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「藤堂、俺は怪人にされちまったんだよ! 助けてくれよ!」

 俺は泣きつくようにしてそう叫んだ。俺も十八号もぐるぐる巻きにされて、拝殿の中に運び込まれた。

 藤堂は強い。超人的な運動神経で、俺たちを撃破したのだ。そんな彼女に対してはもう泣きつくしかない。

 我ながら情けないが、もうそれしか手段が残されていない感じがある。殺しにかかったのだ、殺されても文句は言えない。そのことを藤堂に言うと、はあ、とため息をつかれた。

「別に殺したりはしないよ。道案内してもらいたいし」

「本当にすまなかった。今でも殺意みたいなのは湧いてくるから縛ったままでいい。道案内ならいくらでも。ただ街中を縛ったまま歩くってのは目立つな」

「両手だけ縛っていこう。あなたじゃなくて、十八号の方を連れて行くよ。危険だもの。あなたはここで待ってて」

「わかった。藤堂が言うならそうする。ここで縛られたまま待つ」

 藤堂はこくりと頷き、

「怪人になったからって、絶望することないよ」 

 と朗らかに告げてくれた。

「怪人から人間に戻れる薬とかも、あるらしいよ」

「物知り町長が言ったのか?」

「そう。彼の言っていることはやっぱり正しかった。そして今から、十八号くんの案内の元、やつらの本部を叩いてみせる。今の私はかなり調子が良いから、きっと上手くいくと思う」

「帰ってくるよな」

「当たり前でしょ。怪人なんて、全員金属バットで、撃退、撃退」

 微笑んでいる彼女は、だいぶ優しい雰囲気だ。そんな彼女をこの世から葬り去るための方法を考えている。例えばどうすれば彼女は悲鳴を上げて、俺に助けを乞い願うようになるのか、とか、どうしたら世界平和を目指している彼女の格好良さを台無しにできるか、とか、そんなことが頭の中で回転していて、時に脳味噌に突き刺さるようだった。

 きっと怪人になったことによって、思考回路が殺人用にチューニングされてしまったのだろう。

 藤堂が薬を持ってきてくれることに期待して、俺は鎖に縛られていよう。そうでないと、きっと、本当に殺人を犯してしまう。

 今日だって藤堂が戦う女子高生だったからよかったものの、一般人相手だったらその人を八つ裂きにしていただろう。藤堂が弱かったら、彼女のことをなぶり殺しにしていたと思う。超危険人物になってしまった俺こと怪人三十三号は、視界がまだ真っ赤なままだ。

 俺は藤堂と十八号の後ろ姿を見送る。

 待つ間どのようにして暇を潰そうかなと考えてみると、すぐにピンときた。俺は声を掛けてみる。すると返事がすぐにやってきた。まるで今までずっとスタンバイして待っていたかのようで、いらつく。殺したい。

『なんだよ。イライラしても健康に悪いだけだぜ』

「俺はお前のこともぶっ殺したい」

『諦めろ。自分の脳味噌の中にいる相手を殺したら、自分も死んじまうぜ』

「人間には、薬っていう手段があるんだよ。藤堂がいずれそれを持ってくる。俺はそれを奪い取って使って、そしてお前を殺すんだ。うるさいからな、頭の中で声が響いていると!」

『それより、小学生と中学生と高校生。殺すならどれを殺したい』

「うるせぇよ、サイコ野郎」

『お前もサイコ野郎なんだよ。俺と同じ穴の狢』  

「違う。俺は自分がどんな人間なのか、わかってるんだ。俺は、臆病なひきニートだ。殺人なんてできる度胸すら、持ち合わせていない」

『だがお前は怪人になった。一般人なら余裕で、殺せるぞ』

「どうにしろ、この鎖をほどくつもりはない」

『違うな。お前は理由があればこの鎖を引きちぎってみせると思うぞ。ちょっとしたキッカケというヤツだ。それさえあれば、お前は怪人として、味わい深い経験ができる。強盗も人殺しもしたい放題だ。警察なんか相手じゃねえ。相手になるのは藤堂 風羽美くらいだ。その藤堂も、おそらく本部で捕らえられ、怪人として改造されるだろう。助けに行かなくていいのかい。助けに行くには、この鎖をほどかないと駄目じゃないか』

「鎖はほどかないぞ。絶対だ」

『ふうん。まあいい。お前の本当の声を、俺は聞いているぞ。暴れ回りたいのだと、知っているぞ。しかし今はその時じゃないらしい。とても残念だよ』

「俺は安心してるよ」

 なんとか乗り切ることができたように思う。喋っている最中、俺はたしかに鎖を引きちぎりたいと思った。何度も思っている。しかし鎖をひきちぎってしまえば、おそらく、もう戻ることはできない。暴れまわってしまうだろう。

 だから、俺は藤堂を待つことにする。

 あいつならきっと、本部をぶち壊すことができるだろう。

 そのついでに薬をもらって……。それでオッケーだ。俺はまた首吊りについて悩むうだつの上がらない日々を送るのだろう。それはそれで辛いのだが、殺人犯になるよりはマシだ。

 

 


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