第九話 第二十部 作戦の末
なんともひやひやする状況だ。パームボールで勝負。しかもワンストライクスリーボールの状況でよく投げれる。すごいものだ。館川は私とは違ってあるものを持っている。それはこういう大舞台、何か緊張する場面でも動揺せず、どっしりとしているところだ。私だけじゃない、きっと由紀にもそう見えているはずだ。そして今はフルカウント。さて、どう勝負するのだろう。
由紀「(友亀のことだから…このままパームボールで勝負だろう。)」
友亀「(ここはガンガンいくぞ。パームボールだ。)」
館川「(ああ、まかせろ。)」
館川が腕を上げる。この一球で決まるのだろうか。
シュッ ググググッ!
谷村「(またパームだと!?)」
よし、タイミングがずれている。しかもストライクゾーンに入っている。これなら!
谷村「ぐっ。」
ギン!
ファールボール!
友亀「(当てた!?)」
谷村「っし。」
スタンド「ぉぉぉおおお。」
富田「ひやひやさせんなよ!」
カットした、タイミングは完全に外れていたのに。相手も必死ってことなのだろうか。こんなにねばっこいバッターは投手にとってはイヤだ。
ググググッ ギン!
グググググッ キン!
ファールボール!
二球ともパームボールを投げているが、相手バッターは全てカットしている。しかも少しずつ当たりが良くなってきている。ここはストレートを投げてタイミングを狂わせればきっと三振してくれる。
館川「(どうする? またパームボールを投げるか?)」
友亀「(いや、ここでパームは危険だ…。ならば…。)」
谷村「(首を振っている。ダミーか? それともストレートか? いや、高校生の頭でそこまで出来るわけがない。ここはストレートだ。絶対にストレートが来る。)」
友亀「(これだ。)」
館川「(…! なるほど。)」
館川が大きく腕を上げる。思いっきり投げるつもりだ! 相手にはストレートとわかってしまうだろうが、これは有効的な判断だ。頑張って! 館川!
由紀「(ダメだ。ストレートを投げたら打たれる! それに力んでる、ボールになる!)」
谷村「(ストレート来い!)」
シュッ!
館川「っらあ!!」
シューーーーー
谷村「(インコース! ボール球だ!)」
だめだ! ファーボールになってしまう!
ググググッ バシーーーン!!
ストライクバッターアウト!!
友亀「よっしゃあああ!」
館川「っらあああああ!!」
谷村「…………嘘だろ。」
由紀「ナイスボール!(まさかスライダーとは…。)」
スタンド「うわあああああ!!!」
す、スライダー。なんということだろうか。こんな場面で、しかも誰しもが館川の様子を見てストレートかと思い込んでいた。しかし投げたのはスライダー。こんなの…見事すぎて何も言葉が出ない。館川のキレのあるスライダーと友亀のリードがあってこその配球だ。すばらしい。
館川「(かつての決め球もここまでキレをあげることが出来るなんて…。いままで努力した結果が出たぜ。)」
あと一人。ここで決められるか、決められないか。泣いても笑ってもこれが記録のかかった最後のバッターだ。




