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ドクターK少女  作者: レザレナ
第二話 スーパー一年生
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第二話 第三部 天才

 キャッチボールを終えると打撃練習とともに守備練習を行うことになった。二ヶ所でバッティングを行い、守備はポジションについて守る。良くある守備練習だ。まず、最初にピッチャーとキャッチャーに打たせる。そして打ち終わったらブルペンに入る。そのような流れだった。私もピッチャーなのだが、なぜか一年の中で打つ順番が最後になった。自分もピッチャーだっとコーチに言ったが、こう答えてきた。

「私は一年生の打撃を全部見てからブルペンに行く。亜弓の球をじっくり見たいからわざと遅くした。」

 私の球をじっくり見る? そんなに私のピッチングに興味があるのだろうか。それだけの実力が私にはあるのだろうか。しかし……。私は期待と不安が一緒に募っていった。

 「亜弓は中学のとき、ピッチャー以外どこ守ってた?」

 由紀がグローブを持って私に聞いてきた。

「えっと…レフトかな。」

「うちもレフトだよ。」

「あ…そうなんだ。」

「どうしたの悲しい顔して。まあ大丈夫。うちはどこでも守れるし、由紀はピッチャーでレギュラー取れるよ。」

「本当かな…?」

「本当だって。あ、始まるみたいだよ。」

「うん。」

私と由紀がレフトのポジションにつくと、バッティング練習が始まった。バントを五球行い、二十球打つ。それを私たちは順番に行う。

 最初のピッチャーとキャッチャーがバッティング練習を終えると由紀が私に声をかけてきた。

「あ、海鳳と池之宮が同時に打つよ。」

 由紀は指をさした。その方を見ると、あの伊沢と由紀が話していたときの二人だ。バントを終えた二人はバッターボックスで構える。何か二人から威圧感というか、ほかの人にはない、特別なオーラのようなものをまとってるように見える。

 まず池之宮からだ。右バッターボックスに入り、ゆったりと大きく構えた。そして打った。

 カキーーーン!!!

 引っ張った打球は私のところに飛んできた。…が、見上げるとこしかできなかった。ボールは私たち頭上を越えていって、…場外へ。あの人は本当に高校生なのか?しかし、間違いなく、あれは高校生なのだ。

 次は池之宮と同じように右バッターボックスに海鳳が入った。バットを寝かせて構える。ボールが放たれると、海鳳は大きく足を振ってタイミングよく打った。

 キーン!

 流した打球はライトへ。伸びる、伸びる… 入った。それもポールに当たるかどうかのギリギリのところで。きれいだ。さすが二人とも有名なだけある。

 キィーーン!!

 池之宮が力いっぱいに打った打球はセンターへ、しかもバックスクリーンに当てた。一ヶ月前まで中学三年生と思えないような、プロ顔負けのスイングスピード。打ったときの音。そして高校生らしからぬ打球。アレだけ恵まれた体格だからこそできるものなのだろうか。

 カキーン!

 それに続いて海鳳が打った打球は、右中間へ飛んでいった。…これもギリギリ入った。池之宮とは違う。海鳳は力ではなくバッティングコントロールだけでホームランが打てる。力が無いわけではないがホームランの打てるスイングスピードもある。ここまで狙って打てるのはバッティングセンスの塊だろう。すごい。

 その後、ポンポンと二人とも撃っていた。十球目を終えたころだろうか、海鳳は左バッターボックスにスイッチした。両打ちだ。

 キィーン!

