第七話 第九部 風を切るごとき
初回からランナーが出た。しかも四番は海鳳。ここは確実にヒットを打っていきたい。相手投手はかなり戸惑っている。女子が初ヒットだからかもしれない。この間にドンドンと攻め立てれば流れに乗れる。
海鳳「(四番か。久々だな。今回は簡単には打たせてもらえなさそうだから様子見でいくか。)」
海鳳は必ず最初の打席は左に入る。そして本気で打つときは構えも違う。でも今は様子見のフォームだ。どうやって攻めていくのだろうか。投手はランナーを警戒している。しかし牽制はせずにクイックで投球フォームに入った。
伊沢「ゴー!」
ナイスタイミング伊沢! 声と同時に由紀が走った。もしかしてヒットエンドラン!?
シューー バシン!
いや、盗塁!?
佐藤「(なめるなっ!) らあぁ!」
シュッ
強肩のキャッチャーからセカンドに送球される。しかし由紀も速い速い。セカンドにボールが到達するとタッチプレーに入ろうとした。だけれども由紀はすでにベースに到着していた。
セーフ!
余裕のセーフだ。いままで足の速い人たちをみていても一人一人、雰囲気が違った。伊沢は韋駄天のごとき走りで、卜部先輩は地面の土が蹴り上がるような力強さ。そして由紀はセンスの塊と風を切るように走る。これだけ違うだけでも攻め方なんてものも変わっていく。さて、ここからの作戦は…。海鳳がかまえると由紀もリードをとる。ピッチャーはセカンドランナーに変わったことによって警戒は薄れ、バッターに集中し始めた。そしてピッチャーが足を上げる。
伊沢・杉地「ゴォ!」
ダッ
えっ!? まさかの三盗をするの!?
星田「んだとぉ!」
シュゴーー
速いストレートが投げられる。
海鳳「きた!」
ザッ
あっ、海鳳は踏み込んだ。打ちに行く!
キィイイイイイン!
佐藤「ショート!」
打球はショートの頭を超えそうな当たりだ! これは点が入るっ!
高橋「ぐっ…らぁあ!」
バチン!
あっ、グローブの先でボールを下に弾いた。そしてセカンドがすぐにボールの処理に向かった。
高橋「石井! 後は頼む!」
石井「まかせろ!」
セカンドが素手で握るとファーストに送球した。
バシーーン!
アウト!
スタンド「あぁああ!」
星田「ナイスショート! セカン!」
佐藤「よし、流れ断ち切ったぞ。」
綺麗な守備だった。そしてなによりもすごいのはあの連携だ。今の私たちにはアレが出来るかどうかは自信はあまりない。それだけ守備がすごい。
府中「さすがは守備の埼玉明治ってところか。日高! お前がしっかり投げれば相手に流れは持っていかれない。頼むぞ!」
亜弓「はい!」
私はグローブをパンパンと叩いて二回のマウンドへと向かっていった。




