第十六話 第二十六部 この場面での池之宮
大嶺「大丈夫か? そんなあせる場面ではないだろ?」
松本「ああ、分かっているちょっと感情的なところが入っちまっただけだ。まあ心配するな、この後もきっちり抑えてやる。」
大嶺「分かっている。ちょっと手をみせてくれ。……どこかいためているわけでもなさそうだな。しかしこの雨か、いけるか?」
松本「心配するな、任せて置け。」
松本投手とキャッチャーが声をかけあってプレーが再開される。四番の池之宮、ここにすべてがかかっている。ここで打てるか打てないか、試合が勝てるかどうかの流れになってくる。
新天「あ~あ、俺の見せ場は無しかな。」
沖田「こうなるともう…勝ったも同然だな。」
亜弓「えっ? なんで?」
私はもう余裕の表情を見せている新天や沖田、米倉の顔を見た。なんでそんな余裕なこと言っていられるのだろうか?
新天「ほら、あいつって満塁の場面にはめっぽう強いって言ったじゃん。」
亜弓「たしかに…。」
米倉「あいつって負けているときとかサヨナラの場面にも強いんだよな。」
沖田「今回は1点ビハインドで満塁、相手投手はかなりの相手。こうなればほぼ100パーセントホームランだと考えていいぜ。」
私は半信半疑になりながらも池之宮のやってくれそうな雰囲気に気持ちがすこしワクワクしてきた。いったいどんなホームランをみせてくれるのだろうか。
大嶺「(ここだ、最高の球をぶち込んで来い!)」
松本投手はうなづき、自信のある顔で腕を上げる。
松本「(芦毛…俺はここまで…やってきたんだ!)」
芦毛「(松本…。お前と会わなければ…!)」
松本「なあ、芦毛って高校は何処に行くんだ?」
芦毛「俺はな…埼玉の松江学園という所に呼ばれたんだ。そこに行く。」
松本「そうか…だとしたらお前と会えるのは甲子園の舞台だな。」
芦毛「たしか宮城の大龍鳥高校だよな。夢だよな、甲子園の舞台で本気で投げ合えるのは。」
松本「いや、夢じゃないと思うぜ。俺とお前なら現実にできるさ。だからさ…その時は全力でぶつかろうぜ。」
芦毛「ああ。」
松本「っらあ!!」
シュゴオオオ
大嶺「(最高のコースだ!)」
ガッ
池之宮が踏み込んだ。振りにいくつもりだ。
由紀「(あの内角低めを打つの!?)」
ギィイイイイイイン!!!!
池之宮「……ふぅ。」
海鳳「(さすが…だな。)」
由紀「(すごい…。)」
グラウンドに立っている人や私を含めたベンチの人たちは口をあんぐりとさせる。球場全体は大歓声に包まれる。池之宮がその中で右手を突き上げてバットをなげていた。完璧な当たりだ。
ドォーーン!!
「うおおおおおお!!!!」
打球はバックスクリーンの上の方に当たった。いったい何m飛ばしたというのだろうか。池之宮はガッツポーズを見せずにダイヤモンドを回る。全国大会準優勝チームの四番は伊達ではなかった。




