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あいつは俺が首吊りをしたことを見抜いていた。なぜだろうか。本当にあいつの内部には物知り村長が住んでいて、様々なことを教えているのだろうか。だから俺が首をくくった人間だとわかったと。俺はタートルネックの服を着ていたから、首吊りの赤い痕が他人に見えるはずがない。
藤堂の言っていたことが本当で、奴の内側に世界があるのだとしたら、
謎めいているが、俺のことを見抜いた奴はまるで超能力者で、ラマかアニメの登場人物のようである。何だか少しわくわくする。
奴の言っていることがすべて本当だとすると、この町には二千人ほど、毒電波で脳をやられそうになっている人間がいるということになる。たしかに放っておいてはいけない数だ。二千人というのは。
そういえば、と思い出す。
俺はノートパソコンを起動して、『夢見ヶ島』にアクセスする。
『声が聞こえる』
スレッドを開いてみる。
しかし返信はない。
俺はスレ主が統合失調症なのかと思ったが、もしかしたら、この人も毒電波攻撃を受けているのかもしれない。
それにしても、それは一体誰が。
誰がそんなことをしているのだろうか。平和を乱すために活動する、悪の秘密結社シ●ッカーとかですか。そんな連中が本当にいるとしたら、女子高生一人じゃ手に負えないに決まってる。仮面ラ●ダーがいればきっと世界は平和になるが、奴はお祭りでお面だけ飾られているだけだ。現実に仮面ラ●ダーはいないし、シ●ッカーもいない。
とは言い切れなくなってきた。
神さまを気取った女子高生は俺の首吊りのことを言い当てたのだから。
内側に世界を持っている女子高生。
もう一度会うことはあるだろうか。神社の拝殿でノートパソコンをいじくり、世界平和のために活動するあの藤堂 風羽美に、俺は再び会うだろうか。
クローゼットに仕舞ったロープを取り出して、ぎゅっと握り締める。
しっかりとした12mmの白い縄は、電気コードと比べてだいぶ分厚いため、あまり頚動脈をびったりと押さえてくれない感じがする。
いまだ、首をくくりたいという気持ちは強く存在している。
この町の平和など知ったことか。
そんなことよりもうどうしようもない俺という人間を自分の手で殺すことを優先しなくてはいけない。
まあ、どうやら俺には首吊りの才能がないらしいのだが。
いや、首吊りだけじゃない。俺は何に関してもグズ野郎だ。
世の中で生きることに向いていないのだ。
そう俺は今こそ、自分自身を全否定し、この身を殺さなくてはならない。
何にもないから。
藤堂 風羽美のような使命も持ち合わせていない。
生きる意味や、目標もない。
ただただずっと惰眠を貪り、ご飯を平らげて、無意味にそれらを消化していた。
死のう。
再度そう決意した俺は、足音を上げないよう警戒しながら一階と二階を繋ぐ階段のところまで移動し、ロープを首に巻いた。手すりにロープの先端を巻き付けて、ぎゅっと両目を瞑ってから決心をする。死のう。死ねる。
ぐいっと体重をかける。やや意識が薄れていく。今回はうまくいったか、と清々しい気分で俺は心の中で喜ぶ。そこで夢のようなものも見た。誰もがみんな尻尾の生えた悪魔になって夜を羽で泳ぐ夢だ。月が満月で、狼男の咆哮が遠くで鳴り響いていた……。
ピンポーン。
チャイムの音だった。
俺は意識を取り戻していた。
なぜ意識が失われたのにこんなことになってしまうんだ、と思いながら縄を解き、おそらく宅急便だろうと見当をつけて外に出た。邪魔された恨みに唾でも吐いてやろうかと思いながら宅急便の人の顔を見ると、それは藤堂 風羽美だった。
「あなたを救いにやってきたよ」
頭をクイッとさせてから、彼女はにっこりと微笑んだ。