 左になってもバッティングコントロールは変わらない。すばらしいセンスだ。

 二十球を終えて海鳳が十七本ヒット、池之宮が十五本ヒットを打った。ヒットの中にはホームランも含まれている。

 その後にもほかの人たちが打っていたが、七・八本が妥当という感じだった。

 しかし、その中にもかなり良い結果をだした人もいた。たしか…新天流戸という人が十二本ヒットを打って、そのうち五本がホームランという結果だった。池之宮のような豪快さは無いけれども、スイングスピードは負けず劣らずとても速い。

 私たちはそろそろ順番なのでヘルメットとバットを取りに行こうとすると、上級生らしき人が球場の中に入ってきた。

「ちわーっす!」

 たくさんの人たちが挨拶してきた。私たちも大きな声で挨拶する。そして上級生たちは外野の深くでアップをし始めた。

 いよいよ私たちの順番が回ってきた。しかも先輩たちがキャッチボールしてるのにもかかわらず、私たちの方をちらちらと見てくる。よりによってこんなタイミングに…。

 最初はバントだったが私は、中学時代にバントは良くやっていたので、五球とも全部成功させた。由紀も危なげなかったが、五球とも決めた。そしてバッティング。最初に由紀が打つ。由紀は足場を慣らしてバットをマシンの方に向けると、

「おっしゃーーーー!」

 大きな声をだしてゆったりと構えた。目つきが変わった。とてつもない集中力だ。バッティングマシーンからボールが飛び出された。

 キーン!

 ショートの頭を抜けた。きれいな打球だった。初球から打っていくことは、打てるという自信が無ければできないことだ。

 そして私の一球目。絶対打ってやる。そう思いをこめて打った打球はセンター前へ。やった! 私も初球から打てた! 私は心の中でよろこんだ。

 由紀は二球目もヒット。今度はサードの頭を抜けるあたりだ。不思議なことに由紀の打ち方を見ると、ノースッテップで打っている。ミートにとても自信があるのだろう。

 私も二球目を打ったが、ショートゴロ。当たりはそこそこ良かったが、そんな簡単にヒットは打てないか…。

 その後、由紀はどんどん打っていった。私はゴロが多かったが、フライやファールボール、空振りとかはしてない。しばらく打ってから私はあることに気づいた。由紀が一度もアウトになるような打球を打っていない。つまりパーフェクトで打っているということになる。すでに海鳳の十五本のヒット数を越えていて、今は十八球目、由紀は淡々にこなしていく。

 キーン

 またヒット。これでヒットは十八本目だ。単打しかないが、こんなことって普通できるのだろうか。あの海鳳でさえ十五本なのに。すごすぎる。私は今、六本ヒット。平均的だが、由紀を見ると私なんてダメダメすぎると思ってしまう。

 キーン!

 キーン!

 ついに二十球すべてヒットを打った。私はこのとき知った。由紀が天才だということを。

「ありがとうございました!」

 由紀が大きな声で挨拶した。

 私も最後の球をなんとかヒットを打ち、合計八本のヒットを打った。挨拶をしてヘルメットをはずしバットを片付けていると、後ろでコーチと監督の会話が聞こえてきた。

「さすが由紀ですね。ソフトボールでの成績は本物だったな。」

「ああ、でも亜弓も良かったぞ。足腰がしっかりしていたからな。ピッチングが楽しみになってきたな。深沢、しっかり見ておけよ。」

 由紀が言われるのは当然だろうけれど、私まで期待されてしまった。本当にレギュラーになれるほどの実力があるのだろうか。

「おい亜弓。」

「はい。」

 コーチに呼ばれた。

「お前、ピッチャー志望だろ?ブルペン行くぞ。用意しろ。」

「は、はい!」

 ついにブルペン入りすることになった。

「えっと…キャッチャー志望は二人しかいないからなあ。友亀は館川と、中島は海鳳と…、ほかにできるやついるか?」

 コーチがつぶやくと、由紀が横から入ってきた。

「うち、キャッチャーやります。」

「えっできるのか?」

 コーチは少し驚いた様子だ。

「うち、外野志望ですけど、どこのポジションでも守れます。それもうちのアピールポイントですから。」

「そうか……よし、二人でブルペン行ってこい。俺も後で行くからな。」

「はいっ!」

 由紀は大きな返事をするとすぐにキャッチャー防具をつけ始めた。由紀は本当に何者なんだろう。そう思えるということが天才になるのだろうか。そんなことを考えてるうちに由紀は防具をつけ終えていた。

「さ、行こう。」

 由紀はブルペンへ走っていった。私もそれについていった。


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