第四話 第一部 美しき歌手
亜弓「ご馳走様でした。」
由紀「あー、おいしかった。」
瞳「学食で食べるのもいいですね。」
真希「周りも綺麗ですね。清潔でとても良いです。」
私たちは学食でご飯を食べていた。学食で食べるのは初めてかもしれない。しかもここの学食は今年新しくなったため、人がたくさん来る。だから席を取ったりするのにも運が必要になってくる。
亜弓「あ、明日から私たち合宿だよね。真希と瞳はたしか部活掛け持ちでやっていたよね?」
真希「私は美術部だけど、合宿はまだまだ先だから野球部の方の合宿についていくよ。」
瞳「私は掛け持ちじゃないけど、家で柔道やっているからね。いつも合宿みたいな練習ばかりだよ。私は国体とかぶらなければいつでもマネージャーとして参加するよ。だから今回の合宿は一緒に行けるよ。」
亜弓「よかった。」
由紀「四人で一緒の部屋だよね。何持っていく? トランプ? ウノ?」
真希「遊びに行くのではないですよ。」
亜弓「そうだよ。私たちなんか練習一緒にしなきゃいけないのだから、疲れてそれどころじゃないと思うよ。」
由紀「はーい。」
そういって由紀は学食で頼んだ天丼を食べ終えた。
ワーワー、キャーキャー
瞳「なんだろう、あの人だかりは。」
私も気になったので背伸びをして見て見た。
真希「あれって、歌手の棚橋優衣じゃない?」
由紀「あ、本当だ。確か同じ一年生だよね。学校行きながら歌手やるのって大変だよね。」
亜弓「けっこう有名だよね。今度モデルもやるんだよね。」
瞳「うらやましいよね。」
優衣「ちょっといいかな。」
亜弓「えっ?」
優衣が中性的な声で私のことを呼んで近づいてきた。え、え? 何で私のところに。周りにいる女子や男子たちは歓声を上げる。
亜弓「わ、私?」
私はあまりにもいきなりな出来事に戸惑ってしまった。
優衣「うん。キミってたしか野球部に所属している…日高亜弓さんだよね?」
亜弓「は、はい。そうです。」
由紀「おお、名前知られているんだ。」
優衣「もちろん知ってますよ。私も野球は好きですし。たしか羽葉由紀さんでしたよね。」
由紀「そうだよ。ありがたいね、名前を知られているのって。」
優衣「ふふっ、それで今日はあなたたちにお願いしたいことがあって。」
亜弓「何ですか?」
優衣「えっとですね…。」
優衣は恥ずかしそうにモジモジしながら小さな声でつぶやいた。
優衣「私、大会始まったら野球部のチアリーダーやりたくて…。」
亜弓「え?」
由紀「本当に!? チアリーダー!?」
由紀が大きな声で言った瞬間、食堂が沸いた。
優衣「わぁあ! 待って! 早まらないで!」
優衣は慌てふためいた。
優衣「えっとね、私歌手やってるからいつ時間が取れるか分からないの。だから仕事が無いときだけやりたいのだけど…。監督に相談してくれるかな?」
由紀「わかった! 監督に聞いてみるよ!」
そういって由紀はダッシュで走り始めたが、すぐに瞳が、
瞳「監督は明日の合宿のために今日は学校にいないよ。」
由紀「マジで!?」
由紀は足をぴたりと止めた。
真希「そしたら私たち、明日から合宿があるのだけど、合宿が終わったら聞いてみるよ。」
優衣「本当に!? ありがとう!」
瞳「これからよろしくね! 私は、」
優衣「知ってるよ、森田瞳さんと湯野沢真希さんですよね。」
真希「私たちまで知られているなんて嬉しいなぁ。」
優衣「有名じゃないですか、知らないわけ無いですよ。」
亜弓「そんなにすごいんだ。さすがだね真希、瞳。」
瞳「えへへ。まだまだたいしたこと無いけどね。」
真希「私ももっと頑張らないと。」
私たちはその後、優衣とメールアドレスを交換した。食堂は優衣が去っていってもざわついたままだった。すごい人気だ。
そして…今日から四泊五日の合宿。合宿が終わるとゴールデンウィークに入る。その日は部活が休みとなる。そのかわり、今日からいつもよりハードな練習がやってくるのだ。合宿場所は愛知県の知多らしい。途中から移動するらしいけれども。朝の六時に東京駅で集合、新幹線を使って愛知県に行くのだが…。ただいまの時刻は五時丁度。
亜弓「早く…来すぎちゃった。」




