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夢からでる真実  作者: 天村真
短編用……基本的に本編に関わりはありません
2/18

夢からでぬ真実

短編の位置的に読みにくかったのでこちらにしました。


既読の方申し訳ありませんorz



「なぁ誠、久しぶりに少し昔話をしよう」


父は四年前のある日、行方をくらますちょうど一月前の夜、そう言って話し始めた。


本以外であまり父との接点がなかった俺はこの年になって息子に昔話とは……などと面白くなさそうな顔をしていたのを覚えている。

ただ興味はあった。もともと本が好きな俺は父の『お話し』が好きだったし、いつもは生真面目な顔をして超然と構えている父も物を語る時だけは我知らずほおを緩めていた。


父の優しく胸にスッと入り込んでくる低い声が昔話の序章を彩り、俺はしぶしぶといった表情の裏に玩具を見つけた猫の心を隠す。



それはほんの少し昔のお話し。意味も価値もない、誰の記憶にもあってはならず、故に存在しないはずの物語――――






××××××××××××××××××××






「ねぇシンジ、私たちはいつになったらここからでられるのかな?」


子供の高い声がじめつく廃墟にこだまする。

発生源はぼろ布をロングコートのように纏った少女だ。傍かたわらの同じような格好をした男と親子のように肩を並べて座っている。


「さぁなぁ……外がもう少し安全になるまで……かな」


シンジと呼ばれた男は少女の問いにしばし思考し柔らかな口調で言うと、フードのようにすっぽりと顔を覆う布からぎらつく目をのぞかせ外の大通りを一瞥する。外に人の気配は全くなく閑散としていた。


つい先日までここに日常の風景があったとは思えない……などとは思わない。これが普通、これが常識。日常など奴らの手にかかれば造作もなく破られてしまう。まるで子供が障子を指で破って遊ぶかのように。

しょせんはその程度の脆弱なもの、それが現実。何かに守られているなどと思っているほうが間違い、場違いだ。そんなものは妄想だけに求めていろ。


人のつくったものは町も、日々の生活も容易く壊れる物なのだ、ガラス細工のように美しく脆い。もしかすると奴らはその上にふんぞり返って胡坐をかいている人類に罰を与えるために生まれたのかもしれない。それなら――――


「ひまだねぇ、することないねぇ」


考え込む男をよそに少女はパタパタと自分の着ているローブの端を振っている。


「私たち以外だれもいないのかな?」


「そりゃな。こんなとこに居残る物好きそうそういるわけないだろ」


彼らのいる三階建の建物は二階三階部分が大きくえぐれ、巨大な何かに角を食われたようになっている。二人が今いるのはその一階部分で、雨露はしのげるが壁にはいくつか大人一人通れそうな穴が開いていた。べつにここは二人の家ではない、いやもとから誰の家でもなくここにあったのは個人的な金融会社だ。


この町には三日前に避難令が出された。その翌日は虫の声ひとつないさみしいもので、取り残された雑貨が無言のまま佇む。しかし、その静寂は日が落ちた時に破られることになる。夜の町には異形の者どもがあふれかえり、ありとあらゆるものを壊して、壊して、壊しまくった。たったの一晩で比喩ではなく瓦礫の山が出来た、それほどのものだ。


ALICE――――奴らはそう呼ばれている。

人間の思い込みが、あるいは意思が質量を持つ物体となった者達。人々の認識により強さを変えるALICE達は、恐怖という思いに後押しされどこまでも強大になることができる。そいつらは一年前突如として姿を現し、またたくまに世界から人々の生活圏を奪っていった。

勝てないという思いが相手をさらに強化し、それがまた人々に恐怖を植え付ける。それを見守るしかない人類は、せめてこれ以上強くならないように、出会わないように逃げて逃げて逃げて――――そうして何とか生き延びていた。



さて、ではこの二人は何者か?逃げ遅れた町民か、気のふれた異常者か。答えはどちらでもない。否、後者はまだしも近しいといえるだろう。


彼らは狩るもの、人の夢を狩るもの



幾分か恰好を付けた紹介をしたところで、今の彼らは廃墟に住まうぼろ布の流浪者だ。お世辞にも人類をおびやかす化け物と対峙するものにはみえない。そのうえ先ほどから少女はキュルキュルと可愛らしくお腹を鳴らし、悲壮な顔で男を見つめていた。


「シンジ~おなかすいたぁ」


目に涙をため上目づかいに男を見やる少女。男はそのプラチナブロンドの長髪をわしゃわしゃと乱暴になでる。


「なら、そろそろいくか」


歯を見せ笑う男に少女は笑顔で頷いた。



表に出ると太陽はちょうど二人の真上に来ており、二人は眩しそうに目を細める。雲一つないさっぱりとした青空は廃都と化した町を照らし、そこかしこにある割れたガラス片をキラキラと輝かせていた。


