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ドクターK少女  作者: レザレナ
第一話 少女、全力投球
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第一話 第三部 伊沢と天才たち

弁当を食べ終え早めに帰りの準備をしていると、一人の男が話しかけてきた。

「日高亜弓だっけ?」

 振り返ってみるとあの一番最初に自己紹介した人だった。とりあえず自分の名前を呼ばれたので、

「そうだけど…たしか伊沢裕也くんだっけ?」

と答えた。

「そうだよ。もしかして松原中でピッチャーやってた?」

「えっ?なんで知ってるの?」

 私は驚きを隠せない。こんなこと言われるなんて思いもしなかった。

そのあと伊沢が、

「前に八幡中と試合したことあるのだけど…武蔵野中学って知ってる?」

「どんな試合したときだっけ?」

「一球すごい球なげた試合!」

「もしかして…あの時の?」

「あの時俺バッターだったよ!」

「そうだったんだ!試合までは思い出せたよ!」

 こんな感じで過去のことを話していたら、由紀も会話に入って

「ねえねえ、すごい球ってどんな球投げたの?」

 と質問してきた。その質問に私は

「でも私、すごい球なんか投げられないよ…」

 と答えた、本当にすごい球を投げる自信がない。一球速い球を投げただけで本当に良い球なのかわからない。すると伊沢が、

「でもすごかったぜ。いつ投げたのって思えるぐらいだったよ。」

「そ、そうかな…?」

 否定したい気持ちもあるが、私はすこし照れてしまった。そう言ってもらえるのは嬉しい。けれども、もうあの球を投げられないかもしれない。

 そのあとチャイムが鳴ると、帰りの会を行った。帰りの準備をしていると由紀が、

「なあ亜弓、もし時間あったら一緒に野球部の練習見に行かない?」

 と聞いてきた。

「えっ、でも中に入って見ることなんて恥ずかしいし…。」

「違うよ、外野の方から見るだけ。少し見たら帰るから。」

「それなら…大丈夫だよ。」

 私は勇気を出して行くことにした。そうだ。見るだけなら嫌ではない。また野球をやってみたいという気持ちが出てくるかもしれない。

 さらに由紀が、

「伊沢も一緒に見るって言ってたよ。あいつは先に行ってるから。早く行こうぜ!」

 といって走り出した。

「あっ待って!」

 私はカバンを持って、走っている由紀を追いかけた。由紀は軽く走ってるのだろうけれども速い。それに走り方も綺麗だ。おそらく全力で走ったらきっと男勝りの速さだろう。

 走ること三分、野球部の専用グラウンドの目の前についた。そしたら待っていた伊沢が、

「おーい。こっちこっち!」

 と呼んだ方に私たちは向かった。さすが強豪校なだけあってグラウンドが大きく、施設が充実している。野球部だけではない。後ろにはサッカー場、両隣りには陸上競技場、テニスコートがあり、さらにはラグビー場、室内プール、バスケット場、バレー場などなど普通の学校ではありえない施設がたくさんある。もちろん実力もあり、県大会はもちろんのこと、関東大会や中には全国レベルの部活まである。運動部だけではなく文化部も施設が充実しており、またこちらもレベルが高い。他にもまだ私にもわからない施設や活動もあるのだろう。なんでこんなに学校のことを知ってるのかというと、今日、先生の学校内を約二時間も説明されたので大体の学校の構図が想像できるようになってしまったからだ。なんというか…学校を自分たちで見て回る楽しみが減ってしまった。私たちはレフト側のベンチから練習風景を見た。丁度キャッチボールが始まったところだ。見た限り二・三年生だけでおよそ30人ぐらいいるだろう。おそらく一年生は居ないと思う。まだ一年生は部活見学など行っていないのでここに居るのは全員上級生だと予測した。

 それにしてもキャッチボールからして上手い。私の中学のときのキャッチボールとは大違いだ。

 すると由紀が口を開いていった。

「全部取りやすいところに投げてるように見えるな。キャッチボールからすごく徹底されてるぜ。そらしてる人や暴投してる人が見当たらない。」

といった。続けて伊沢が、

「たしかに上手いな。それと一年生が三人混じってるな。」

といった。一年生がいるとしたら特待生だろうか。私は気になって伊沢に、

「ねえ、一年生ってどの人?いるとしたら特待生だと思うけれども。」

と聞いてみた。すると伊沢は、

「それにしてもすごいやつがこの学校に来たんだな。」

といって一度大きくため息をすると、真剣な表情になってさらに言った。

「手前側の左から二番目のキャッチャー防具付けてるやつが友亀祐だ。シニアにいたときのチームはそこまで強くなかったからあまり知られてないけど、リード力はずば抜けているからそこを買われて特待生で呼ばれたんだろう。あいつのおかげでシニアチームの投手たちが、防御率が1点台下がったほどだから洞察力、判断力とかはとてつもないと思うよ。それに体の割には肩も良いからおそらく一年からレギュラーだろうね。」

 と説明してくれた。そして奥の方を指差して言った。

「それで、あの奥にいる一番身長がでかいのが池之宮一仁だ。」

すると由紀が反応した。

「池之宮ってあの、プロから注目されてる超高校級スラッガーの? 雑誌で見たことあるけど?」

「そうだよ、あの化物だよ。メジャーからも声がかかってるという噂まであるぜ。」

 そう聞くとすごい人ばかりだ。この野球部に入ったとしても私はついていけるのだろうか…。

そのあと伊沢はどこか辛そうな顔をして、小さく呟いた。

「だから、この野球部に入るということは…」

伊沢がなにか言ってる途中に、

「おーい、もしかして伊沢か?」

 とグラウンドの方から呼ぶ声がした。声の聞こえた方を見ると少し離れたところからフニフォームをきた人がこっちに近づいてきた。

「ごめんちょっと行ってくる。」

そう言って伊沢は呼んだ人のところに向かっていった。

「あれ、あの人海鳳だ。」

 由紀は伊沢を呼んでいた人を見て言った。私は、

「由紀、その海鳳って人のこと知ってるの?」

と聞いた。由紀は答えた。

「知ってるもなにも、大阪の天才打者って呼ばれた人だよ。あいつもプロから注目されてるやつだよ。うち、この人の4打席連続ホームランみたことあるんだ。あれは凄かったよ。それと伊沢が途中で言いかけたけど、あいつの言いたかったことわかった気がする。」

「え?」

「この野球部に入るということは、あのすごい人たちとレギュラー争いをしなければならないってことを言いたかったんだと思う。」

 確かにそうだ。今レギュラーの人たちはレギュラーを取られてたまるかという気持ちもあるだろうし、ベンチ入りやそれ以外のひとたちもレギュラーを狙って一生懸命練習してる。さらに新しく入ってくる新入部員にすごい人が入ってくるならなおさらだ。いまの私ではとても…

 そんなことを考えていたら遠くで伊沢が大きな声で私たちにいった。

「話すこし長くなるかもしれないから、さきに帰ってていいよ!」

 といった。そう言われたので私たちは、グラウンドを後にした。


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