第四話 第二部 早すぎと遅刻
誰もいない。一人ぼっちで待つのは辛いことだ。早く来すぎた私がいけないのだけれども…。誰か一人でも…
瞳「おっはよー、亜弓も早いね。」
来てくれた。振り向いたらキャリーバックを持った瞳を発見した。
亜弓「よかったぁ、瞳が来てくれなきゃ私、一人で待っていたことになってたんだ。」
瞳「私もちょっと早く来すぎてないか心配してたんだ。よかったよ。」
瞳はキャリーバックをねかせるように置いた。
瞳「今日現地に着いたら、すぐに練習が始まるの?」
亜弓「そうだよ。初日からは辛いよね。」
瞳「だよね。私も柔道の合宿は初日が一番辛かったよ。」
そんな会話を15分ぐらいしていたら、真希がやってきた。
真希「おはようございます。」
瞳「おはよう。」
亜弓「おはよう、真希。」
海鳳「うーっす。」
友亀「おはよう。」
伊沢「はよー。」
その後からぞろぞろと選手たちが集まってくる。時計を見るとまだ五時半だ。やっぱり私が早すぎただけだ。それにしても由紀がまだ来ていない。いつやってくるのだろうか。
千恵美「おはようございます。…なんであんたが隣にいるのよ。」
恵美「おはよう。あなたこそ何故隣に?」
先輩マネージャーたちもやってきたようだ。
千恵美「あなたがついてくるからでしょ? 離れなさいよ、しっしっ。」
恵美「しっしっ、ってなによ。あなたが離れなさいよ!」
真希「いつもの感じですね、ふふっ。」
真希、ここでも毒舌が…。
三由「おはよう皆。」
瞳「あ、三由先輩、おはようございます。」
美琴「おはよう、マネージャーは皆来たみたいだね。」
真希「おはようございます、美琴先輩。」
千恵美「お疲れ様です。」
美琴「そういえば、女子は全員そろってないみたいだね。由紀がいないね。」
もう45分になる。そろそろ皆が集まってきているところだ。まさか…遅刻は無い…よね。
そうして待つこと10分、まだ由紀がいない。5分前となって来ていないのは由紀だけだ。いつもは遅刻するような人ではないのに。
府中「おはよう皆。」
皆「おはようございます、キャプテン。」
キャプテンが挨拶すると、深沢コーチがやってきた。そのコーチを向くように円になった。
深沢「おはよう、誰か来ていないのはいるか?」
瞳「由紀が来ていません。」
すぐに瞳が答えた。それに反応して周りがざわつく。
深沢「羽葉が? 珍しいな。こんなときに限って遅刻だなんて。」
と言ったとき、後ろからダッシュでやってくる人が…。この光景、野球の試合でも見たことあるような…由紀だ。
由紀「セェェェーーーフ!!!」
由紀が円の真ん中に飛び込むように入ってきた。
深沢「ギリギリアウトだ、気をつけろ。」
由紀「ガーン、うそーん!」
深沢「理由を一応聞こう。」
由紀「いやー、合宿が楽しみで仕方なくて。夜眠れなくて…。」
深沢「遅刻したんだな。」
由紀「………はい。」
亜弓「で、でも新幹線に乗り遅れるよりは良かったです。」
私は由紀のことをフォローした。すると由紀は私のところに近づいて、
由紀「亜弓…やっぱり天使だなぁ!」
と、あきらかに嘘のように作った涙声を出しながら私の太ももにしがみついてきた。
亜弓「何してるの! って天使って始めて聞いたよ!」
そんなやり取りを見たからなのだろうか、皆の表情は今まで硬かったが、やわらかい表情に変わった。これも由紀の力なのだろう。皆のムードを良くする。それがどれだけすごいことか。