殆どの並木が折れて歩道に倒れこんでいるため二人は車道を歩く。ここを車が走ることなどもうないのだから危険はない。

輝く道に見とれながらしばらく行くと道端に一つの看板を見つけた。赤い丸にAが描かれたそれは全国的に有名だったコンビニのものだ。平屋根のコンビニに入ると置いてけぼりの弁当コーナーからつんとした匂いが漂ってくる。

男は水とカップラーメンそれからお茶をいくつかとるとすぐにそこを出る。後ろからお菓子を両手いっぱいに持った少女も付いてきた。


「シンジこれってドロボウ?」


「泥棒じゃなくてリサイクルだよ。いやリデュースか?」


正確には3Rのどれにも当てはまらないのだが、隣でそれを聞く少女はうんうんと一生懸命に頷いている。お菓子は抱いたままだが……


コンビニの前で背負っていたカーキ色の背嚢からキャンプ用の小型ガスコンロを取り出すと慣れた手つきで火をつける。その上にさきほどの水を入れたヤカンを置くとそばにあるカーストッパーに腰を下ろす。少女はその隣で棒つき飴を咥えてコロコロと笑っている。


「静かなもんだな」


風にざわめく倒木以外にほとんど音が無い。高い建物は軒並み倒壊し空も広く感じる。そんな昼間の静寂はどこか寂しげな空虚感をかもしだしていた。


先日二人がこの街を訪れた時にはまだ群れからはぐれたALICEが残っており、いたるところから奇怪な鳴き声や建物の崩れる爆音が響いていたりした。そのうちの大半は二人が始末したのだが、後数匹残っているようで時折その被害にあった建物の悲鳴が町にこだました。


「結構探してるけど中々見つからないもんだな」


ALICEはその性質上、姿形にはばらつきがあるのだが総体して巨大な外観をしていることが多い。

これは人間が自分より大きい生物に対して恐怖することが多いのが起因している。そのおかげでALICEから逃げることは困難でも探すことは容易なのだ。

しかし現実には未だに発見できていないものが数体残っている。これはつまりどこかに巣のようなものがあり、そこをねぐらに行動しているか。もしくは考えたくもないことだが透明化する個体の可能性もある。

前者のほうは時折確認されるが、透明化を行うものの発見例は殆どない。ALICE事変直後にはカメレオンなどのALICEが確認されたが、平均五,六メートルを越す巨体の化け物たちがいくら周りの色に同化したところでその存在感まで消せるはずもなく、良く言って保護色どまりであった。お世辞にも完全透明にはほど遠い。


「だが相手はなんでもありの存在、油断するわけにはいかないよな……」


いつなんどき既知が未知になるともしれない。油断し後手にまわるわけにはならないのだ。千変万化の相手にそんなことをすれば命がいくつあっても足りない。


やっぱりしらみつぶしに町をまわって行くか、などと考えているとやかんからピーっと高いおと共に白い湯気が上がりだした。どうやらとっくの前に水は沸騰していたらしくやかんが抗議するようにカタカタと揺れていた。


「シンジお湯できてるよ?はやくラーメン!」


既に割り箸の準備までしている少女は言いながら裂きイカを咥えていた。飴の後に裂きイカ……と呟く男をよそに少女はカップ麺の準備をする。


「あ!裸王!私これすき!」


上半身裸のマッチョなお兄さんが描かれたカップ麺を手に取ると、少女は嬉々として包装をはがし始めた。


「おい、それは俺んのだぞ!お子様はそっちの銀さんヌードルにしなさい!」


関西圏ではそこそこの知名度を誇ったカップラーメンを指して言う。

男はなおも駄々をこねる少女を、裸の男はまだ早い、などと謎の論理で引きはがすとお湯を入れて時間を待つ。





結局少女は自分の分をしっかり食べたうえで男のラーメンも半分食べてしまった。


「やっぱり裸王はおいしいね~」


歩きながらのほほんと言う少女だがその手にはしっかりとペロペロキャンディーが握られていた。こってりした裸王の後にペロペロキャンディー……

手のひら大のペロペロキャンディーに顔をひきつらせながらもALICEの痕跡がないか辺りを見回す。


「お前さぁそんなに食べて後で動けなくなっても知らないぞ」


男は自分の分のラーメンを取られたことが悔しかったのかチクチクと嫌味を言う。


「あっ!女の子に食べる量のこと言うのはしつれいなんだよ!マナーいはんだよ!」


少女が男を振り返るとプラチナブロンドの髪がさっとなびく。


「食べ過ぎなのが悪いんじゃ――――――――!?」


突如として起きる地響きに二人は反射的にしゃがみ込む。


「じ、じしん!?」


机の下に隠れなきゃ、などと落ち着いているのか慌てているのか分からない少女をよそに男は答えを出す、これは地震ではないと。


徐々に大きくなっていく地響き、耐えられなくなった建物がいくつか轟音と共に崩れ去る。

瞬間、車道のど真ん中のアスファルトに亀裂が入り道がまっぷたつに裂けた。


パラパラとアスファルトのかけらが舞い散る中それはいた。


金色に輝く二本の角、角と同色の後方に流れる一対の髭、こぶし大の鱗は一枚一枚が磨かれた大理石のように白く滑らかだで、蛇のように長く鱗に覆われた胴体には蛇と違いたくましい足が二対ついていた。空と同じ澄んだ蒼のギョロリと大きな目玉が二人を捉えて放さない。


