第十七話 第二部 二人の思い
六実さんは私の言葉を聴いて目を丸くした。驚いた様子をしていたがその顔は少しずつ笑った顔へと変わっていった。
六実「ははははっ! 面白いね亜弓。」
亜弓「あ、えっと…。」
六実「そうだよ。私は…左腕がないの。」
由紀の予想していたことが当たった。でも…まさか怪我ではなく本当に腕が無いなんて…。その苦労を乗り越えてここまでやってきたということは、相当な努力を積んできたのだろう。
六実「それにしてもどうして気づいたの?」
亜弓「由紀と一緒に投球フォームを見たときです。由紀が気づいたので…。」
六実「由紀かあ。まあ見破られるのは仕方ないかな。…たしかめてみる?」
六実さんは左腕の服をまくって私に見せてきた。見た目は人間の腕と何の変わりも無い。本当にそうなのかどうかが気になって私は手をあてた。その手は…冷たくて少し人間の手より堅かった。
六実「ね。本当でしょ?」
亜弓「はい…。えっと…申し訳ないです。いきなりこんなこと聞いてしまって。」
六実「いいのよ。気にしないで。それよりほら、目的地に着いたわよ。」
私は前を向いた。そこまで歩いていなかったはずなのだけど、目の前には小さな神社が見えていた。
六実「わたしは試合当日になるとここにやってきてお参りするんだ。春の甲子園に出たときに偶然見つけてね。千葉の地元にいる時は家の近くの神社でお参りしているんだ。」
そういって六実さんは前へと歩いていく。私はそれについていくように歩き、手を洗う所へと移動した。
亜弓「あの…やっぱり今回お願いすることって…。」
六実「もちろんそうだよ。」
亜弓「でも今日、私たちは敵同士じゃないですか。私と一緒にいていいのですか?」
六実「私はむしろ一緒にいてくれて感謝するわよ。だって目の前には今日投げあう最高の相手がいるのだから。」
私はそれを聴いてつばを飲んだ。六実さんから見ても私は…最高の相手だと思ってもらえている。私もお参りしていこうという気持ちになり、手を洗う。お金は丁度持ってきていてよかった。私は手をハンカチで拭くと神社の前に立った。
亜弓「願うことはお互い同じですからね。」
六実「そうね。」
私と六実さんは同時にお賽銭を入れる。そして私は両手を使って鈴のある縄を持った。
亜弓「六実さん…私は負けません。由紀に出会っていなければここまでやってこれなかった。そして今…ここにいる。甲子園に出たのだから最後まで勝ち抜いてみせます。」
私の言葉を聴いて六実さんも右手で縄を持つ。
六実「それは私も同じ。淳和がいたからこそここにいる。そして…私は勝つために野球をやっている。お互いに最高のピッチングができるように…。」
私は真剣なまなざしで六実さんの目を見た。六実さんも真剣なまなざしでこちらを見ている。私は自然と手に力が入っていた。負けたくない。この人に勝ちたい。そんな気持ちがこみ上げていた。私と六実さんは同時に手を振って鈴を鳴らす。そして離し、手を合わせた。
パン パン
私と六実さんはそれぞれお願いをする。今日の試合…勝てますように…!
六実「さて…試合が始まったらそれぞれ敵同士。それまではお互い気楽にいこう。」
亜弓「そうですね。」
私は六実さんと共に神社を後にした。勝利の女神は…果たしてどちらに微笑んでくれるのだろうか。
今回は徒歩さんに描いていただきました!ありがとうございます!
徒歩さんのツイッター https://twitter.com/kachiyori403




