第十二話 第二十八部 由紀の悔しさ
亜弓「うそ…あれをとった!?」
由紀「…とられた。」
由紀がダッシュで戻ってくる。どこか何か違うような雰囲気が感じられる。いつもの由紀じゃない。
亜弓「どんまい由紀!」
由紀「亜弓ありがとう。」
そういって由紀はヘルメットを置いて手袋をはずしていた。
日下部「自分の弱点は知っているな。」
由紀「はい…。でも、私にはこれしかないのです。」
そういって由紀は飲み物を取りに行こうとした。すれ違った由紀の目には涙が浮かんでいた。いままで全部ヒットを打ってきたのだから今回のアウトはかなり心に来ているのだろう。バッティングには絶対の自信があった由紀がアウトになってしまう。その理由は…パワー不足だろう。
次は中山先輩のバッティングだ。それよりは私は由紀の方に目がいってしまった。下を向いて飲み物を飲んでいるからだった。私は近くにいって声をかけた。
亜弓「しょうがないよ。でも由紀なら次はヒット打てるよ。」
由紀「笑顔でいたいしポジティブで行きたいんだけどね。」
亜弓「そんなの由紀じゃない!」
私の声にベンチの仲間たちが私の方に視線をむけてきた。でも私はまったく気にせず由紀のことを見つめていた。
亜弓「私に勇気をくれたのは由紀だよ。由紀だってそれだけの勇気はあるよ! 私だって野球のとき以外は自信ないけど…それでも! 由紀はいつも笑顔でいてくれたよ。どうしていきなり元気がなくなっちゃうの!?」
由紀「元気がないわけじゃない! ただ…すごく悔しいだけ。私の努力が無駄にならないように…次こそは絶対にヒット打ってみせるから。だから…今だけは一人にさせて。集中したいの。」
由紀は私の方を向いて言った。もうすこししっかり見ておけばよかった。由紀の目には涙が見えているのはもちろんだったけど、意思の表れが見えるような目つきだった。これが由紀なのか。負けたくないという気持ちが誰よりも強いのは由紀なのかもしれない。




