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視界が真っ赤で、気持ち悪い。
藤堂を殺したい。
俺は暴れたい。そしてすべてをこの手に収めるんだ。この気持ち悪さも藤堂を殺したいという思いも全部ふくめて、暴れて、ストレスの発散がしたい。
俺は名残神社の拝殿前で、藤堂の名を呼んだ。「藤堂 風羽美ー」
彼女が俺の声に気がついた。そんな気配が拝殿の中で膨らんだので、藤堂が間違いなくいるのだとはわかった。なにせもう夜だから。
戸が開いた。
「どこにいってたの。心配したよ」
「心配してくれてありがとう。そしてさようなら。俺はもう怪人になったので、怪人らしく君を殺そうと思います。声が聞こえてくる気持ちを味わいました。気が狂いそうになりました。藤堂のこと世界を救うとかいう意味で、人間的に尊敬してるけど、それとは関係なしに君を殺してしまいたいんだ。全部が真っ赤で血の色で、たまらなく気分悪ぃ。こ・ろ・す」
あまりにも早口でまくしあげたために、藤堂は俺の言っていることの意味がよくわからなかったらしく、首をかしげた。少しの間ができて、俺たちは向かい合ったまま、しばし見合った。
そして状況を察知したのか、それとも物知り町長に何かを教えられたのか、藤堂は金属バットを構えて俺を睨みつけた。そして正解を言う。
「あなたは、怪人になってしまったんだね」
「そうらしい。もう自分でも気持ちをコントロールできないんだよ」
「殺して欲しい?」
「嫌だね。痛いのはゴメンだから、俺がお前を殺すよ」
「じゃあ、かかってこい。ぶったたいて、気を取り戻させてあげるから」
彼女はその場で跳躍し、ワイヤーアクションでもしているのかと思う移動をした。常人には到底無理な距離を、飛び上がった。着地すると同時に、金属バットを振り下ろしてきた。俺は怪人になったことで頑強になった右腕をかざすことによって、その攻撃から身を守った。
彼女は戦士。世界に平和をもたらす。
俺は怪人。悪を振りまく存在だ。しかも下っ端。
はじめからどちらが勝つかなんて決まっているようなものだ。藤堂にはどうやら超人的な能力があるらしく、怪物にも引けを取らないのだ。
「食らえ、チェーンナックル!」
彼女がそう叫ぶと同時に何処かに隠していたチェーンが俺の方めがけて飛んできた。それが俺のことをぐるぐる巻きにして、身動きを封じた。俺は怪人の怪力でその鎖をほどこうとするが、いくら力を込めても脱出することができない。
それを助けたのが怪人十八号だ。様子見をしていた彼は突如として俺の背後に現れると、
「面倒みさせやがって」
という言葉と共に、鎖を切った。
自由になった俺は再度、藤堂を殺すために動こうとしたが、お前は下がってろ、と先輩怪人に諭された。俺はおとなしく引き下がることにした。怪人十八号の目が血走っているので、下手に命令に逆らうべきではないと思ったからだ。
「狩りの仕方を見せてやる。おとなしく学んでおけ」
藤堂と十八号の戦いが、そうして始まった。
俺は静まらない殺意と共に、その二人の高速戦を、見ていた。
やがて決着はついた。




