第三話 第九部 弾丸と鈍足
八者連続三振、今の感じならいくらでも三振が取れる気がする。三振が気持ちよくなってくる。三振を取るためにはもっと、もっと全力で投げなきゃ。もし仮に打たれたとしても後ろには仲間たちがいる。だからこそ、ピッチングに集中する。
次はラストバッターの池田先輩だ。ラストバッターだからといって手加減しない。思い切り投げれば私の球は打てないんだ。
シューーーズバン!
ストライクワン!
良い流れに乗れているからかもしれないけど、コントロールよく投げれてる。いままでで、こんなに構えたところに投げれるようになってるのは始めてだ。それならその良いところを最大限に使えば抑えられる!
バシン! ストライクツゥ!
栗山「野中! タイミングだ。タイミングをとれば打てる。」
たしかにストレートばかり投げてるからタイミングはとられてくるかもしれない。けれどもまだまだ振り送れてるように見える。これなら三振を…取れる!
シューーバシン!
ストライクバッターアウト!
池田「ックソ!!」
私は声には出さなかったけれど、右手でガッツポーズを取った。先輩たちに私の球が通用している。私はこのチームでエースになってみせる。
由紀「ナイスピッチ! 九者連続三振なんてすごいね! かっこいいね!」
亜弓「そんなことないよ、だって由紀が声をかけてくれなかったら、私いまごろ大量失点してたかもしれないもん。」
由紀「そう?」
亜弓「ありがとう、由紀ちゃん。」
由紀「あ、あわわ///」
亜弓「…あ。」
由紀「ほ、ほら。可愛くないよ! 可愛くないから! やめてよもう!!」
沖田「羽葉って照れ屋なのか?」
由紀「違う! 言われ慣れてないだけ! それと恥ずかしいの! うわあああん、亜弓のばかあああ!」
由紀は顔を赤らめながらベンチの端に座ってしまった。口に出さないように気をつけなければ。それにしても…純粋だなぁ、由紀は。
そして四回の表、一年生チームの攻撃は海鳳からだ。先ほどの打球を見たからだろうか、外野はフェンス近くに守っている。こんな中海鳳はどんなバッティングをするのだろうか。
シューーバシン! ボール!
芦毛先輩の球が前の回より早くなっている。エンジンがかかってきたのだろうか。それでも海鳳は全く動じず構えている。
グググッ キーーン!
海鳳「よっしゃ!」
カーブを捕らえ、流した打球は海鳳が声を上げるほど手ごたえは良かったのだろうか、スタンドに入りそうな勢いだ。
中山「任せろ!」
中山先輩がそういうと、フェンスによじ登った。そして…。
ガシャン! パシン アウト!!
普通はホームランのはずなのにジャンプキャッチでアウトにされてしまった。恐ろしい。
府中「ナイスキャッチ!」
そういうと守ってる人たちが拍手をした。海鳳もさすがと思ったのだろうか、拍手をしていた。
海鳳「すまねえ、でもあれは敵ながらアッパレだ。」
米倉「しかたないよ。」
たしかに仕方ない。これが先輩たちの意地というものなのだろうか。さすがだ。
ワンアウトランナー無しで池之宮に回ってきた。彼はボールは見えてると言っていたので、今度こそヒットを打ってくれるだろう。守備の真正面に飛ばなければ。
グググッ ブシィ! パシン
ストライクワン!
とてつもないスイングと風切り音だったが、空振り。しかも変化球に全くタイミングが合っていなかった。大丈夫なのだろうか。
シューー
今度はストレート。
ギィイイイン!!
海鳳「うわいった。」
ボールではないかと思うぐらい低いストレートを完璧に捕らえた。弾道は低いが弾丸のごときの勢いで左中間を飛んでいく。
池之宮「入れぇえええ!」
池之宮が叫ぶ。どんどんスタンドに向かって飛んでいく…が、しかし。
ガシャン!
池之宮「だぁああああ!」
あともう少し高ければホームランという当たりになってしまった。池之宮は一塁ベースを蹴り、二塁に向かって全力疾走した。しかし…遅い、遅すぎる。しかも不運なことに外野はフェンス近くまで守っていたのですぐにボールを拾った。
池田「うらっ!」
センターから返球がかってくる。池之宮が滑り込み、セカンドの卜部先輩がタッチする。判定は…。
セーフ!!
ギリギリの差でセーフ。あぶなかった。野球にはこういう怖いところもある。でもそれがあるからこそ面白いのだと思う。やっている方の身になってみれば精神を削るようなものだけれども。




