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夢からでる真実  作者: 天村真
希望の少年……心の中に
8/18

理念と信念

投稿遅れてすいませんorz




早くもミス発見…なおしました…


居住区を離れ三十分ほど、距離にすればたったの二十数キロしかないにもかかわらずそこは既に廃都市であった。

もう何年も公式には使われず、故に整備されることもなくなり所々に青々とした若草がはえたアスファルト。

陥没した場所も少なからずあり、どう贔屓目に見ても快適なドライブには向かない道を危なげもなく進む一台の黒いバン。


運転席に座るのは二十歳そこそこの飾り気のない女だ。

日に焼けた肌に猫のようなつり目は野生動物のようであり、革ジャンにジーパンという格好とあいまって攻撃的な鋭さを放つ。

己の見た目に関心がないのか、はたまたその素質に気づいていないのか、おそらくは前者であろうが化粧の類は一切しておらず、アッシュグレーの髪も無造作に後ろで束ねているだけだ。


小泉コイズミ 彩野アヤノは変わりばえのしない景色に目もくれずさめた目で前を見据える。砂を被った瓦礫と、そこから覗く赤黒く錆びた鉄筋しか映らない。

目を凝らすとドーム型の建物が見えた、ドームと言っても天井部分はほとんど崩落し奇怪なコロッセウムのような有様だが。



かつては野球場であっただろうドームの前にあるひび割れた駐車場にバンをとめると、足早に入口まで歩く。ガラスの割れた扉をくぐり足を止めると体をひんやりとした空気が包み込んだ。


「……あんたが会議に顔を出すなんて珍しいな『一人歩き』」


影が質量を持ったかのように闇の中から姿を現した黒づくめの男が囁くような小さな声で告げる。

彩乃はそれを無視するように再び歩き出すと黒づくめもそれに従う形でついてくる。


一塁線側の選手専用出入り口からグラウンド内に入ると彩乃と黒づくめの他、ピッチャーマウンドと二塁ベースの間に三つの人影があった。彩乃たちをたしても野球をするには頭数が足りない、もちろん野球をしにきたわけではないので関係ないが。


三人はそれぞれ程度の差はあれど同一に驚いたような表情をしている。それほどまでに彩乃がこの場を訪れる事は少ない。


「これはこれは、『一人歩き』さんがこちらまで足を運ぶとはどのようなご用件で?」


人を小馬鹿にした変声期前の少年のような声が建物内に響きわたる。

三人の中で最も小柄な影を彩乃が睨みつけるとそれは大きく笑みをつくり一歩下がった。


「私は活動報告に来ただけで長居するつもりはない、それだけすんだらすぐに帰らせてもらう」


彩乃の声が冷たく辺りを突き刺すようにこだました。それに対して黒づくめだけがやれやれといった様子で肩をすくませる。


「……それで、その報告とは何なのだ」


黒づくめが先を促す、残りの三人も好奇心からか彼女を見守るなか彩乃は口を開いた。


「まず、私たちの行っていた実験の一つ《ワンダーランド》が成功した。 それに伴い人員の増員を申請する」


彩乃の発言に一同が驚きの声を上げる。


「なるほど、それが本当ならば人手をさくのもやぶさかではない。 しかし、何か証拠はあるのかね?我々を安心させられるような何かが」


三人組のちょうど真ん中に居た者から響く低くずんとした声が彩乃の身体を震わせる。ここにきて初めて彩乃が表情を崩した。

そこには焦りの色が見て取れるが誰一人として言及するものはいない。他の者も同じ状況ならきっと同様に震えるしかない事が分かっているからだ。


「ちょ、直接的にそれを示唆するようなものは携帯していない。 し、しかし、成果ならあった。 昨日の夜《ワンダーランド》プロジェクトにて想造されたALICEが伊藤駿美の排除に成功した」


彩乃に問いかけた者以外から三度(みたび)驚きの声が上がった。それは彼女の勇気をたたえるものであり、またその成果に対してのものである。


「ほぅそれは僥倖、喜ばしい事だ。 我々にとって邪魔でしかない若造だが、本来我らの目指す場所は同じもの。 あの世で我々の悲願の達成を願っていてもらおう」


そういいながら三人組の中から一人が歩み出てマウンドにのぼると、その満足げな声音に一同は胸をなでおろす。


日光にさらされる白髪と茶色く焼けた肌に更なる明暗をつくる深いシワ、年齢をうかがわせない威厳に満ちた瞳がしっかりと彩乃を捉えている。


「我らの願い、それは全臣民の読書の自由! それを叶えるために我々は戦うのだ!」


一声一声が太鼓を打ったかのように全員の体をうち震わせる。


「考える心を、想う気持ちを、奴らに奪う資格はない! 取り戻すのだ!人々の心を、明日への希望を!」


顔を上げ全員が男を見つめる、眩しいものを見つめるように。ギラギラと瞳を輝かせる老人に彼らはそれぞれの思いを託す。


「さぁ行け!どれだけ美しくとも時は止まらないのだ、時間を無駄にするな」


彩乃は深く一礼すると颯爽とその場を立ち去る。


球場を出ると太陽が彩乃の目を焦がした。しかし、それに立ち止まることもせず一直線にバンへと向かう。

彼女は何があろうと止まらない。この先どれだけの苦難が待ち構えようとも、どれだけの命を奪うことになろうとも、その先につかむ確かな未来を信じて、今は進むことを誓ったのだから。






今回でプロローグは終了です。



次回は趣向を変えて十年前一体何があり、今どうなっているのか、それをドキュメントテイストでやろうと思ってます。できるとは思いませんが…



次回はGWスペシャルということで何か他にもやるかも…

余裕があれば…

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