21
気が付くと、病院だった。
いやはじめはそこが病院だとは思わず、死後の世界なのだと思った。というか、そう思いたかったのだが、俺の自殺は未遂で終わったのだとやがてわかる。
家族がいたのだ。
俺はいろいろなことを言われ、そのおかげで、ぼんやりとここが現実なのだとわかった。
どうやらここは精神科らしいともわかった。
先生がやってきて、いくつかの質問を俺に尋ねた。俺はそれに答えつつ、泣きたい気分になって
いたのだが、一つとんでもないことに気が付く。
これでは薬が飲めない。
まさか両親に持ってきてもらう訳にはいかない。みるからに錠剤なのだから、飲み合わせに駄目だと言われるに決まっている。そもそも、なんて説明すればいいのか。
”怪人になってしまうんです”、とはさすがに言えない。
先生が立ち去り、やがて家族も見舞いから帰った頃、俺は何とかして藤堂と連絡をつけなければとんでもないことになる、と思った。
(藤堂、薬を持ってきてくれ!)
と数回電波にのせるようにして思ってみたが、そんなのが通用するはずもない。
物知り町長が教えてくれればいいのだが、そんな都合良く伝わるわけがない。
俺は焦り、一日だけ外出させてくれないか、と看護師さんに頼み込んだ。一日でも戻れるならば薬の回収くらいわけない。
しかし、向こうからすれば俺は自殺未遂をしたばかりの男だ。そう簡単に自由にするわけがなかった。
俺は閉じ込められたような錯覚に陥り、イライラしてきた。
このイライラはまずい。
そんな風に焦っている内に、数日が経過した。
俺の視界は再度真っ赤に染まってしまった。俺は自分から拘束されたいと申し出たが、それも却下された。先生や看護師さんに何度も相談したが、やはり却下された。しかし何度もしつこく申し出たので、相当嫌われてしまっただろうが、拘束を許可してくれた。
だが拘束をしてもらってからも、暴れたい衝動は当然ながらある。
見える人すべてを殺したい。俺に関わるすべての人間を八つ裂きにしてしまいたい。
手足が震える。やがて身体も震えるようになった。
やがて発作を起こしたようになってしまい、看護師さんや先生がやってくるようになった。再度いくつかの質問を受け、答えた。そして対処として身体の震えを抑える薬をもらうことになった。それを飲んでも震えは収まらず、むしろひどくなっていった。
そんな感じで一週間が経過した頃、藤堂がやってきた。
見舞いの花を持って、藤堂は薬も持ってきてくれたのだ。
「遅くなってごめんね」
いくつかの言葉を交わすだけで、彼女は帰っていった。
街は平和になったのかな、と俺は藤堂に尋ねた。
いいえ、と藤堂は首を横に振った。
俺の手伝いが必要じゃないか、と俺は藤堂に尋ねた。
いいえ、無理をしないで今はここで治療を受けて、と藤堂は首を横に振った。
藤堂が帰ってからは、まさに暇だった。
デイルームという患者さん同士が話し合える空間もあったのだが、俺はいつ怪人としての発作が起きるかわからなかったので、そこには行かなかった。
窓の外を窺うと雪が降っていた。今年は例年と比べて雪の降る量が多い。この地域では積もる程の雪は一度きりくらいだが、もう三回は積もる程の降雪があった。
今後首吊りはしないと誓いますか、と先生に言われた。俺は、誓います、と言った。
二ヶ月くらいで、俺は退院した。




