宝箱
命、について考えてできた作品です。
人間は生を受けたその日から、神に与えられた心臓と言う名の針時計を回し始める。
――心臓は鍵穴がない宝箱だ。
短い運命、長い運命、時間の永さは神にしか操れない。
「この時間が止まってくれたなら」
と、幸せを手放したくない時もあるだろう。
「もし過去に戻れたなら」
と、歯痒さを感じて時に切願するときもあるだろう。
人間は、時の渦に巻き込まれながら時間の尊さを学ぶのだ。
けれど、時に歯車は狂うこともある。
「もっと生きたい」
その想いは宝箱を輝かせ、神が時間を長くすることもあるだろう。
「宝箱を奪ってしまった」
その悪行は宝箱を石化させ、神が時間を短くすることもだろう。
「なあ、俺の話聞いてんの?」
時間の本を片手に熱弁していた友達が、怪訝な表情で睨んできた。
「はいはい、時間ってマジすげえな」
俺は欠伸交じりに返事をする。正直、授業が始まる前に堅苦しい話は止めてほしい。
「俺が言いてえのはさ! 『時間』って戻ったり先回りもしねえけど、自分の行い次第で長くなったり短くなったりすんだなってことなんだ!」
友達の弾む声に俺は目を瞠った。
「あ、ああ」
押されるように頷くと同時に、「起立!」と号令が響いた。授業が始まると友達は小声で、「続きはまたあとでな!」などと約束を取り付けてくる。
(次の休み時間も潰れたなこりゃ……)
俺は机に項垂れ、窓側の席と言う幸運を利用して空を見上げた。
時間は心臓の一部であって宝箱、か。
実際に「時間止まらねえかな」とは思ったことはあるものの、時間の尊さなんて考えたことがない。ましてや、脈打つ心臓が時を刻む針の音だなんて。
(たしかにこの一瞬も俺の時間だし、自分に与えられた時間を奪われるのは嫌だよな。奪うことも……したくねえ)
友達の熱弁は重みがあったと振り返り、次の休み時間は友達を増やして討論してみようかと俺は授業に向き直ったのだった。