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 本部はすぐ近くだった。シャッター商店街の中にあった。

 その大きめの建物にはかつてマ●ドナルドが入っていたようだが、現在は何も経営されていないようだ。

 壊れた自動ドアを手動で開けて、連中はそこに入っていく。

 俺たちはしばらく待ってから、その建物の影に身を置いた。

 声が聞こえてくる。

 ヒュー、ヒョー、だとか叫んで盛り上がっている。

 中に藤堂がいるわけもないだろう。

 あとは彼女が現れるまで待つだけだ。俺たちはあいつを手助けできる。たった一人の女子高生に怪人の相手をさせるなんてことをせずに済むのだ。燈名くんもそういう気持ちなのだろう。助けられた恩もあるだろう。

 そして今俺は心臓が高鳴っている。これだ、この感覚を味わいたいんだ、と思う。これは平和で何もない毎日の幸福とは、まったく違っている。

 現実から抜け出して、命懸けの戦いを怪人に挑む。

 これはそう、まさに逃避だ!

 俺は逃避の中に身を置いてスリルを味わう。このことが何よりも大切なことなのかもしれない。危険の中にこそ……。

 そういう場所に俺を導く存在は、それは藤堂だ。怪人や、怪人0号だ。

 彼女はまだ現れない。もしかすると、今夜中現れないかもしれない。だがヤツには物知り町長がいて、きっと俺たちが本部近くでこうして藤堂を待っていることも、知っているに違いない。

 とすると、あいつはやってくる。

 もうすぐやってくる。

 藤堂は向こう側から、それかあっち側から、現れるに違いない。そっから、パーティーのはじまりというわけだ。危険の中に刺激がある。現実のためには一切ならない、こんな逃避行為。だけどそれが今、俺にとっては大切なのではないか。

 あとは、あいつが現れるだけだ。

 きっともうすぐくるぞ。

 くるよな?

 どうなんだろう。

 これでもしこなかったら、どうしよう。

 俺たちは負け犬みたいに惨めに、この場から逃げ出すことになってしまうだろう。

 藤堂がいなきゃ、立ち向かえないのだから。

 でも、間違いなくあいつはやってくる。

 もうすぐだ。あと三十分くらいだ。

 きっと今頃あいつも自転車を漕いでいるのさ。

 来た。あいつがやってきた。

 本当にきたぜ。

 と思ったら、ただの帰宅途中の女子高生だった。

 こないのか?

 そう思っている最中に、背後のガラス窓が割れた。すごい勢いで割れた。窓側から出てきたのは怪人の一人だった。その怪人はなぜか、気絶していた。

 まさか、と思った。

 そう、戦いはとっくに始まっているのではないか。

 俺は慌てて隠れる位置を変えて、もっと中の状況が良く見えるところに姿を移した。

 藤堂がいた。

 彼女は怪人たちを相手にしていた。俺たちよりもずっと前に、建物の中に侵入してチャンスを窺っていたのだ。

 俺たちが手伝う必要は、残念ながら、ないように思える。

 呆然と立ち尽くしている間に、彼女は怪人たちを全滅させてしまったからだ。

 彼女の目が真っ赤に光っているような気がした。見間違いかもしれないが。

 こちらに気がついた藤堂が、挨拶として軽く手を上げた。

 俺たちも手を上げた。苦笑いしながら。

 俺は藤堂と一緒に戦う必要がないのだとよくわかった。彼女一人でも、十分に奴らを壊滅できるのだ。なぜ藤堂がそこまで強いのかはわからない。圧倒的な個人だ。なぜ以前は負けて連中に改造されそうになっていたのか。以前より強くなっているということか。怪人0号としての彼女は、戦闘能力が日々成長しているのかもしれない。

 涙が溢れそうになった。俺は目をこすって、藤堂に「気をつけろよ」とだけ言った。

 あいつはこくりと頷いた。



 

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