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おまけ召喚 第四部 紅の女王の帰還  作者: 草野 瀬津璃
第十六幕 カザニフの地へ
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八十三章 再会 1

 


 ひらひらと粉雪が降ってくる。

 辺り一面、真っ白だ。

 アカデミアタウンを囲む壁の前で、流衣はディルにエールを送る。


「それじゃあ、僕らは宿をとっておくから、ディル、がんばってきてね」

「男を決めてこいよ!」


 リドがディルの背中を叩き、ディルはむすっとして返す。


「プロポーズをするわけではないぞ! 謝罪だ!」

「お前な、好きなら告白くらいしてこいよ。情けない奴だな」

「う、る、さ、い!」


 ディルは肩を怒らせ、アカデミアタウンへ入っていった。


「リドってば、あんまり言っちゃ駄目だよ」

「そうじゃ、兄貴。ああいう(やから)は、意識すると失敗する」


 流衣とアルモニカの言葉に、セトとオルクス、サーシャがうんうんと頷いた。その一方で、同行しているエルナーは、物珍しげに周りを見ている。


「ここが有名な学生の町かあ。僕、アカデミアタウンに来たのは初めてだよ。今日はここに泊まるんだろ。観光してきていい?」


 エルナーはアルビノなので、日差しに弱いそうだ。素肌をさらさないように服をしっかり着込み、白い髪と紅茶のような目をフードで隠している。

 はかなげな外見のせいか、単独行動で大丈夫なのかなと流衣は不安になった。


「一人で大丈夫か? 私が案内しようか」


 セトも心配したようで、そう気をきかせた。それをエルナーは笑顔で断る。


「大丈夫だよ、灰色のセト。(のろ)いのせいで不老になっていただけで、見た目より年齢は上だから。紳士的な人だね、ありがとう」


 スマートにお礼を言って、エルナーはディルの足跡を踏むようにして、アカデミアタウンのほうへ歩いていく。

 白いマントが雪にかすんで消えてしまいそうに見えた。


「それでも、私より年下だろうが……」


 セトはぽつりとこぼす。

 エルナーは見た目こそ十六歳くらいだが、実際は二十二歳だ。やっと呪いが解けたから、これからは普通に老いていくのだろう。


「セトさん、エルナー君のこと、知ってるんですか?」

「〈霧の魔女〉の息子だろ。あの魔女は〈塔〉の幹部で、エルナーは対闇魔法使いでの働きで有名だ。親子そろって、天才魔法使いだよ」

「へえ、そんなに有名なんですか」


 魔法使い事情は、いまいちピンとこない。


「ルイ、君の魔力の多さに追随できるとしたら、彼くらいだよ。君の場合、技量がまだまだだからな。天才的なセンスを持つエルナーを相手にしたら、あちらの魔力量が少なくても、君は負けるだろう」

「そもそも喧嘩したくないですよ」

「はは、そうだな。ルイは戦う前に逃げるだろうな」


 セトが笑い出し、流衣はなんとも言えない気分になる。


「素晴らしい魔力を持つ魔法使いなのに、なぜか弱く見えるのが不思議だ。性格か?」

「性格だろうな」

『坊ちゃんは優しいですから』


 リドが頷いて、オルクスはなぐさめるように言った。


「ははは……」


 平和なほうが好きなので、まあいいかと、流衣は笑っておいた。




「おじさん……!」


 宿屋ホワイトベルに近付くと、ナゼルが薄着で飛び出してきた。そのままセトへ飛びつく。


「うおっ! 転ぶだろうが!」


 凍りついた地面で転びかけたものの、セトはナゼルを受け止め、なんとか踏ん張る。


「生きてたー! よかったー!」


 ナゼルはわんわん泣いて、セトの無事を喜ぶ。

 青の山脈に行くと聞いて、セトを止めようと泣いていた姿を思い出した。セトは困り果てた顔をしながらも、ナゼルの好意には照れくさそうにしている。


「心配してくれてありがとう。だが、ほら、言った通り、無事だっただろう? 中に入ろう。風邪を引くぞ」


 グズグズと泣いているナゼルの背を、セトが優しく押して、宿のほうへ誘導する。


「僕、言い付け守ってたからね。勉強もしたし、おじさんの家の掃除もしたよ。洗濯物をためこむのはどうかと思う」

「うっ、それはすまない」


 手厳しいナゼルの言葉に、セトは苦笑いを返した。急な旅立ちだったので、洗濯まで手が回らなかっただろうと、流衣にも予想がつく。

 宿の出口では、ほっそりした女性がにこにこして立っている。顔立ちは平凡なのだが、雰囲気が優しく、草むらにのぞく清楚な野花を思わせる人だ。宿の女主人で、ナゼルの母親シフォーネだ。


「セトさん、お帰りなさい。ナゼルがごめんなさいね」

「いや、いいんですよ。ははは。ええと、ただいま戻りました。とはいえ、明日には旅立つのですがね」

「そうなんですか? でしたら、今日はごちそうを用意しないといけませんね。食べていかれるでしょう?」

「それはありがたい。ははは」


 むやみに笑いながら、セトは照れて顔を赤くしている。

 どう見てもシフォーネに気があるので、流衣達の目は微笑ましいものになった。

 シフォーネは準備をすると言って、楽しそうに宿に戻っていく。


「ええーっ、明日には出かけるの? もっといてよー! 学園の仕事はいいの?」


 ナゼルは不満たらたらで、セトの腕を引っ張ってさいそくしている。


「女王陛下の王都奪還の手伝いまでしてきたんだぞ。校長も怒りはしないさ。ルイ達がカザニフに行くというから、旅の最後まで付き合うことにした」

「王都……だっかん? うーん、何それ。今日はたくさんお話してよね! それと、ルイ。あんまりおじさんを引っ張り回さないでよね!」

「引っ張ってるのは、お前だろう、ナゼル。転ぶからやめなさい」


 ナゼルが手を引くので、セトは困り顔をして、最終的にはナゼルを抱え上げ、左腕に座らせた。普段から重い鉄製の杖を持っているあたり、腕力はあるらしい。


「少しは成長したか? 変な客は来ていないだろうな」

「そんな心配するなら、早く母さんと結婚してよ!」

「ぐっ。落とすぞ!」


 セトはしかめ面をし、宿のほうへ歩いていく。


「私は自宅に戻るから、上着を取っておいで」

「先にお茶にしようよ。僕、お茶を()れるの上達したんだよ!」

「そうかそうか、それは素晴らしい」


 どう見ても親子にしか見えないのだが、二人に血のつながりはない。

 リドがぼやく。


「すっかり俺らをよその世界に追いやってるな、あいつら」

「幸せそうだから、いいんじゃないかな」


 流衣は苦笑を浮かべ、ナゼルににらまれないうちに、部屋に入ってしまおうと決めた。




 久しぶりの更新です。五か月ぶり…? すみませんね; 他の作品もあわせて、ぼちぼち書きます。

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