第十六話 第二十五部 キャプテンと威圧
府中「ここまで来たなら…俺も決めなきゃな。」
府中先輩は雨でぬれた顔をぬぐってバッターボックスでピッチャーを見つめていた。この局面で頼りに出来るのは先輩の打撃。由紀もそれを信じてランナーから見ているだろう。府中先輩の打撃で流れが完全に変わってくる。
シューーー バシン!
ストライクワン!
松本「(芦毛、見ているか? 俺の投球は…甲子園を制すんだ!)」
府中「(少しずつ雨が降ってきているな。チャンスが…あるか?)」
シューー バシン! ボールワン
大嶺「いいよいいよ! 惜しいところきてる!」
由紀は全く盗塁する動作を見せない。ここは完全に打撃を信じている様子だった。府中先輩も集中して投手を見る。
松本「(ここまで戦えてこれたのも…仲間のおかげだ…! 感謝するぜ!)」
シュッ シューーー
大嶺「(曲がらないか? 曲がってくれ!)」
府中「(ここが…チャンスだ!)」
ギィイイン!
浅井「うおっ!」
打球は鋭く一二塁間を抜けてライト前へと転がっていった。由紀は二塁で止まった。完璧なほどのヒットでワンアウト一二塁、そしてバッターは海鳳を迎えていた。
海鳳「っしゃあ!」
海鳳はここぞというときにしか構えないあのフォームで右打席に入った。キャッチャーも松本投手も戸惑っている。
松本「(なんだあれ…さっきと違うじゃねえか。ったくなんだか嫌だな。)」
大嶺「(フォームが全く持って違う…何か変な感じがするな。厳しい球で投げていかなければ。)」
松本投手はサインにうなづいて投げる。
シュッ
芦毛「ん?」
海鳳「…?」
バシン! ボールワン!
大嶺「いいよいいよ、落ち着いていこう!(松本が…リズムを崩されている?)」
シューーー バシン! ボールツー!
シューーグッ バスン ボールスリー!
大嶺「大丈夫だよ! 広くいこう広く!」
松本「ああ…。」
海鳳「(あーあ、このままだと池之宮によい所ばっかり持っていかれそうだな。)」
海鳳は集中力を切らさずにいたが、何か残念そうな顔をしていた。しかしなんであんなにコントロールの良い松本投手がここに来てコントロールが悪くなったのだろうか。
松本「(ビビるな。相手は同じ高校生だ。抑えられないわけがない。そうだ、俺はそうやって最高のピッチングを見せてきたんだ! いける!)」
大嶺「(そうだ、自信持て。)」
雨は降り続ける。そんな中、あの投手はここまで好投を続けている。しかしまた大きなチャンスが私たちにやってきている。
シュッ
松本「ちっ!」
シューーーー バシン!!
ボールファ!
海鳳「池之宮! いい所だぞ!」
大嶺「(雨にやられたのか…?)」
この最高の場面で池之宮がやってきた。しかしもう海鳳は勝負が決まったかのように笑顔になっている。いったい何故なのだろうか。




