第二話 第二部 一年生達
グラウンドの入り口につくと部員の人が私たちに声をかけてきた。
「入部希望者ですか?」
「はい。」
すぐに伊沢が返事した。
「あなたたちもですか?」
その部員は私たちの方をむいて聞いてきた。
「はい、そうです。」
「申し訳ありませんが、マネージャーは別の場所で集まることになってます。」
どうやらその部員は、私と由紀を見てマネージャー希望者だと思ったのだろう。私たちは女性なのでそう思われても仕方がない。普通は女性が男性と混ざって高校野球なんてしない。すると、雪が力強い声で、
「いや、うちらは選手としてです。」
「はぁ?」
その部員は疑っているような様子だが、由紀は真剣なまなざしだ。その部員はすこし戸惑っていたが、
「…わかった。そしたら入ってまず看板が目印になっている部屋に入ってくれ。」
なんとか入れた。やはり女性が野球をやることはおかしいことなのかな…。
部屋に入ると紙を渡された。ここに名前や希望ポジションを書くように支持された。私たちは紙に書いてある質問を書いていった。なんなくこなしていったのだが、最後の記入欄を見てペンがとまった。
「アピールポイントを教えてください。」
アピールポイント…………思いつかない。どうしよう。何を書けばよいのかわからない。私が考え込んでいると、隣の席に座っていた由紀が紙の端になにやら書き始めた。
(三振の取れるピッチングです。)
これは私にこう書きなと言ってるのか? え? 私にそれだけの実力があるのだろうか。書いただけで実際そうでもなかったらどうしよう。私は心配な顔をして由紀の顔を見たが、由紀は私の顔を見るとにっこりとわらった。由紀は「大丈夫だよ。」と言いたいのだろう。何でだろう。由紀にそう思われるとなぜか自信がわいてくる。私はその由紀が書いてくれた文をそのまま自分の答えとして使った。
書き終えると、着替えてグラウンドに集合といわれた。私たちには、別の更衣室を用意してくれた。私は練習着に着替えながら由紀にさっきのことを聞いた。
「ねえ由紀、さっき書いてくれたこと、本当にそう思ってくれてる?」
「まあね。本当はマウンドに立ってから自分で実感してほしいなって、思ったけど。」
「そうなの?」
「うん。」
そういうことだったのか。でも本当にそうなのだろうか?私には自信がない。でも由紀が自信を持って言ってくれると、自然にできる気がする。
「あ、そうだ。」
着替え終わった由紀が、私のほうを向くと、胸の辺りをグローブでポンと叩いて言った。
「自信持ってな。」
そういわれるとさらに自信がわいてきた。由紀には何か特別な力があるのだろうか。
グラウンドに行くと、たくさんの入部希望者が集まっていた。20人…いや、30人はいるだろう。この中の人たちとレギュラー争いをする…。いや、この学校の野球部員全員と争うことになる。私は本当にレギュラーを取れるのだろうか。そう考えてると私たちをみてざわつき始めた。
「あれ女性だよな。マネージャーじゃないのか?」
「どんな実力か気になるな。」
いろいろと聞こえてきた。その言葉がプレッシャーになってのしかかってきた。しかし由紀が私の肩を叩いてこういった。
「大丈夫。亜弓なら絶対大丈夫。うちは絶対に負けないから。レギュラーとって見せるよ。」
レギュラー…。由紀が取れるなら私も取れるのだろうか…。
数分すると監督とコーチらしき人がやってきた。
「集合!」
その一言で私たちは、
「はい!」
と、一斉に声をあげて集まった。
「私がこの学校の監督をやっている、日下部青井だ。さっそくだが一人ずつ名前と出身校、希望ポジションを言ってくれ。顔と名前を一致させるためにだ。」
監督がそういうと監督の右隣の人が、自己紹介を始めた。伊沢だ。伊沢は最初の自己紹介のときと同じように、すらすらと大きな声で言った。「さすが。」と、言いたいぐらいだ。私と由紀も、簡単な自己紹介だったのでなんなく言えた。
自己紹介が終わるともう一人の男性が監督に代わって言った。
「私はこの野球部のコーチをやっている、深沢祐大だ。何かわからないこととかあったらいつでも声をかけてくれ。それではこれから各自アップをしてキャッチボールまでやってくれ。」
