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おまけ召喚 第四部 紅の女王の帰還  作者: 草野 瀬津璃
第十六幕 カザニフの地へ
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八十三章 再会 3



 その晩、宿屋ホワイトベルで、流衣は今か今かとディルの帰りを待っていた。

 イザベラからの使いが来たので、彼女と夕食をとってから戻るのは分かっていたが、実際のところをディルから聞きたい。


「ディル、お帰り! どうだった?」


 窓からディルの姿を見つけ、玄関に駆け付けた。後ろから、リドもひょうひょうとした足取りで追いつく。オルクスが流衣の肩の上で、ふわふわの胸をそらせた。


「間違いなく上手くいきましたよ、坊ちゃん!」

「どうして許してもらえたことが分かったんだ?」


 話す前にオルクスが断言したので、ディルがぎょっと息をのむ。


「愛のオーラが隠せていませン」

「愛の! オーラ!」


 顔を赤くしたディルが(ひざ)から崩れ落ちた。


「わあ……」

「それは恥ずかしいやつだな」


 流衣が言わずにおいたことを、リドがあっさりと口にする。


「なんじゃ、つまりプロポーズが成功したのか?」


 サーシャとともに、アルモニカが薄暗い廊下にひょこりと顔を出す。くあっとあくびする様子は猫みたいだ。眠たげに目をこしこしとこすっている。


「アル、疲れてるなら先に寝たらいいのに」

「こんな面白いことを見逃すとでも?」


 皮肉っぽい言い方だが、アルモニカなりにディルを心配しているのだろうと、流衣はなんとなく理解した。


「謝罪して、許してもらえた。だが、一年しか待たないから、早く士官して結婚しようと言われてしまったよ」

「それを女に言わせるとは、おぬし、最低じゃな」

「アル! しーっ」


 毒舌がききすぎだと、流衣は慌てて止めに入る。


「なんと言われようと、命の恩人でもある友人がどうなるか見届けるぞ。カザニフまで同行する!」

「うわあ、早くカザニフに行かないと、ディルが結婚できなくなっちゃうのか。責任重大だ……」

「ディル、ルイが気に病むから、適当に切り上げて帰れよ。それこそ恩人に失礼だろ」


 深刻な顔になる流衣を気にして、リドがまともなことを言った。


「リド、貴様は本当にルイに甘いな……」

「俺としても? ここまで大恋愛してる友人が、振られるのを見るのはちょっとな」


 愛のオーラとつぶやいて、リドはぷぷっと笑う。


「だ、大恋愛……?」


 リドの馬鹿にした笑いよりも、ディルはそのことに衝撃を受けてよろめいた。


「これが大恋愛じゃなくてなんなのさ」


 流衣は首を傾げ、とどめになったディルは頭を抱える。


「そんな風に見えているのか! 恥ずかしい!」

「わ~、本人だけが知らないやつじゃないか。面白い」


 エルナーまで廊下に現れ、パチパチと拍手する。


「話が済んだんなら、そろそろ休みなよ。明日は早いんでしょ」


 エルナーは大人の顔をして、流衣達に寝床に入るようにうながす。

 ディルがどうなったか分かり、流衣は急に眠気を覚えた。


「ふわあ、そうだね、おやすみ」


 さいわい、カザニフは王都から南西の方角にある、ルマルディー王国内にある神殿の自治領だ。人気の巡礼路なこともあって、道も整備されているし、乗り合い馬車も豊富だという。

 今度こそ帰る手がかりを得られるかもという期待と、女神が言うように利用されるかもしれない不安を抱え、流衣はカザニフに思いをはせた。


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