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縛られたままおにぎりを食わせてもらった。
口に押し込んでもらい、梅と明太子を食らった。そののちにサイダーを流し込んでもらい、水分補給も完璧だ。立ち上がり、よし、と気合いを入れた。
藤堂も立ち上がり、コンビニの袋をゴミ箱に捨ててから、じゃあ行ってみようか、と言った。
俺たちは自転車にまたがって、二人乗りで街中を飛ばした。俺は鎖のせいで運転できないので、藤堂の後ろに乗っかっている始末だ。女の子の後ろに乗っているなど、なんだか気分が悪い。
通り過ぎる人々を殺してしまいたかった。
やがて、街の外れにやってきた。怪人の本部まであとすこしだ。
藤堂が道を知っているだろうから、俺は呑気に口笛なんか吹いた。
「しっ。そろそろ近いから」
「どうにしろ、俺たちのことバレてるんじゃないの」
「百%そうだとは言い切れないでしょ」
藤堂は自転車を空き地に置いて、歩き出した。
「ここから、歩いて三分くらいのところ」
「じゃあ、拘束、外してくれ」
「自分で出来ないんだ」
「鎖をひきちぎっちゃうと勿体ないだろ」
「じゃあ外すよ……はい、これで大丈夫」
「よし、ありがとう」
慎重に歩いた。音がなるべく鳴らないように。
思考が真っ赤に染まり始めていた。どうやって殺してやろうか、と内側のどす黒い炎がめらめらと燃え滾っているのが自分でもわかる。怪人をひとり残らず殺したい。殺してしまいたい。俺だけじゃ難しいけど、藤堂もいるからきっと上手くいく。そして藤堂もぶっ殺す。
だめだ、そうじゃない。藤堂は仲間だから殺しちゃ駄目だ。
焦りは禁物だろうが、急ぎ薬を飲む必要もあるようだ。
そしてたどり着いたのが地下室へと繋がっていると思われる階段。露骨に怪しいその階段には鎖が引いてあった。おそらく侵入者対策に電流とかが流れているに違いない。
そんなこと思いもしないのか、藤堂は鎖を一刀両断した。
「もっと用心深くいこう」
そういうが聞いていないらしく、スタスタと階段を降りていってしまう。
あわてて追いかけるが、その時に階段を踏み外してしまい、転びそうになった。あぶない。
「いくよ」
藤堂はもう階下にある鉄製の扉に手をかけている。恐れや怖さといった感情がないのだろうか、この人は。やっぱり藤堂も怪人0号だから、好戦的な性格なのかもしれない。かくいう俺も怖さや恐れはもはやない。準備万端、怪人たちを殺す気満々だ。
藤堂が、扉を開けた。鉄製の扉は錆びていて、そのせいでひどい音が鳴り響いた。
俺と藤堂は開いた瞬間に扉の中に飛び込んで、まず部屋がどのようになっているのかをチェックした。怪人の数は五、六人。全員はいないようだ。となればチャンス。
俺はまず身を隠すこともせず、鎖を巻いている傘で、一番近くにいる男に振り上げた。そして振り下ろす。
すると手で受け止められてしまったので、もういちど今度は横からバットを振る要領で振ると、それもやはり手で受け止められてしまう。仕方がないので俺は鎖傘を手放し、素手で戦うことにする。相手の鳩尾めがけて、一発のアッパー。
たまたまそれがいい具合に入ってくれたらしく、その怪人は前のめりの姿勢になり、苦しそうに呻いた。俺は好機と見て、その怪人をさらにぼこぼこにして再起不能にした。
まずは一人。次はどいつだ。
藤堂の背後を狙っている怪人がいた。羽交い締めにでもするつもりなのだろうが、俺がいることを忘れてもらっては困る。今度は藤堂をやらせない。怪人は一人残らず殺す。まずは全員を動けなくしてから、一人一人を殺してしまおう。
というわけで俺は手近にあった、怪人が使用するのであろう鉄パイプを手で握りしめ、背後から怪人の肩をぶっ叩いた。その後に、気絶する程度の強さで後頭部を叩いてやった。
そして気が付くと、全滅していた。藤堂が三人ほどを瞬殺していたということだ。
藤堂は薬を持ってきてくれた。
俺は錠剤のそれを飲み込んだ。
そして怪人たちの部屋に置いてある、いろいろ怪しげな装置を、破壊した。アンテナのような形をしたその機械が、おそらく毒電波を発信していたのだろう。他にも怪しい機械がいくつかあったので、それらすべてを叩き割って破壊した。
これで街の脅威は無くなった。
藤堂と俺は、脱出した。




