対峙
戦闘シーンばかり続いてすいません((+_+))
青年の矮躯に似合わぬ速度でチェーンソーが振るわれる。 首を狙った一閃は駆け引きのかけらもない、ただ子供が棒を振り回しているに等しいもので、大道は上半身の重心をずらしてそれをかわす。
ただの横薙ぎの一閃。 それも軸がぶれ刀身がぶらついていたにもかかわらず、脇の瓦礫に激突した回転刃が固いコンクリートを砕き粉塵へと変えてしまう。
さきほどから青年が腕を振る度に小爆発のような音が空を弾け、瓦礫の破片を散弾のようにあたりに撒き散らしている。 大道にとってそれはたいした意味もなく、ただ甲高い音を響かせるだけである。
むしろ青年の方がその被害を受けており、服は所々裂けその隙間からぬめりとした赤黒いものが顔をのぞかせている。
注目すべきなのはその破壊力、ではない。それくらいで己の体に傷がつかないことを大道は確信している。
その過信が大道の強さを増長させているのだ。 思い込みがその体をより重く、より硬いものへと変質させていく。
だからこそ、現覚を用いた戦闘には必然的に心理的な戦いも含まれてくる。
仮にあのチェーンソーが大道の体を欠片でも削りさえすれば、削れるという青年のイメージと、削られるという大道のイメージを反映し、結果へとつながる。
逆もまた然り。 よって、よっぽどのことがない限りは初手で決着がつくと言っていい。
故に普通であればいかに相手の虚を着くか、あるいは己がイメージをより強固なものにするかが勝負となるのだ。
そういう意味では大道に分がある。先の二戦で硬さへのイメージはついており、いわゆるウォーミングアップが済んでいる状態なのである。
青年の有無を言わさぬ攻勢は本来であれば有効な手段となっていただろう。
無理矢理自分のペースに巻き込んでしまえば勝利するのは容易いと言っても過言ではない。 しかし、今回は大道の準備はすでに整っており、そこに電光石火の早業は通用しない。
大道という砦を崩すのにそれは下策であると言える。
(あるいは奥の手でもあるのか……)
振り切った姿勢から放たれる逆袈裟斬りが駆動音と共に目の前を過ぎ去る。
先ほどのヘビと違いちゃんとスピードはあるが、考え事をしながらでも容易にかわせるほどに単純な攻撃である。
全くもって戦闘になっていない。
下策というよりも無策。
ただ闘争を愉しんでいるだけのようである。
三日月のようにゆがんだ口から熱い吐息が漏れ大道の顔にかかった。
振り上げた刃を無理矢理振り下ろす。
必然、勢いは殺され大道には届かない――――はずであった。
大道はあえてそこに身を踊りこませ、青年との距離を無理やりに詰める。
そこからかわせるはずもなくチェーンソーがその肩を捉えた。 勢いがなくともその回転刃は必殺の破壊力を孕んでいる。
獰猛なエンジン音が響き渡り、火花がまさしく花の如くに咲きほこる。
しかし、その花は咲いた次の瞬間には散っていた。
回転刃は大道の肩に触れ、鐘を打ったかのような音を響かせ、弾かれた。
青年は驚愕の表情を浮かべ、弾かれ、吹き飛ばされたチェーンソーを見る。
声もなくありえないと口が動き徐々に視線が下へと落ちる。
回転刃を受けた大道の肩は滑らかに光を反射させていた。
「当然の結果だ」
彫像のように硬い表情の大道は告げる。
「は、はは……ははははは!」
俯いたまま肩を震わせ、狂ったように笑いだす。 勢いよく上げられた顔には狂気が張り付いていた。
大きく開かれた瞳には妖しい光が灯り、刃物で切り裂かれたかのように口端を吊り上げて笑っている。
「なぁに勝ったようなこと言ってるんですか?」
目玉がギョロリと動く。
「勝手に決めつけてんじゃねぇよ」
低く囁くが如く、声が口から漏れ出る。
至近距離で青年の右手が振るわれた。右から左への一閃。
高い音が尾を引くように空気を震わした。
「まだ終わってなんかないですよ」
再び顔を歪め青年が笑う。
大道は自分の体についた浅い、しかし長く伸びる傷跡をみて――――――嗤った。




