第三話 第十二部 バックには仲間が…
友亀「日高! 自信持って。バックには俺たちがいるぞ。」
友亀は私に自信を持たせようと声をかけた。そうだ、私は今やるべきことをやるべきだ。相手を抑えること。早く投げたくて胸の鼓動が高鳴っていく。私は今、最高に。
バシン! ストライクバッターアウト!
最高に幸せ!
由紀「ナイスピッチング!」
これでワンアウトを取って十連続三振。いつまでこの投球ができるか分からないけど、私は打たれてもまわりが守ってくれている。だから思い切り投げれる。それが今やるべきこと。
次は二番の卜部先輩、いつもどおりに全力で投げれば抑えられる。大きく振りかぶって、投げる!
シューーキン!
おっつけて打った打球は強いゴロ、しかしファースト真正面で池之宮ががっちりとキャッチ、ベースを踏んでツーアウトとなった。
初めて私の連続三振が途絶えた。しかも初球から打ってきた、やっぱり疲れてきたのだろうか、不安になりかけたとき、
池之宮「ナイスピッチャー。」
由紀「亜弓! 打たれてもちゃんと守ってみせるから後ろは任せて! がんばれ!」
皆が声をかけてくれる。三振を取れなくて打たれてしまったのは悔しいけれどもヒットを打たれたわけではない。私はまだいける。
次の打者は府中先輩だ。おそらく一番注意しなければならない打者だ。思いっきり投げて抑えなければ。
シューーズバーン! ボール
また初球が外れた。三回までは初球に外れることが無かったのに、球の勢いも衰えていないのに、構えたところから外れてしまう。もう一度思いっきり!
シューーズバン! ボールツゥ
また外れた。私はたぶん疲れている。腕が重くなってきてるわけではないし、疲れているというわけでもない。感覚では疲れていると感じ取れないが、意識で分かってしまう。疲れていても私は投げなければならない。でもストライクをいれなければ…。
友亀「日高、間違っても手を抜いて中途半端な球は投げるなよ。はずれてもいいから思い切りこい!」
友亀は私の弱気な考えを見透かして釘を打ったかのように言った。そして投げて来いといわんばかりにどっしりと構えた。私はストレートしか投げていないのでおそらく先輩たちはタイミングが合ってきてる気がする。ストライクを入れようとすると甘い球になって確実に痛手を食らう。だから全力で投げれば仮にストライクになったとしたら、ストライクを取りにいった甘い球を投げるより確実に抑えられる。腹をくくるしかない。思い切り投げる! 先輩たちや自分の弱気な気持ちに、絶対負けてたまるものか。
私は大きく振りかぶって、最初はリラックス…、投げる瞬間だけ思いっきり!
シューーーーブンズバーン! ストライクワン!
高めのストレートを空振りした。まだまだいける!
府中の心情「タイミングは合ってきた。けど、ボールの軌道が予想より上になってしまう。大胆に予測軌道を高めに意識すれば打てるか?」
ワンストライク、ツーボール。一つストライクを取ったところで気持ちの余裕が少しだけできた。でも気を抜いてはいけない。思い切り投げれば大丈夫。構えてるところに。
シューーー
キン!
府中「っしゃあ、抜けろ!」
内角低めに上手く決まったかと思った球は打たれ、打球は私の頭の上を通っていき、二遊間に。
米倉「うらっ」
セカンドの米倉がジャンプする、がとどかずにセンター前に落ちる。
相手ベンチ「よっしゃああ!」
府中「うっし。」
初めて、ヒットを打たれた。しかもいいところに決まったはずの球が。悔しくてたまらない。それに次は四番、きっと打たれて私は…。
由紀「だいじょーぶだよ!! 抑えられるよ! 頑張って!」
由紀が声をかけてくれる。そうだ、まだ一回ヒットを打たれただけじゃないか。私が弱気になってどうするの。
四番の中山先輩がバットをブンッブンッと二回思い切り素振りをして右バッターボックスに入った。当たると遠くまで飛ばしそうで怖い。けど当たらなければどうってことない。思いっきり投げることが私の仕事。けれどもランナーが一塁にいるのでセットポジションで投げなければならない。しかもランナーを気にすることも必要だ。
卜部「セットはどうかな?」
セットでも思い切り投げるだけだ。負けてたまるか。
シューーズバン! ストライク!
セットポジションから投げても球の勢いは衰えてない。これで心配は一つ消えた。あとは思い切り投げるだけ!
シューーー
中山「らっ!」
キィーーン!!
亜弓「あっ。」
私は思わず声を上げた。打たれてしまった。快音とともに打球はレフトに飛んでいったが、上がりすぎていている。これはレフトフライになりそうだ。
由紀「あいよー。」
すでに落下地点にたどりついた由紀はがっちりとボールをキャッチした。
アウト!
これでスリーアウトチェンジとなった。
友亀「ナイスピッチング!」
由紀「オッケー、よく抑えたよ!」
海鳳「俺はもうちょっと奪三振ショーが見たかったな。」
皆がほめてくれる。私のピッチングはよかったみたいだ。うれしい。
由紀「亜弓、腕疲れてない?」
亜弓「大丈夫だよ。まだまだ全力で投げれるよ。」
由紀「痛みとか本当に無いの? ずっと全力で投げていて。」
亜弓「本当に大丈夫だよ。」
たしかに初回からあのように全力で飛ばしていたら心配はすると思う。でも本当に痛みはなく疲れてもいない。だから私は「大丈夫」としかいえない。
米倉「日高、この回トップバッターだぞ。」
亜弓「あ、ごめん。」
私は急いで準備を始めた。