第六話 第二十部 溜め込んでいたもの
由紀は静かな表情で仏壇に向かっていった。もしかしてここに写っているのは…。
由紀「たぶん感づいたと思うけど…。これはお父さんとお母さんの写真。」
亜弓「そんな…。」
言葉を失った。私の頭の中にあった由紀のイメージが雪崩れのように崩れ去っていった。これが現実なのだろうか。なにかバットで胸を殴られたかのように息が苦しい。こんなことって…。
由紀「私のお父さんとお母さんは…私の試合を見に行った後、事故にあったの。即死で…。私、そのときは本当にどうしようかと思ってた。」
由紀がどんどん涙声になっていく。
由紀「でもね…お父さんとお母さんにいつも言われてきたことを思い出したの。…いつでも笑顔になりなさい。楽しみなさい。って…。だめっ、お父さんとお母さんの前では泣かない…悲しい顔をしないって約束なのに…。うっ。ううううっ。」
由紀がそのまま泣き崩れてしまった。まるで最初に会ったときに由紀と私の立場が逆転したかのような感じだった。私は声をかけようとしたけれど何を言えばよいか分からなくなった。それに足が動いてくれない。声が出ない。何か締め付けられているような、縛られた意思がそこにあった。でも私は由紀を守らなくてはいけない。いつも守ってもらっているんだ。今度は私が助ける番だ。私は体に締め付けているものを振りほどいて由紀の真正面によった。そして由紀を抱きしめた。
亜弓「大丈夫、由紀のいつも優しくしてくれてるところをお父さんとお母さんは見てくれているよ。野球の試合だって見てくれているよ。いつでもそばにいてくれる。由紀はお母さんとお父さんがいなくて寂しいよね。一人ぼっちな気持ちになったと思う。だけど一人じゃないよ。お母さんとお父さんはいつだってそばにいるから。仲間だってたくさんいる。それに…私だっているから。」
由紀「亜弓……亜弓っ……!」
由紀が私の体を強く抱きしめた。私は由紀が泣きやむまもで抱きしめ続けた。