龍――――それは西欧のドラゴンと同一視されがちだが翼が無く、またドラゴンが宝を守り騎士に討たれる悪役なのに対し、龍は神聖な聖獣として描かれることが多い。

雨や川などの水をあらわすことが多いのだがどうやらこいつは地中を移動していたらしい。


「地面の下にもぐってりゃ見つけれないわけだ」


男は楽しそうににやりと笑う。


「ほらなぁ、すぐ運動することになっただろう。 これ終わったあとで腹痛くなっても俺のせいじゃないからな」


「だいじょうぶだもん。ダイエットになってちょうどいいもんね」


自分を見て面白そうに笑う男に少女は唇を突き出して答える。

なおも言い返そうとする男に龍はこれ以上待つ気は無いというふうに尾を打つ。それだけでまたアスファルトの雨が降った。

雨が降り終わらないうちに龍が仕掛ける。鞭の如くしなる身体で半円状に辺りを打ち払い、間にあったもの全てを塵に変える。

かすりでもすれば人間の体など苦も無く打ち砕けるそれは、しかし二人には届かなかった。


「やっぱり実在しない生物の方が面白いよな。虫なんかだとでかくなってたら気持ち悪いだけだし」


「私も虫はきらいかな~ なに考えてるのかぜんぜんわかんないもん」


さきほどまで車道にいた二人が歩道で話し合っている。

再び龍が尾を払う。高速で振るわれる尾は、しかし、二人の居る場所で爆音をあげ止まった。

狂ったように大量の砂塵が舞い二人の姿は全く見えない。

龍は尾を引き戻そうとし、そして全く動けない事実に戸惑い暴れる。



やがて砂埃がおさまるとそこには大きくえぐれた地面と咳きこむ男、そして明らかに異常な面積量となって龍の尾を包むぼろ布をまとった少女が立っていた。


「ゲホッゲホッ!なにあいつ!俺のこと窒息死させる気か!?」


「すなじゃりじゃりできもちわるいよぉ……」


仮に龍に心があったならこの時何を思うだろうか、もしかしたら恐怖に涙したかもしれないし、あるいは怒りに肩を震わせたかもしれない(そんな器用なことが出来るかはわからないが)

しかし、あいも変わらず暴れ続けるだけの龍に男は軽蔑の目を向ける。


「別にお前にどうこう言う事ではないんだろうし、聞いてもらおうと思って言う事でもないんだけどさ」


少女のまとっている布がさらに面積を増し徐々に龍の体表を侵食していく。


「夢見るのは勝手だけどそれを他人に押し付ける奴や、そこに逃げ込む奴ってどんな考え方してるんだろうな」


麻色の布はちょうど龍の身体の半分を飲み込み、なおも貪欲に広がり続ける。


「人にはそれぞれ意思がある。世界ひとつに匹敵するだけの心が」


ついに頭まで到達した布は突如黒く色を変えた。まるで見る者を夢の世界にいざなう夜空のような黒布は、ゆっくりだが確かに龍の全身を蝕んでいく。


「だからさカミサマ、あんたがこの世界をつくったように、俺達の心の中にも世界があるんだよ。 それを弄ぶお前が俺は許せない」


龍の目は静かにドロドロともえる炎を宿した瞳で語る男に理解不能と告げていた。

瞬間、顔の中ほどまで進んでいた黒布の侵食が一気に加速しついにその巨体全てを包み込む。


一塊となった黒布はしばし不気味にうごめくと質量を無視したかのようにするすると縮んでいく。


やがて元通りの大きさに戻ると色も元の麻色にもどった。


「おなか一杯!」


ここまで一言も話さなかった少女は満面の笑みで告げる。

ひらひらとローブのようになった布を弄ぶと何かを思い出したかのように振り返る。


「ほらぁちゃんと動けたでしょ!」


どうやらさきほどのことをまだ根に持っていたようだ。


「言ってもそんなに動いてないしな……最初だけだろ」


少女はいつも通りに戻った男に満足げな顔を向ける。


「まだ数匹いるしついでにそれも食ってくか?」


「うん!」



少しだけ傾いてきた太陽を背に二人はALICEをもとめ廃都を歩く。



それは今より少し昔のお話し。神に喧嘩を仕掛ける男と無垢な夢喰バクの語られるはずの無かった物語。






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