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薬は一ヶ月分。長期に渡り飲んでいかないと、再度怪人になってしまうのだという。だがとりあえずは一週間が経過した現在、視界が真っ赤だった現象は収まった。
こうなるまでが大変だったが、俺はまともな人間に戻れたということになる。
薬を毎日飲むのを忘れないように、気をつけている。
藤堂の手伝いをするのは、俺がまともな人間に戻ってからにする予定だ。
「それにしても、藤堂の手伝いをするようになって良かったよな。俺の人生にとって」
何の目標もなかった人生が、首吊りするしかなかった人生に、すこし光明が射してきたような、そんな感じがするのだ。毎日することもなくひきこもっている人生に、たしかな光が射してきたようだ。
だが、だからこそ。
ここで首を吊らなければいけないような気がする。
射し込んできた光など、幻だ。すぐに消えてなくなってしまうに違いなかった。
その昔、いじめに遭っていた頃の俺は、毎日思っていた。
期待していた。
いじめがある日ぱったりと無くなるのではないか、と。急にいじめが終息し、平安な毎日を送れるようになるんじゃないかと、そう思っていた。
毎日、俺は学校にたどり着くまで、そう願っていた。だが、そんな神頼みみたいな思考回路をしている時点で、人間として駄目だったと今にして思う。
神さまなんかに頼らず、自分自身の手で問題を解決しなければならなかったのだ。
今だって同じことだ。
藤堂の手伝いをしていると普通じゃ有り得ないような経験ができて、楽しいし、人生にとってプラスだと思う。
だが、それは一時的なことだ。
俺が職歴無しのヒキニートである事実は、ほとんど変わらない。
死ぬしかないのだ。
という訳で、またもロープを手に取った。幸いにして現在は家に誰もいない。やるなら今が好機だ。俺は階段まで向かい、いつものように準備し、首にロープを引っ掛けて、体重をかけた。
俺はその一連の動作によって、どうやら、気絶することには成功した。
花畑が広がっている草原に佇んでいた。
三途の川が見えて、向こう側に、おじいちゃんや、おばあちゃんがいた。
俺は手を振ってから、その川を渡ろうとするのだが、その場ですっころんでしまう。
するとなぜか、視界が真っ赤に染まった。
そして川に血が大量に流れて、川の色が真っ赤に染まるほどの事態となってしまう。
誰の血か。みんなの血だ。




