表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドクターK少女  作者: レザレナ
第一話 少女、全力投球
5/835

第一話 第四部 全力投球

 由紀が同じ帰り道を使っていると聞いたので、私は一緒に帰ることにした。友達と一緒に帰る、こんなのは久しぶりだ。すると、由紀が私の方を見て話しかけてきた。

「なあ、亜弓はどうする? 野球部入る?」

「うーん…まだよくわからない。ついていけるかが心配で…みんなレベル高かったし…。由紀はどうするの?」

「うち?私はやってみようかなって思うよ。できたら亜弓も一緒に入ってくれると嬉しいけどね。」

「一度やってみたいとは思うけどね…。」

 そう言うと私たちは黙ってしまった。現実的に考えるとしたら、入らないほうが無難だろう。私たちは女性だ。男子しかやっていない野球部に入ってベンチ入り、レギュラーを取るというのは至難のことだろう。でもやってみないとわからない。もしかすると取れるかもしれない。

 しばらく黙り込んでいたら由紀が口を開いた。

「そうだ!入る入らないにしてもさ、今からキャッチボールしようぜ!」

「え、でも私グローブ持ってないし…」

「大丈夫!うちグローブ二つあるし。亜弓ってどっち利き?」

「え?右利き。」

 私は思わず言ってしまった。いきなりの事なので慌てている。由紀が鞄の中からグローブを取り出して、私に渡してくれた。そして、

「そこの公園でキャッチボールしよう。うちは両利きだからどちらでも投げれるよ。今はグローブ右と左で一つずつしかないから今回はうち、左投げな。」

「うん…。」

 どうしよう。いきなりキャッチボールをするなんて…中学の野球部を引退ときからずっと壁当てをして体がなまらないようにはしていたが、人とキャッチボールするのは久しぶりだ。それに由紀は両利きだといった。両利きといったらバッティングとかでは両利きの人たちはいるが投げる方で両利きなんて聞いたことない。それができるということは相当由紀は上手なんだろう。そんなうまい人が私の球をみたらがっかりするだろう。なるべく早めに終わらそう…。

 私たちは公園につくとかばんを置いてキャッチボールをはじめようとした。由紀はなじませるように手にはめたグローブをたたきながら私に言った。

「投げるの久しぶりか?」

「いや、壁当てとかしてたから…。」

「おお、なら心配いらないな。それじゃあいくよ。」

 そうやって由紀はボールを私に投げた。

  パシン

 ちょうど私の構えたところにきた。私もうけとったボールをもって由紀に投げる。

  パシン

 私も由紀の構えたところに投げれた。久しぶりでも問題ないようだ。

 その後は少しずつ離れていった。由紀は離れていくと大きなフォームで少し強く投げてきた。そこから投げられる球はすごく勢いがある。ピッチャーの投げ方ではないと思うけど、球はピッチャーのように良い球だ。

 離れた後に何球か投げると由紀がいった。

「そろそろ座るね。」

「えっ?」

「ほら、ピッチャーやってたんでしょ?キャッチャーやるから投げてくれるかな?」

 ピッチングができる。それはうれしいけれども正直自信がない。今の私の球を見てもがっかりするだけだろう。私は控えめに言うことにした。

「わかった。…でもがっかりするよ?」

 私は顔を背けそうになったが、由紀が笑顔で、

「がっかりしないよ!きにしないで!とりあえず思い切り投げてみて!」

 といってくれた。私はコクリと小さくうなずいた。それを確認した由紀はすわってグローブを構えた。今の自分は全力でなげれないかもしれない。けれども由紀が「思い切り投げて」といっていたのを聞くと多少自信がでる。だから力がだぜる限り投げよう。そう心に誓うと私は大きく振りかぶって由紀のグローブめがけて投げた。

 バシン

 ボールは由紀のグローブにおさまった。しかし昔思い切り投げれていた球ではない。なにかからだが制御されている感じだ。

 由紀はたちあがってボールを返しながらいった。

「遠慮なんていらないよ。いい球投げてるから全力でいいよ!」

 由紀は笑顔で言ってくれた。けれども全力で投げたいのに投げれない。そんなもどかしい気持ちばかりが募っていた。

 その後も何球か全力で投げようとするが、どうしてもだめだ。由紀の顔も笑顔が消えていった。どうしよう、なんて誤ったらよいのだろう。

 七球目を投げ終えたころだろうか、由紀は心配そうな顔で私に問いかけた。

「亜弓、全力で投げないけど何か投げれない理由とかあるの?腕が痛かったり、無理して投げてたり。」

「ちがう…」

「そしたらなにかな?」

 そうきかれた私は黙り込んでしまった。本当のことを言って由紀に心配をかけたくない。そして私はうつむいたまま何もいえなかった。由紀が近づいて私に強い口調で言った。

「亜弓が中学時代で何があったかは知らないから、うちが言えることじゃないけど。昔のことをずっとひきずったまま全力だせずにいると、これから先野球以外のことでも本気がだせなくなるよ。いまはもうそんなやつらはいないんでしょ?だったら今はその人たちのこと忘れて、今どうしたいのかを考えてなげてみな。」

 由紀は目を鋭くさせてこちらを見て、また座った。そうだ、私はあの人たちに縛られてるわけじゃない。私は変わりたい。昔のように投げたい。絶対全力で投げてやる。そう思いながら大きく振りかぶって由紀に向かって投げた。

 バシン!!

 その音は全力で投げれていたときよりもはるかに良い音。そして由紀は目をきらきらさせながらこちらを見た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