第十二話 第五十六部 ピッチャー亜弓でキャッチャー由紀。
亜弓「ふぅ…。」
優衣「亜弓ちゃんだ!」
久美「ガンバレー!!」
香澄「ファイト!」
綾「みんな、もっと声出して応援するよ!!」
スタンドから大きな声が送られてくる。ノーアウト満塁、この場面で私の出番が来るなんて…。怖くなってきた。さっきまでの自身がどこかに行ってしまいそう。今すぐ逃げ出したいぐらい、この場が怖い。私のせいで負けたらと考えるとさらに怖くなる。
海鳳「すまない。」
友亀「お前、指は大丈夫か?」
友亀の言葉に海鳳は何のことだかわからずに手をみた。しかしそれで初めてあることに気付いた。
卜部「うわ、血出てるじゃねえか。」
栗山「まさか爪割れている状態で投げていたってことなのか?」
海鳳「コントロールが入らなくなった理由ってこれだったのかよ。…すまない。」
亜弓「仕方ないよ…。私がなんとか抑えるから。」
友亀「なんとか抑えるじゃなくて確実にだな。ノーアウト満塁、外野に飛べば同点になる可能性はかなり高い。」
亜弓「そうだよね…。うん。」
府中「(日高…気持ちが負けているぞ。どうしたんだいつもの気持ちは?)」
怖い、本当に怖い。私のせいで負けるのが怖い。次からは一番バッターが入る。いままでの実績とかを考えると自信持ってよいのだろうけど、どうもそれが怖い。抑えられる気がしない。相手の勢いも増すばかりな展開になっている。…どうすれば…。
ウグイス嬢「守備の変更をお知らせいたします。」
亜弓「えっ?」
守備の交代? 何を変えるのだろうか。
ウグイス嬢「キャッチャーの友亀くんがレフト、レフトの羽葉由紀がキャッチャーへと変わります。」
「羽葉!? ばばああああああああああ!!!!」
会場が由紀のコールでまた大きな声援に変わる。キャッチャーが由紀…。由紀が…。すでに由紀はキャッチャー防具とミットをつけてマウンドにやってきた。
友亀「頼むぞ。」
由紀「任せて。」
友亀と由紀はグローブでハイタッチをした。友亀はベンチに戻るとグローブを取り換えて防具を外していた。
亜弓「由紀…。」
由紀「公園で私と初めて投げたときのこと覚えている?」
亜弓「初めて…。」
全力投球ができたときのこと。あの時…私は…。
亜弓「今どうしたいのか…私のやること…。」
由紀「そう、あなたのやりたいことは。」
亜弓「ここで投げ勝って優勝したい。甲子園に行きたい。」
由紀「私も同じ。だから…思いっきりいこう。亜弓ならできるよ。私、前に家に来てくれた時のこと忘れていないよ。私がそばにいるから。この言葉がどれだけ嬉しかったか…だからこそ私も亜弓の気持ちに答えたい。だから私は亜弓の力を最大限に使えるように言ってるの。……勝とう。」
亜弓「ありがとう……うん、勝とう!」
私のやるべきことが見えてきた。確信して思える。由紀は私のことを守ってくれているんだ。まわりの人たちも私を守ってくれている。だから…それに応えなきゃいけない。それと…自分の意思でも!
由紀「グータッチ、しよう。」
亜弓「うん。」
私は手を出して由紀のこぶしに自分のこぶしをぶつけた。そして由紀が座ると大きく構えた。小さい体が大きく見える。あそこに向かって投げれば大丈夫。
シュバァアアアア バシューーーン!!!
山下「(いいね、こういうのを待っていたぜ!)」
ピッチングを終えると由紀がマスクを外して声を出した。
由紀「ノーアウト満塁! 最終回! 声出して、しまっていくよ!!!!!」




