第十六話 第三十二部 疑問の投球フォーム
亜弓「ふぅ……そろそろ寝ようか。由紀。」
由紀「うん…。でもちょっとこれを見てくれないかな。」
由紀は熱心にテレビを見ていた。私は由紀の隣に座るようにテレビの前に座った。そこにはある選手が投げているのが見えた。
亜弓「由紀…これって。」
由紀「そう。六実さんの投球フォーム。この試合は淳和さんも投げているから調査ができるわね。」
そこには力投を続ける六実さんの姿が見えていた。だけど…何か不自然な投球フォームに見える。いったい何故だろうか。
亜弓「六実さん、グローブの方の左腕怪我しているのかな。」
由紀「……私には分かる。だけど…本人に聞く以外は絶対に誰にも話さないって言える?」
由紀は何か深刻そうな顔で私のことを見た。まだ瞳と真希は廊下にいるはず。だから…今しかないかな。
亜弓「うん、約束する。」
由紀「何人が投げ方を見て気づくか分からない。というか私の勘かもしれないけど…六実さんは左腕を無くしているのかもしれない。」
亜弓「左腕を…無くしている?」
由紀「そう。あの左腕はおそらく義手なのよ。」
私はそれを聴いて体が身震いした。あの厳しい状況の中であの投球をしているということ。そしてあんな傷を負っていながら野球に対して努力していること。これがどれだけすごいことか。
由紀「私は…手加減する気はないよ。この人と全力で戦うこと、これが最大のプレゼントだと思う。それに…相当すごい投手だよ。私も…打てるか正直分からない。」
亜弓「由紀でも打てない投手がいるなんて。」
由紀「世の中探してみればそりゃもちろん! でも…だからそういう投手から打つのが楽しみで仕方がないの。」
亜弓「私も…早く試合で投げたい!」
私と由紀は手を握り合って今度の試合に向けて気合を入れた。三回戦、六実さんと淳和さんと戦える。




