本意のままに
前話投稿から二週間もたってしまいました、できれば一週間おきにはだしていきたいです。
一人称になっていたところを変更しました
結局、友人こと小御門 一心が待ち合わせ場所に姿を現したのは、彼が指定した時間を30分も過ぎてからであった。
こちらを見つけるとにこやかな顔つきで走り寄ってくる坊主頭の青年。
時間が時間なのだが、一見すると朝練に向かう野球少年、といったガタイと雰囲気をしている。
特に部活には入っていない、いわゆる帰宅部というやつなのだが、あの体型をどうやって維持しているのか彼の友人は一同首をかしげている。
無垢な笑顔をこちらに向ける一心に向かって満面の笑みで告げられるのは……
「何か言い遺すことは?」
容赦のない死刑勧告であった。
とりあえず遺言だけは聞いてやろう。 というように半眼で一心を睨む。
「え、あ、うん。 ってえぇ! そこは『何か言い訳は?』じゃねぇのかよ!?」
「あぁ悪い。 つい思ったことを口に出してしまっただけだよ、気にするな」
半眼になって一歩後ずさる坊主頭。
「冗談、だよな?」
「あぁ冗談だ」
顔つきが冗談じゃねぇよ、という呟きは無視される。
「っていうか、俺遅れるって留守電に入れたんだけど聞いてない?」
数秒、沈黙が場を支配する。
「あれ遅れるって電話だったのか?」
「あのタイミングでなんだと思ったんだよ……」
冷や汗交じりに告げられる言葉に、一心は少し引き気味に言う。
「いや、お前のことだからくだらないことでも話そうとしてきたのかと……」
「俺はそんなとこで変な冗談するほど常識はずれじゃないですよ!?」
目の前の男が信じられないといった風に目を見開く一心になおも謎の追撃が続く。
「冗談みたいに体型と私生活が食い違ったやつに言われてもなぁ」
一心は自分の広い肩幅を見ながら発せられた言葉を受け止め、投げ返す。
「夢野 誠なんて夢か現実か曖昧な名前をしたやつに言われたくはないね」
一触即発のムードを漂わせじりじりとお互いに歩み寄る。 今にも額を突合せそうな間隔まで近寄ると、どちらからともなく笑い出した。
この二人にとってこれは挨拶のようなものだ。
さてここまで当たり前の様に会話をかわしてきたのだが、一つだけ不自然なところを誠は感じていた。
「なんで制服なんだよ」
キョトンと自らの服装を見下ろす一心。
詰襟タイプの上下ワンセットの制服、この辺りでは言わずと知れた御魂学園の制服である。
「え?だってお前が目立たない格好でって言ったんだろ?学生なら制服だろ」
「イヤ、無いから。ミスマッチにも過ぎるから。なんで目立たない格好って言われて歩く身分証になってんだよ」
確かに目立たない服ではあろう。 しかし、それは同じ制服の学生達に紛れるに当たってであり、決して休日の真昼間から着ていていいものではない。
その上制服など着ていればどこの学校に所属しているかが一目でばれてしまう。
理解不能といった様子で首を傾げている一心に対し、俺は処置無しと判断。
「どこかにバカが治る薬なんてないものかな」
「おいおい誠、バカにつけいる薬はないって諺知らないのか?」
「皮肉だよ!それと《つけいる》じゃなくて《つける》な、微妙だけど違うから。 それと間違えるならもう少し面白い間違え方をしろ、ツッコミ甲斐がない……」
いやなんだよツッコミ甲斐って、とノリツッコミをする誠を見やって一心は楽しげに笑う。 眩しい笑顔であった。
「それで、何のためにきたんだっけ?」
白い歯を見せていい笑顔で問いかける一心。 白目をむくほど驚いた誠はけして悪くはなかったであろう。
××××××××××××××××××××
駿美は報告を終えるとすぐさま次の仕事があるという事で出て行ってしまった。
確かに、現状『魂の翼』に人員を遊ばせているような余裕はない、駿美のような有能な人材なら尚更だ。
諜報活動から事務作業に接客業、果ては大道の身辺整理までオールマイティにこなすものだからつい忘れがちなのだが、本来、駿美は組織内でも数少ない想造者、小説家なのである。
最近は忙殺され書く時間を確保できないとぼやいているのだが、それならばと以前休みをとらせようとしたところ「我々の性質上アルバイトを雇うなんてことできないんですよ、僕のいない分誰が仕事するんですか? しわ寄せが来るくらいなら意味がないですよ」と一刀両断であった。
「でもまぁ、あいつも誠の事は気に入っているようだしな…」
駿美はどういうわけか誠のことを気に入っており、彼への本の貸し出しは主に駿美が行っている。
先ほども報告を終え肩の荷が降りたのか途端に疲れが顔に出ていたが、その割りには軽い足取りで出て行ったものだ。
「さて…と、現実逃避はこれくらいにするか…」
そう言って駿美から渡された封筒から一枚の写真を取り出す。
そこに移されているのは一匹の蛇。かなり遠くから撮影されたものらしく、粗い画になっているのだが、しかし、重要なのはそこではなく、その距離から撮ってなお顔の形、鱗の一枚一枚がわかる大きさをしているということだ。
「ざっと30メートルってとこか、……馬鹿でかいもんが出てきやがって」
だが、駿美はこの程度の事であればわざわざこちらに出向いてまで報告してくることはない。
それにたかだか30メートルの蛇だ、軍の中隊一つで殲滅できる。
「しかし、『東方書記』が絡んでくるとなると…」
大道は何事か考えるようにぎゅっと眉根を寄せる、ただでさえ厳つい大道の顔はさながら鬼の様だ。
『東方書記』とは大道達とは目指すところは概ね同じであるのだが、そのためならばどれほどの犠牲を払うことも厭わない、そんな連中だ。
そんなやつらが、まさか……
「ALICEの制御に成功したというのか……」
二話目投稿に従って登場人物表を更新しました。
感想・批評等お待ちしております