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秘密結社チェッカー。
それが敵の名前だ。世の中を征服することを目論む、悪の組織だ。たくさの怪人を作り出すことで戦力として、組織を着々と巨大にしている。
様々な手段を使う連中は、毒電波を流したり、洗脳講義を開いたりしてきたらしい。
怪人0号という存在は、怪人の中でも特別な存在だ。全世界に何人かずつが配置されていて、東北とか関西の方にも0号はいる。0号は数十人はいる。
彼らは普段、記憶を奪われている。
そして怪人たちと戦うように仕向けられる。怪人の情報を脳の声から知る彼らは、それぞれ独自でその街にいるチェッカー怪人と戦うのだ。
チェッカーはなぜわざわざ0号を作り、他の怪人たちと戦うよう仕向けるのか。
それは、戦うことによって組織を大きくするためだ。
対立する存在というのは、組織が大きくなるために必須だ。どんな悪役も、主人公がいるからこそモチベーションが保たれるし、いろんな兵器を作ろうとするものだ。
この街、いや、世界には、ヒーローがいなかった。
仮面ラ●ダーがいない。
だからチェッカーはヒーローを開発した。それが0号だ。藤堂 風羽美だ。
「私、馬鹿みたいじゃない。悪の組織に手を貸していたようなものじゃない」
藤堂はそう自嘲し、塞ぎ込むように、部屋の隅で体育座りした。
戦う女子高生は、落ち込んでしまった。
「戦えば戦う程、やつらの思うツボだなんて」
「連中ももどかしいやり方をするもんだね。ドラゴ●ボールの修行かっつうの」
「よくわからないけど、そうだね、きっと」
藤堂は怪人0号。
至って普通の女子高生にしか見えない。
だがたしかに、それなら、説明がつく。
奴らがこっちを追いかけてこないのも、藤堂を生かしておいた方がいいからだ。
奴ら自身が作ったヒーローだ。わざわざ殺しはしないのだろう。
彼女を殺してあげないと可哀想だ。
「首吊りしようか。心中しようか」
「はい?」
「世界から消えれば、怪人0号とか、秘密結社のこととか、全部どうでもよくなるんだぜ。俺は怪人になって、人殺ししかねない状態だ。だったら、自ら」
「命を絶ったら、その先にあるのは地獄だよ、きっと」
「地獄? そんなのは宗教の話だよ。生きている誰もがいつかは通過するのが、死、だ。死の先にあるのは天国でも地獄でもないさ」
「じゃあ、無? なんにもないとか?」
「それも夢がないな。でもさ、生きてる人間は誰も死後の世界を知らないなんて、とてもロマンチックなことだと思わないか」
「ロマンはあるかもだけど、死ぬのは怖いな」
「死ぬのは苦しいから?」
「わかんない。でも、首を吊りたくはないな。首吊りに死体になっているところを誰かに見られたくもないし、物知り町長もやめとけって言ってるし、それと私は首吊る必要はないもの。学校にも通えてるし、普通の人生だよ。怪人0号であるという点以外は」
「そう。じゃあ、俺だけだな。人を殺す前に首を吊るよ」
「やめてよ。そんなの、怖い」
「でも人殺しになるよりはマシだ」
「なんて言っていいか、よくわからない」
「それが駄目なら、俺は、薬が欲しい」
「私は、奴らをどうにかしたい」
じゃあ、することは一つだ。
『声が聞こえる』
『夢見ヶ島』にたてられていたそのスレッドを覗いてみると、返信がいくつもあった。『夢見ヶ島』で一番賑わっていたのだ。驚きながらその返信の内容を覗いてみると、『私も声が聞こえます』とか、『最近調子が悪い』とか、『これはテロだ』とか、そういう書き込みが見受けられた。
着々と、怪人たちの魔の手が日本中に蔓延っていた。いや、世界中かもしれない。
世界征服のための準備が進められているのだろう。
俺と藤堂は、まずこの街で活動している怪人を、殲滅することに決定した。
俺には破壊衝動を抑える薬が必要で、連中はそれを持っているそうだし。藤堂も連中を完膚無きまでに撃破したいと言っている。
藤堂は、悔しいのだそうだ。自分も怪人であるという事実が許せない。だから自分を怪人0号にしたてあげたチェッカーを憎むと言っている。
まずはこの街で活動している怪人を撃破し、その後に、日本中の怪人を退治する。それはとても忙しいだろうが、学校を休んででもそれを達成してみせると、藤堂は決めたらしい。
そんな藤堂を八つ裂きにしてから、首をひきちぎって川原に放置したい。全身にナイフで切り傷を与えて血塗れにし、髪の毛を引っ張りながら地面にずるずると引きずりたよい。さらにはそれで弱った藤堂に灯油をぶっかけて、火を点けてしまいたい。
……ああ、やっぱりだめだ。
そういうわけなので俺はぐるぐる巻きのままだ。
この殺人衝動というか、殺意に満たされる感じは、すべて怪人共にぶちまける予定だ。それまではぐるぐる巻きのままでも仕方がない。本当は鎖など簡単に引きちぎれるが、それを理性で押さえ込んでいる。案外、余裕がない。
なので作戦はなるべく早めに決行しよう、と藤堂には言ってある。
さっきから十五分以上、公園で待っているのだが、コンビニに行った藤堂はなかなか帰ってこない。まあ近くにいられると殺意を向ける対象になってしまうので、それはそれで構わないのだが。
しかし寒い。今年の冬は例年と比べて寒くはないだろうか。
ブランコ漕いで、運動して、寒さを忘れよう。
視界は真っ赤だけれども、きっとなんとかなるさ。
コンビニのパンでも食って腹ごしらえしたら、怪人退治に赴くとしよう。
街に平和を!
そして俺は平和な街で通り魔になるんだ。通り過ぎる人すべてにナイフを突き立てて、血肉を切り裂くんだ。あるいは俺がやるのと同じように首吊りを無理やりさせて、その嘆く声を録音したい。どうすればそういうことができるだろう。ワクワク、楽しそう。
って、違ーう。




