第十一話 第三十八部 声援の力
真田「くそっ!」
理嗚「真田先輩…。」
私は大きな男性の声に反応して相手ベンチを見た。真田投手が悔しがっていた。周りの人たちが声をかけることもできず、ただベンチから出て守備に付くことだけを考えていた。あの投手のことが嫌いなのではなく、声をかけられるような状況じゃないからだろう。一人、あのキャッチャーだけが声をかけていた。でも…それが野球、勝負の世界。ましてや高校最後の試合になるかもしれないという状況だから…。
由紀「同情したい気持ちはわかるかもね。でも今はうちらのチームのことを考えないと。相手は敵だし。」
亜弓「そうだね…。」
理嗚「俺が打ちますから! 真田先輩は投げてください!」
真田「……ああ。」
理嗚「(自信…なくしているのか…?)」
ようやく真田投手がベンチから現れてきた。そのとき、相手のスタンドからおおきな拍手と声援が送られていた。
「諦めるな! お前ならいけるぞ!」
「打たれたっていい! 最後までお前の投球を見せてくれ!」
「「「真田! 真田!」」」
精一杯の応援が相手スタンドから聞こえてくる。これは…こっちにとってみればかなり不利な状況だ。高校野球は何が起こるかわからない。最後まで気を抜くつもりは全くないけれども…辛い試合になりそう。
海鳳「なんの! こっちにだって池之宮がいるんだ!」
伊沢「そうだ! 池之宮ならホームランを打てる!!」
「「池之宮! 池之宮!」」
こっちのスタンドからもおおきな声援が聞こえてくる。まさに総力戦にふさわしい舞台になった。相手も全力ならこちらも全力で答えなければ。
池之宮「お願いします!!」
池之宮は挨拶をしてバッターボックスに入った。キャッチャーは声をかけて外野を深めに守らせている。この状況はかなり厳しい。あの足のことまで知られてしまってはこのシフトは凡退か単打かホームラン、三振しかない。池之宮はこのような修羅場を幾度となく潜り抜けてきたはずだから問題ないと思うけど、この状況は…。
シュゴオオオ ギィン! ガシャン! ファールボール!
バックネットにボールが当たる。初球からガンガンと振っていく。相手も力を出し切って投げている。もしストレートを投げるのであればチャンスはある!
シュゴオオオオ
池之宮「ふん!」
ギィイイイイン!! バシーーーン!!!
池之宮のスイングから快音が響いた瞬間、ピッチャーのグローブにボールがおさまっていた。運が悪かった。ピッチャーライナーでアウトになった。
理嗚「ナイス真田さん!」
岸柳「よっしゃ! 山場潜り抜けたぞ!」
境「あとはしっかり抑えていこう!」
池之宮は悔しそうにベンチへと戻ってきた。でも…私がみて一番悔しそうだったのは新天だった。池之宮がすごすぎたせいか、新天が軽視されて見られていることが、本人にとって一番悔しがっているのだろう。いつも感情をあらわにしない新天が、声に出さずとも顔にその様子が現れていた。
新天「(なんで…池之宮とか海鳳とか、羽葉だけに注目があつまるんだよ…。こんな五番で…なってたまるかよ!!)」
理嗚「(よし、後はストレートで押せば絶対に抑えられる。)」
ピッチャーは足をあげ、投げる状態になった。
シュッ!!
新天「(俺だって!!)」
ギィイイイイイン!!!!!




