛値さんが変人と言う理由もあるんだろうけど。
「あ、ところで紅葉、これ」
そういって、ミントが俺に渡したのは青い本、つまり魔道書だった。
……えーと
「なんで?」
「魔道書は本来、常に持ち歩くのが普通だよ。」
「いや、だからなんで?」
「それを持ってないと……」
「持ってないと?」
魔法が使えないとかいうオチか?
だとしたら、土曜の夜の練習が無意味だったことになるな。
机の上におきっぱで練習してたし。
しかし、魔道書の役割はそうじゃなかった。
「持っていれば、魔力の回復が速くなるから。」
……RPGのアクセサリー的な効果を持ってんだな、魔道書。
「じゃあ魔装武器はいいのか?」
「魔道書に収納したよ。」
そんな馬鹿な。魔道書のどこにあんな質量のものが……
「魔道書の上に物を置いて魔力を込めると、物を収納できるのさ。」
「それはいいけど、どうやって取り出すんだ?」
「後ろの方に、メモのようなページがあるよね。
そのページの取り出したいものの名前の欄に触れるとでてくる。」
なるほど、確かに触れたら出てきた。
そこには、俺が朝忘れた弁当の文字もあった。日本語ではないが読める。
しかし、RPGの袋の役割もできるのか。超便利だな。
「……それで、どうする?」
「どうするって?」
「転送者のことだ。」
ミントの目的は、この学校の生徒になるのではなく、
この学校に潜む転送者を探すことだ。
それに関して、ミントはどんな作戦で動くのだろうか?
「あ~、えっと、紅葉。」
「?」
「それは……」
それは?
「……全面的に、紅葉に任せた!! 頑張ってね。」
「――は?」
何言ってんのこいつ。
「……僕じゃこういうのは無理!!」
「おい待てこら。」
無理だよ。無茶言うなよ。
「精確には紅葉が見つける作戦を考えて、僕がそれを手伝う。」
「――おかしくない?」
「……うん、ごめん。でもママが考えた作戦は、却下したいんだ。」
どうやら、指令と一緒に、見つけ出す方法も教えられていたらしい。
「どんな作戦なんだ?」
その作戦じゃだめなのか?
「僕の不知火でこの学校の関係者を全部バラバラにする。」
「却下だな。」
確かにそりゃ却下だ。犠牲者が多すぎる。
というか、ミントのお母さんいろいろとぶっ飛びすぎだろ。
「でも、使い魔である僕が作戦を決めるのは駄目なんだ。
でも契約者なら、指令実行の際の作戦を変えてもいいんだよ。」
「じゃあ、俺が作戦を特に思いつかなかったら?」
「――不知火ぶっぱで。」
あかん、それだけは阻止しなくちゃ。
「とりあえず、作戦の決定はいつまで?」
決定までに、新しい作戦を考えなきゃな。
「あと1時間程度かな。」
「じゃあ、2時間目の授業中に考えておくさ。」
「分かった。待ってる。」
そう言うとミントは、俺の隣の席に座った。
席隣りだったんかい。
しかしどうするかな。人に聞き込みをするぐらいしか思いつかないぞ?