第七話 第四十一部 意地の答え
亜弓「あっ!」
友亀「ライト! 府中先輩!」
私は思わず声を上げた。打球が右中間へと飛んでいく。打たれた。変化球を待たれていたんだ。今の状況が私には理解できなかった。いままでしっかり抑えられていたのが急にここに来て打たれる…。スタミナが足りないのが理由なのだろうか。それとも…。
ポーン
星田「しゃああああ!!」
友亀「バックセカン! ファーストランナーはホームにはかえれないぞ!」
私はただその場を立ち尽くすことしか出来なかった。自分の仕事をわすれるほどショックだった。
友亀「日高! まだインプレー中だ! カバー入れ!」
亜弓「あ、…あぁ。」
あきらかに誰にも聞こえない声で返事をした。これ以上の声が出せない。くやしさと悲しさが交じり合って…。
高橋「ナイスバッティング!」
矢沢「さすがキャプテン!」
相手チームはニコニコとしている。あのバッターはガッツポーズまでとっている。5対2。点差では勝っているけれども…私はそれ以上に0点で抑えたかった。
友亀「タイムお願いします。」
タイム!!
そしてボールがかえってくると友亀がタイムをかけて内野手をマウンドに集めた。
友亀「大丈夫だ。ここから抑えれば問題ないよ。」
亜弓「わかってる…。けど…悔しいの。」
新天「そりゃくやしいよ。ここまで0点で抑えてきたんだから。」
亜弓「ごめんなさい…。三振を奪いたいとあせった私が…。」
友亀「いや、リードしたのは俺だ。サインも変化球に逃げてしまったし。」
私たちが落ち込んでいると外野から走ってくる音が聞こえた。私たちが音のする方をみると由紀がいた。
由紀「自分の考えを曲げちゃだめだよ。亜弓は三振が気持ちよくて投げているんでしょ? だったらあきらめないで三振をとろうと意識しよう。後ろ向きになっちゃダメっ!」
そういって由紀はグローブで私の胸をぽんとたたいた。
由紀「わかった?」
その言葉には由紀の気持ちが一杯つまっていた。期待、勇気、そして力を。私は声には出せなかったが頑張って表情を変えてうんとうなずいた。すると内野の皆も友亀も、由紀とともに戻っていった。弱気になってはだめだ。自信を持って。私はこの縛られている気持ちから脱出するためも含めて投げている。その前に…私が皆に最高のピッチングを見せなければ!
ランナーは二・三塁でバッターは四番の石井。友亀からのサインは来ない。ただ、ミットで「ここに来い!」と訴えかけているようにドッシリと構えている。私もそれに答えるようにミットめがけて思い切り投げる。
亜弓「っらあああ!」
シュゴオオオオオ
ズバァアアアアアン ピッ140キロ
ストライクワン!
友亀「よっしゃ! ナイスボール!」
由紀「その球だよ!」
石井「(まだここに来てこんな球投げるか。)」
よし、まだ構えたところに投げれるじゃないか。もう一度っ!
シュゴオオオオオオオ
ブン ズバーーーーーン!
ストライクツウ!
空振り。あの時と同じ、振り遅れの空振り。私の球はまだ生きている。通用する! 私はここで決めると思い。ワインドアップに変えた。
石井「(決めにくるか。三振になってたまるか!)」
友亀「(さぁここに来い!)」
全体重をボールに伝えて、体の力を集中し、あのミットめがけて…。ありったけの力を!
亜弓「らああ!」
シュゴオオオオオオオオ
石井「(ド真ん中!)」
ブン! ズドオオオオオオオオン! ピッ143キロ
ストライクバッターアウト!!
亜弓「しゃああああああああ!!!!」
男のような声を出して叫んだ。グラウンドや味方ベンチ、スタンドから大きな歓声が沸きあがった。