と監督が言うと一斉に皆が、はしって外野に向かっていった。
ランニング中に由紀が声をかけてきた。
「キャッチボール、一緒にやろうね。」
「うん。」
私たちはランニングを終えて柔軟体操をしてキャッチボールに入った。
そのころ、監督とコーチは…
深沢「日下部さん、今年の新一年生たちはどうですか?」
日下部「お、深沢さん。正直なことを言うと…一年生だけでも甲子園にいけるような選手がそろいましたね。」
深沢「そんなにですか?」
日下部「ああ、先ほど新一年生に書いてもらった紙がここにあるから、それを見ながら期待できる選手を確認していこう。」
深沢「そうだな。」
日下部「まずは、特待生でとった池之宮一仁は…説明する必要もないな。」
深沢「あんな体格と身長をもった人なんて滅多にいないですからね。新しく入った人たちを入れても、ひときわ目立ちますからねえ。」
日下部「それと同じく特待生の海鳳龍一だな。あいつはセンスがとんでもないからな。バッティングもすばらしいものを持ってるからな。」
深沢「となると、海鳳は三番、池之宮が四番か。」
日下部「そうだな。二人ともホームランの打てるバッターではあるが、確実性のある海鳳を三番におくのが妥当だろう。」
深沢「たしかに。海鳳はセンターで、一塁手は池之宮で決まりですね。」
日下部「それと捕手も友亀で決まりだな。一年の中で一番まとめられそうだからな。」
深沢「そしたらキャプテンのあいつはどうするんですか?あいつも捕手ですよ?」
日下部「ああ、あいつは外野に回そうかと考えてる。」
深沢「外野…ですか。」
日下部「そうだな。そして今日から来たやつらの中にも良いやつらがいるな。」
深沢「どいつだ?」
日下部「まず埼玉の福一シニアの四番サード、新天流戸だな。」
深沢「確か前に試合を見に行ったとき、ホームラン打っていたやつでしたっけ?」
日下部「そうだな。彼もセンスは良いものを持っているからな。五番を任せてもいいかもしれない。さらに守備もいいからな。」
深沢「でも、いきなりレギュラーを任せられるようなやつですかね?」
日下部「あいつはそれだけの実力はあると思うぞ。」
深沢「ほう。」
日下部「それと新天と同じチームにいた一・二番も来たな。」
深沢「ライトとセカンドでしたっけ?」
日下部「そう。1番セカンドの米倉太一、米倉はは守備と足が良い選手だな。2番ライトの沖田修吾、沖田はアピールポイントのところにバントが得意と書いてあったが、肩が一番だな。何回か見てきたが、あの送球は高校生の中では良いものを持ってるな。」
深沢「のちのレギュラー候補ですね。」
日下部「それと…一度見たことあるやつでかなりいいやつがいたような…。」
深沢「だれだ?」
日下部「伊沢裕也ってやつだ。とにかく足の速さがすごい。タイムは調べてないからわからないけれども、盗塁と走塁のうまさと速さをみると惚れ惚れするものがあるぞ。二・三年生を入れても、一・二番目に速いかもしれないぞ。」
深沢「そんなやつもいたんですか?」
日下部「ああ。」
深沢「へえ。それと投手はどうですか?」
日下部「まあ順当に館川真申だろうな。」
深沢「たしか、関東大会でベスト4の投手でしたっけ?」
日下部「そう。サイドスローぎみのスリークォーターで中学三年で130キロ中盤をだしているからな。」
深沢「エース候補ですね。」
日下部「そして…だ。あの女性二人だ。」
深沢「あの二人ですか?」
日下部「おう。一人は…ん? 羽葉由紀? ちょっとまて、羽葉ってあのソフトボールをやっていたやつか?」
深沢「記入欄には中学はソフトボールだと書いてありますね。知ってるんですか?」
日下部「そしたら本人か…。すごいやつが来たもんだ。」
深沢「そんなにすごいやつなんですか?」
日下部「中学のソフトボールでの通算打率八割、最後の全国大会で九割だぞ。あんなやつが来るなんて…。」
深沢「それは…すごすぎだな。」
日下部「それと…日高亜弓か。聞いたことないな。」
深沢「彼女、ピッチャー志望ですね。」
日下部「本当だ。『三振のとれるピッチング』か…何か武器でもあるのだろうか。」
深沢「さあ…未知数だな。しかし、キャッチボールを見ると、肩強いものだな。」
日下部「ああ、しっかり見てみたいものだ。」