第三話 第一部 試合開始
私たちは先攻だ。私は試合が始まる直前に友亀に相手チームのオーダー表を見せてもらって、注意する選手を教えてもらった。まずキャプテンでキャッチャー、三番の府中戸井先輩。一番バッティングセンスが優れていて、守備も上手い。そして一番のまとめ役として活躍してる人らしい。ほかにもセカンドの卜部康吾先輩とショートの栗山剛史先輩。二人の守備はチーム内で鉄壁と呼ばれているぐらいすごいらしい。打撃に関しても足が速いとの話だ。さらには圧倒的パワーが持ち味といわれてる中山亨先輩。そして先発の芦毛和歌屋先輩。スクリューボールがすばらしいらしい。こんなにすごい先輩たちを相手に私たちは試合をするのだ…。私の球は何処まで通用するのだろう…。
「プレイボール!」
試合が始まった。一番は米倉、この学校のエースに何処まで攻められるのだろう…。
芦毛はセットポジションから大きなステップで投げた。
パシン
「ストライク!」
スリークォーターから力強く投げたストレートはインハイに入った。球は走っているように見えるので、調子はよさそうだ。早いテンポで投げた。
バシン
「ボール。」
今度はアウトローにストレート。きわどい感じだがあのコースはボールらしい。
米倉「よし…、次で打つ!」
そう米倉が言うと、ベンチ内からは皆が「いけいけー!」と声をかけていた。今日知ったばかりのチームメートなのにもうまとまっている。すごい…。
そして三球目。
キーン!
低めに入ったストレートをたたいた打球は三遊間へ。
「よし、ぬけろ!」
ベンチにいた私たちはいっせいに立ち上がって声を上げた。
「うおっ。」
サードが飛びつくが届かずボールは後ろへ。
「ナイスバッティング! 米倉!」
レフト前ヒット。先輩たちを相手にいきなりヒットを打った。本当に今年の一年はすごい人ばかりだ…。
「さーて、盗塁かバント、どっちかな。」
海鳳がヘルメットをかぶりながら言った。米倉は足が速いと聞いたので、足を絡めた作戦をしてくるだろう。二番は沖田。どんな攻め方をするのだろう。私の予想だが、中学時代も一番と二番は二人だったらしいので、そのときに良くやった戦法をしてくるだろう。
芦毛が足を上げると同時に米倉が走った。
コツン
沖田はサードに絶妙なバントをした。二塁には間に合わないのでサードはファーストに送球した。その時、
府中「ファースト!とったら三塁に向かって投げろ!」
府中先輩が指示をした。米倉はサードが投げたのを確認しながら三塁に向かって走っていった。
パシン アウト!
沖田はアウトになりファーストは三塁に投げようとしたが、投げれず。ショートが三塁のベースカバーに入っていたが、そのころには米倉は三塁に到達していた。二人はこれを狙っていたのだ。
「ナイスバント! ナイスランナー!」
これでワンアウト三塁、サードランナーは米倉で、バッターは海鳳。これなら確実に一点は取れるだろう。
「池之宮!俺が一転とったるから、うしろはまかせたぜ!」
海鳳が池之宮に叫んだ。
「はいはい。」
池之宮は落ち着いて返事を返した。
海鳳は左バッターボックスに入った。ライトを守っている先輩が下がった。海鳳がゆっくりと構えた時、私はあることに気づいた。
「…バッティングフォームが練習のときと違う。」
私は思わず口に出した。先ほどまでバットをねかせて構えていたのが、今ではバットのヘッドを右バッターボックスに軽く向けるぐらいバットを立てている。しかも腕もゆったりとして、胸の前においている。これは…神主打法だろうか?しかも海鳳から不思議な雰囲気を感じる。ピッチャーの芦毛先輩も解放に集中している。まるでサードランナーがいないかのように。ピッチャーが全力で投げた。
グググッ パシーン ストライク!
低めに決まる良い球だ。しかも、ものすごい曲がるスクリューを使ってきた。あんな球を打てるのだろうか?
ククッ パシン
こんどはボール球。しかし全く同じ速さでカーブを投げてきた。これではカーブかスクリューかを見分けるのも大変そうだ。しかし、そんな不安を打ち消すかのように海鳳は、
「よっしゃ。」
と声を上げ、自信満々な表情でゆったり構えた。打ちにいくのだろうか。
そして三球目
グググッ キーーーン!
あのシンカーをとらえた。響きの良い金属音が聞こえたころには打球はセンター方向へ。しかし、上がりすぎてるようにも見える。センターは深めに守っていたので、すでにフェンスの近くまで来ている。それでも打球は粘り強く伸びている。
「タッチアップだ!!」
海鳳が叫ぶ。米倉は急いでサードベースに戻る。入らないのか?よく見るとボールが落ちてくると同時に少しずつ打球に勢いがなくなってるように見える。海鳳が言ったとおり、センターが深い位置でとった。米倉はタッチアップする。もちろん余裕のホームインだ。あっという間に先取点をとった。いとも簡単にレギュラーチームから一点をとるなんて…。
「ナイス海鳳!」
ベンチからは喜びの声が聞こえてくる。しかし、
「どうせなら、ホームラン打てよ。」
池之宮が素振りをしながら、文句を言う。
「うっせえな。打てるならとっくに打っとるわ!」
この二人は仲が…悪いのだろうか? それともライバル心を持っているだけなのだろうか? そういっている間に、ツーアウトランナー無しで池之宮の出番が来た。
芦毛先輩は鋭い目つきをして全力で投げた。
キィーーン!バシーーン!
ものすごい金属音が聞こえたが、打球はショートの真正面。いくら打球が早くても真正面ではとられてしまう。これでスリーアウトチェンジとなった。
池之宮は悔しそうな顔をしながらベンチに戻ってきた。ドンマイとの声が聞こえてくるが、
「あれー?俺よりひどくないっすか?」
と海鳳はちょっかいを出すように近くに寄って言った。
「うっせ。」
と小さな声で言った。
もっと悔しがっているのは相手の芦毛先輩だろう。私たちの一年生チームにあんなに初回から打たれたのだから。…私も同じように二・三年生に打たれていくのだろうか…。




