初めまして
登校した俺を待っていたものは、
一部のクラスの女子の憐れむような目と、
男子生徒の羨望の眼差しだった。
なぜこうなったかは大方、予想がつく。楓のせいだ。
クラスの女子は、LINEを見て、ひいたのだろう。
LINEを見たら、「またこいつばかやってるよ」的な言葉が飛びかっていた。
……楓を知らないから、自分で自分を晒してる変態と思われているのか?
男子は、クラス委員が俺の顔を見るなり、
「英雄よ、よくぞここに来てくださいました」とか言い出すし。
俺の知らんところで、英雄視されていた。
しかも、この言葉は――このクラスの男子一同からと付け足された。
「猫耳って――素晴らしいですよね。」とも言われた。
俺に賛同を求めないでくれ。頼むから。
席に着くのに、10分以上かかった。
荷物は、何故か話したこともない奴が
「お席に運びます」と言って、持っていってくれた。
何、この扱い? からかってんの?
ちなみに聞かれたことは、
「どうやったらロリっ子と仲良くなれますか?」
というような質問だ。そんなの、俺が聞きてえよ。
さらに、「妹はもう興味がないんですか!?」
という悲痛の声も聞こえてきた。
もともと楓をそんな目で見るわけない。
現実に妹をそんな目で見る変態はほとんどいないと思う。
あと、「いらないなら妹ください!!」
という意見もあったが、もちろん、断っておいた。
楓のためとかではなくて、こいつの精神のためにも
あげるわけにはいかない。
こいつのドSに耐えれる人間が何人いることか。
生半可な覚悟だと二日で鬱になる。
俺に聞いてきた質問は、
俺が変な性癖をもっているということを前提とした質問が多かった。
……俺、普通に同年代が好きだよ!!
まあ、以上のことを踏まえて言えることは、
俺のクラスの、頭沸いてる率が異常だ、主に男子の。
……こんなクラスだが一応、良心的な人はいる。
例えば、俺の前の席の男子、三矢 葵。
葵は小学4年から友達になった俺の親友だ。
席に着いた俺を見たなり、葵は
「おはよう紅葉、災難だったね。」
と言ってくれた。クラスで楓の存在を知っているのは葵だけなので
俺の事情も、多分察してくれている。
LINEをネタにからかってくることもない。
こいつと親友で本当によかった
葵は、たまに学校を抜け出すが、それ以外は真面目でいい奴だ。
……授業日数全然足りてないだろうに、何で留年しないんだろう?
人柄が良いいからか?
冗談のような理由でも納得できるほど、葵の人柄はいい。
どれぐらいいい奴かというと、普段はマイペースに行動し、
いざというときは助けてくれる。俺も何回か助けられた。
「ほんとだよ。朝から超疲れた。」
「お疲れさん、肩もんで上げようかい?」
「それはいいよ、ただ少し休ませてくれ。」
「OK、ここにいて守ってやるよ。」
「センキュー。」
「礼には及ばないよ。あ、そうだ。
寝ながらで良いんだけど聞いてほしいことがあってね。」
この、学校で是非友達になりたい人間ランキング第1位と
言ってもいいほど超良い奴の葵は、さらに情報通なのだ。
さすがは新聞部の部長だな。
聞いてほしいことがあるってことは、
また新しい情報が入ってきたのか。何だろう?
「――今日、うちのクラスに留学生が来るらしいんだ。」
「……留学生? この時期に?」
夏休み間近に留学してくるのは、ちょっと奇妙だな。
「ああ、俺もちょっと調べたんだが、
どうやら、留学と言うより転校に近いみたいだ。
親が日本に引っ越してきたから、
その子は日本の学校に行くことにしたらしい。」
そうなのか。できれば、可愛い子だったら嬉しいな。
「さっき、その子を職員室前の廊下で見かけたよ。」
「ふーん、どんな奴なんだ?」
「可愛い女の子だったよ。」
「女子か!!」
一般の男子高校生の俺としてはテンションが上がる。
「しかも、かなり可愛かったぜ。」
「フゥゥゥゥゥ!!」
外人でかわいい子か。金髪とか銀髪の女の子を想像した。
超楽しみだ。どんな子だろうな?
「ちなみに、髪は青色、背は低かったな。」
おお、青髪か……え? 青色? 背低い?
「ええと、名前はわかる?」
まだ、その子と確定したわけではない。
たまたま体格や髪の色が似た外人が来ただけだろう。
「確か、日本人の性を持っているらしいな。」
ハーフってことか?
よかった、ミントじゃない。ってそりゃそうか。
ミントはここに来る理由がないし。ミントの名字はフィニスだっけ?
「で、名前は?」
「そこまでは見てない、ただ性は紅葉と同じ姓だったな。」
辻が被ったのか?その子の親、結構珍しい苗字だったんだな。
「お~い、席着け~。」
担任の教師が入ってきた。
「お前らにも知ってるやつがいると思うが、
今日は転校生がいるぞ~。」
おお、ついに来た。葵が可愛いって言っていたから楽しみだ。
あれ・・・先生がこっちを見てる。何かしたっけ?
「どうやら、そこにいる辻の遠い親戚らしい。
じゃあ入ってくれ。」
遠い親戚? そんな馬鹿な。
家の親戚に外国人と結婚した人なんているわけ……
――その子が入ってきた瞬間、教室内の空気が変わった。
あるものは言葉を失い、
あるものは持っていたペンを落とし、
あるものは読んでいた本を閉じ
また、あるものは自分の手を強く握っていた。
その子の可愛さは、教室の空気が変わるほどだった。
確かに、この子は可愛い子だろう。
もし「今までみたことある女の子の中で一番可愛かった子は?」
と聞かれたら、自信を持って、この子と言えるほどだ。
だが、俺は別の意味で止まっていた。
あり得ない。こいつがここにいるなんて……。
頭に、いくつもの疑問が生まれてくる。
どうして俺の高校を知ってるのか、何でさっきまで家にいたのに俺より早いのか。
そして、なんでこいつがここにいるのか。
だが、現実は 戸惑っている俺を待ってなどくれない。
その子は、黒板の前まで行き、自己紹介を始めた。
「初めまして、辻 ミントと言います。
これから約2年間、よろしくお願いします。」
この教室に、ここの高校の制服を着た、ミントが現れた。
彼女が自分の名前を言った瞬間、歓声が上がった。